2.2

 カロルは王宮の事務職員の制服を着ていた。チャコールグレーのスーツで、襟元には王家の紋章のピンバッジを付けている。

 車は王宮御用達の仕様で、グレードがちょっと下のランクの職員用のものだが、それでも高級車の部類に入る。ナンバーも王宮所属を表す数字だ。

「私がお屋敷に行って、ご案内して良いか伺ってきましょう」

 男性はそう言うと、カロルがうんと言うのも待たずに、軽トラで行ってしまった。

 路上にそのまま取り残されたカロルだが、10分ほどで男性の軽トラが戻ってきたのでほっとした。

 軽トラの助手席には、20代前半くらいの女性が乗っていた。やや赤みがかった茶色の髪と、ブラウンの瞳をしている。

 軽トラでやって来た男性はジョフ、助手席に乗ってきた女性はクレアと名乗った。二人とも侯爵の屋敷で働いているという。

「侯爵家によると、王宮から使者が来るのは10時だったそうですね。30分の遅刻です」

 汚れた作業服姿のクレアが、真正面からカロルを見据えて言った。

「国王家からの使者であろうと、遅刻は許されません。定刻通りにいらっしゃっていれば、案内の者が正面門で待っていました」

 カロルは慌てて弁解した。

「申し訳ありません。道に迷ってしまって…」

(でも、正面門に人なんかいたかな?僕が道に迷ったのは門の中に入ってからで、正面門には約束の時間の10分前には着いてたんだけど…)

「侯爵はもう外出なさいました。お帰りは夕方以降です。今日はお帰りになられたほうがよろしいかと」

「も、もしもよろしければ、待たせていただきたいのですが…」

 クレアの冷たい物言いに、カロルはすっかり怖気づいていた。

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