2.1

「あれ?また元のところに戻ったぞ??」

 カロルは自分が運転する黒塗りの車から降りて、辺りを見回した。

 ここはすでにエドバルド侯爵の屋敷の敷地の中だった。

 さっき通った石造りの正面門からお屋敷までは約300メートルのはずだが、地形がいりくんでいるせいで、お屋敷の姿はまだ見えてこない。

 カロルは、ため息とともに、ほんの少しだけネクタイを緩めた。

「スマホは繋がらないし…。う~ん、どうしよう」

 紙の地図を見ながらブツブツ言っていると、後ろから軽トラックがやってきた。侯爵家の関係者に違いない。

 カロルは軽トラに向かって大きく両手を振った。

「すみませ~ん。侯爵様のお屋敷に行きたいんですが」

「お屋敷に?」

 停車した軽トラから降りてきたのは、背の高い作業服姿の男性だった。年齢は20代半ばくらいで、カロルよりもやや年上だろうか。心なしか眉をしかめているように見える。

「お屋敷に何かご用ですか」

「私はパブロ国王家からの伝令で…」

 男性の目が、ぎろりとカロルを見た。

「セキュリティの関係で、不用意に誰かをお屋敷に案内することは控えるように言われています。外部からいらっしゃるお客様には、侯爵家のほうから迎えの者を出すはずですが」

 カロルはこれを聞いて慌てた。そんなことは誰も言ってなかったぞ。

「えっ、そ、そうなんですか?私は本当に王宮の職員で…」

 男性は、カロルとカロルが乗ってきた車をジロジロ見た。

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