3.3

 そんなことを考えていると、ドアがノックされて、シンプルなスーツに着替えたクレアが入ってきた。

「侯爵がお帰りになるまでかなりの時間がありますので、お屋敷の周辺をご案内します」

 カロルはこれを聞いてほっとした。やはり、夕方まで応接室にいなければいけないのは辛かった。

「その服装は不向きですので、作業服に着替えていただきます」

「作業服に?」

「着替えは別室でお願いします。ついてきてください」

 クレアはカロルを屋敷の中の、台所や洗濯室や倉庫などがあるスペースに案内した。玄関ホールや応接室のきらびやかさとは打って変わって、白い壁とグレーの床の簡素な空間である。

 お屋敷で働いている人達のためのロッカールームの前で、ジョフが待っていた。作業服と靴のサイズを教えて欲しいと言う。

「すみません。電話をお借りしたいんですが」

 カロルがそう言うと、台所の向かいの事務室らしい部屋に案内された。パソコンが乗っている机が二台あるだけの、小さな部屋だ。

「お電話が済みましたら、先程のロッカールームに来てください」

 ジョフがそう言って、部屋の扉を閉めた。クレアはどこかに行ってしまったらしい。

 カロルは自分の上司に電話をかけた。

「申し訳ありません。侯爵は夕方にならないとお戻りにならないそうです」

 カロルの上司は、カロルが遅刻したことを聞いても怒らなかった。

 ただ、ちょっとの間の後に、こう言った。

「ディルとプリスから報告があったよ。花の手配は、どちらも上手くいかなかったそうだ」

「それは…」

「仕方のないことだ。君にも手伝ってもらいたいが、無理はしなくていい」

「分かりました」

 電話を切った後、カロルはちょっとため息をついた。

 しかし、すぐにその部屋を出て、ロッカールームに向かった。


・・・

「今の電話、何か別の意味があると思う?」

「何とも言えません。単に王宮に飾る花のことかもしれませんし…」

「事務室を出た。私はもう行くから」

・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る