第5話 バイト

「夜見君、おはようございます」


「おお!綾崎!おはよう」


綾崎ぶっ倒れ事件の次の日、俺は教室で綾崎に挨拶されたので挨拶を返す。俺と綾崎は普通の友達って事で良いのだろうか。


昨日、綾崎が綺麗に華麗にぶっ倒れた後、すぐに起き上がったので俺が奢って解散した。救急車を呼ぼうとしたが起きた綾崎は大丈夫と言って聞かなかった。無事だったからいいんだけど目の前でぶっ倒れられたらかなりビビる。


「夜見くーん?お前如きがなぜあの王女様と親しくなっているのかなぁ?」


俺と仲の良いクラスメイトが肩を掴んでくる。


「鬼ごっこしようぜ!!鬼はお前以外の全校生徒、捕まったら即死な!」


別のクラスメイトから何か感じ取ったことのない気配がする。これが殺気と言うやつか。綾崎の人気はやはり凄まじく挨拶をしただけで命の危険に晒される。殺人が罪では無かったらもう100回は確実に殺されてるな。


「お前ら挨拶しただけで嫉妬し過ぎ。お前ら馬鹿共も挨拶ぐらいはするだろ」


そう、俺はクズだ。皆の前ではクズなんだ。最近綾崎にクズではないことがバレてからクズ発言が少なかったのでここで一度投下しておく。


「おいお前煽ってんのかぁ?俺等なんて王女様の眼中に無いぞ!!顔と頭が良いからって調子に乗りやがって!!」


「頭は良いけど顔は良くねえだろ。だったら何でこんなに女子から嫌われてんだよ」


はい論破。よって俺は顔が良くない。まじで産まれるならイケメンが良かった。


「くそっ!この無自覚イケメンめ!!」


そんな会話をしていたら綾崎がこっちに向かって来た。何かあったのだろうか?


「夜見君ができればでいいんだけど放課後一緒に勉強しない?」


そんな事、もう答えは決まっている。俺は体の向きを変えゆっくりと綾崎を見た。


「やだ」


「えぇ!!」


俺の即答に綾崎は驚く。なんで嫌な勉強をしないといけないんだ。流石に根はクズじゃない俺でも勉強に付き合う気はない。だって昔狂ったように勉強していてもう飽きたし。


「そっか、ごめんね。じゃあまたね」


綾崎がそう言って去って行こうとしたその時、俺の後ろから声がした。


「どういうつもりだゴラァ!!!」


「うわっ!耳元で叫ぶなうるさい」


何故か友達がブチ切れてるんだが。結構迫力があって怖い。綾崎もビクッ!!ってなってたし。でもちょっと小動物みたいで可愛かったな。


「あの王女様に勉強のお誘いを受けたんだぞ!!絶対行け!!お前に拒否権などない!」


こいつ面倒くせぇ!!


「勉強は2人でやるよりも1人のほうが集中してできるから俺がいたら綾崎の迷惑になるし、もう勉強はできるだけしたくねえんだよ」


「私の事を考えてのことだったんですね」


「そうそう、俺今日バイトだしすまんな」


俺がそう言うと綾崎は失礼しましたと言って去って行った。っていうか何であいつあんなに綾崎と勉強させようとしてきたんだろ?


「チッ!!お前と夜見の勉強会に俺も混ぜてもらおうと思ったのにっ!!俺も綾崎と話したいよー!!」


こいつクズを演じているときの俺よりクズだろ。


「そんなんじゃ彼女に振られるぞ。って言うか早く振られろ」


今日一日で綾崎と俺が付き合っているかもという噂が広まった。



――――――――

俺は放課後、週1でケーキ屋のバイトをしている。身バレした原因のケーキ屋さんとはまた別のところだ。このバイトはよくまかないを貰えるところがとても良い。


「店長さん、こんにちは!」


「夜見か!ちょっとこの新作ケーキ試食してけ!」


店長さんは見た目はヤクザだけど中身は凄く優しい人だ。店長さんの作るケーキは絶品でどれも全て美味しい。


「店長、夜見君、久しぶりー!」


「あっ先輩!こんにちは」


「お前もこのケーキ試食するか?」


この人は涼風さん。俺がこのバイトを始める前からいた先輩だ。最近は大学のレポートが忙しかったらしくしばらくは来ていなかったが今日からまた来るようだ。


「夜見君に会いたかったから早く来たよー!」


「冗談は良いですから早く着替えてください」


「えー!ほんとなのにー」


先輩は笑いながらそう言ってくる。バイトを始めた最初の方は対応に困っていたが今では簡単に受け流すことが出来る。着替えてきた先輩と2人でカウンターの前で立つ。この時間帯はお客さんがあまり来ないので雑談し放題だ。


「最近高校どう?3ヶ月位たったしもう慣れた?」


先輩から話を振ってくる。


「そうですね。学校自体は慣れたんですが最近ちょっとイレギュラーなことが起こりまして」


そう、綾崎のことである。


「それってどんな?」


「なんか俺が学校1美人と言われてる人と付き合っているという噂が流れちゃったんですよ」


本当のことを言う。実際結構困っていた。知らんやつから声掛けられるわ、喧嘩売られるわ、王女様ファンクラブを名乗る奴らに襲われかけるわ散々だった。


「よくそういう噂立てられるよねー。でも大丈夫!何故なら私はその攻略法を知っているのだ!!」


攻略法だって!?それさえ分かればもう命が狙われずに済む!!



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