3.1
カロルは現在25歳で、パブロ王国の王宮に就職して、今年で4年目になる。
領地など自宅の土地の分しか持っていないような男爵家(ご先祖さまの時代はもっと広い領地を持っていたと、現男爵である祖父は主張している)の第三子で、カロルに爵位が回ってくる可能性はほとんどない。
それで採用試験を受けて、王宮職員に就職したのだ。最も、爵位を持っていても、現代ではほとんどの者が生活のために働いているが。
「いいでしょう。ただし、歓待されるとは思わないでください。予定外の来客は、警備の者やメイドの負担になります。ましてや長居されるとなると…」
そこまで言われると、カロルはうなだれるしかなかった。
侯爵の屋敷に移動する時は、ジョフがカロルの車を運転した。セキュリティの一環だという。
後部座席に座って窓の外を見ていたカロルは、侯爵の屋敷を指し示す、小さな木製の道案内板を見て不審に思った。
(あれ?)
「あの案内板…」
そこはY字路で、道案内板に描いてある矢印は、右の道を行くと侯爵の屋敷に行くことを示していたが、ジョフは左の道に入ったのだ。
「こちらの道でいいんですか?あそこの案内板は右の道を指していましたが」
「こちらで間違いありません。さっきの案内板は…、一度倒れて、誰かがいい加減にさしたのかもしれませんね」
「…」
カロルはさっき道に迷って、二度も元来た場所に戻るという体験をしていた。
(迷った原因は、あの案内板だ…)
それなら自分の落ち度ではない。
侯爵の屋敷の敷地の中の道路は、当然だが本屋で買った地図には詳しく書かれていない。カーナビももちろん使えない。スマホも繋がらないから、侯爵家に連絡もできなかった。
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