3.2

 理不尽さを胸に抱えつつも、窓の外の景色を眺めていると、雑木林の丘をぐるりとまわったところに広がっていた風景は、一面の果樹園だった。

「これは…、葡萄ですか?」

 カロルは思わず歓声をあげた。侯爵家はワイナリーを所有しているのだ。

「はい。あちらにはリンゴ畑と、奥には馬と羊の牧場もございます」

「素晴らしい眺めですね」

 侯爵家の屋敷は、もうひとつ丘を越えたところに建っていた。

 1600年代に建設されたどっしりとした城塞で、昔は外部からの敵襲があった時は、村に住む領民もこの城の中に逃げ込んで難を逃れ、また領主と共に戦ったという。

 現在に至るまでに何度も改修されているが、基本的な外観はさほど変わっていないと言われている。

「お屋敷には電気や水道は通っていますが、王宮と比べると不便に感じるかもしれません」

 ジョフの口調は、クレアと比べるとかなり柔らかかった。

 車から降ろされたカロルは、玄関の横の応接室に通された。

 侯爵家の屋敷は、内装も素晴らしかった。ワインレッドの絨毯と重厚な木製の家具。天井から下がる豪華なシャンデリアに、壁に掛けられた数々の絵画…。

 だが、先程のクレアの言葉通りなのか、カロルのもとにはお茶も運ばれてこない。

 カロル自身はお茶はどうでもいいのだが、夕方まで待たなければならないなら、トイレも借りることになるだろうし、腹も減るだろう。今はまだ大丈夫だが。

 それに、予定通りの時刻に帰れないことを、上司に連絡する必要もあった。スマホはここでも繋がらないので、この屋敷の電話を借りなければいけない。

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