4.2

 この屋敷の主人であるエドバルド侯爵は女性である。

 年齢は22歳。名前はアリシア・フォン・エドバルド。19歳の時に、父である前エドバルド侯爵が病気で亡くなって爵位を継いだ。

 パブロ王国では成人年齢は20歳である。国王家が開く公式行事も、出席は20歳以上とされている。

 前エドバルド侯爵は、一人娘であるアリシアの写真などを、成人までメディアには公表しないとしていた。

 自身もメディアなどに取り上げられることを苦手としており、生前は数えるほどしか公式の場に出ていない。

 その娘であるアリシアも、父親と同じ性格かもしれなかった。

 やがてアリシアは20歳の誕生日を迎えたが、当時大学に在籍していて彼女は、勉学にいそしみたいという理由をつけて、王国の公式行事に出席しなかったのだ。

 しかし、だからと言って、特に何か批判のような声は出なかった。

 所詮、ロイヤルファミリーであれば世間の関心も高いが、今や辺境地域の一貴族でしかないエドバルド家の当主への注目度など、この程度なのである。

 よって、いまだにアリシア・フォン・エドバルド侯爵の顔も性格も、公にはわかっていない。

 だが、そんなエドバルド侯爵も、今年の春に大学を卒業した。以前の言い逃れはもう通用しない状況である。

 国王家は、この国で最も重要な公式行事を、半年後に開催するとしていた。これの決定がなされたのは、今から9か月前のことだ。

 これまで公の場に出るのを避けていたエドバルト公爵も、この公式行事に出席せざるを得ない状況で、これは事の次第によっては、王国内を揺るがす鮮烈なデビューとなる可能性があった。本人の意思に関係なくである。

 カロルは、エドバルド侯爵に直接会いたかった。それには畑を耕すくらい何でもないことだ。

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