第4話 勧誘
昼休み、俺はいつもの場所で零と弁当を食べていた。
「終わった、俺の合宿...あっ!そうかこれは夢なんだ!朝起きたら学校行くの面倒くさいなぁとか何気ない事を考えながら朝ごはんと弁当を作り―――」
「そんな訳ねえだろ。正気に戻れ」
あまりの絶望に現実からバイバイしていたが途中で零から正論パンチをぶちかまされた。泣きそう。
「そうだ!綾崎ファン共にに超高値でペアになる権利を売ればいいんだ!!」
突然俺に舞い降りできたアイデアが天才的過ぎて震える。
「ペアは交換したり入れ替えたり出来ないらしいぞ」
天から差し掛かった希望の光は一瞬で絶望の雲に隠れて消えていった。
「俺も合宿で皆みたいに友達と一緒になって馬鹿なこと言ってワイワイしたかった」
「何でそんなに嫌なんだ?あの王女様とずっと二人きりだぞ!?仲良くなるチャンスなんだぞ!?」
落ち込んでいる俺に零は質問してきた。
「俺、綾崎にクズ演じてることバレたんだよな。あと普通に仲良い奴とペアになりたかった」
零にバレてしまったを言わない理由もないので単純にそう答える。
「えぇ!!バレちゃったのか!?」
「うん。しかも嘘が嫌いって言ってたから嫌われてると思う。もう休んじゃおうかな?」
冗談抜きで結構ガチ目に休みたい。
「おいおい、俺との約束を忘れたのか?写真交換しようぜって言ったよな?」
「うっ!そういえばそういう約束したような...」
「したようなじゃなくてしたんだよ。って言うわけで写真よろ」
気付かない間に自分で逃げ道を封じてしまっていたようだ。
「くっそー!こうなったら殆ど一人で行動してやる!!」
そう、綾崎とは一緒に居なければいけないが何かを話す必要もない。つまり一人で合宿を楽しめば良いのだ。
「景色のついでに綾崎の写真も頼む!」
「お前もう景色とかどうでも良くなってるじゃねえか!流石に盗撮はできないぞ!!」
そんな話をしていたら俺たちはすぐに弁当を食べ終わり教室に戻った。
――――――――
「本当に貴方馬鹿なんですか?私の中の記憶では頭は良いはずなんですけど」
そう言われ時間を開けず、すぐに謝る。
「本当にありがとうございましたっ!そして申し訳ありません」
俺は今喫茶店に綾崎と来ている。そして余りの不甲斐なさから本気で謝っていた。恥ずかしい。穴があったら入りたい。あの時、もっとちゃんとしていたら...
________
放課後、零はクラブがあると言っていたので今は俺一人で帰っている。
「ちょっとそこの君。最近不幸が続いたりしてるでしょ」
その途中でちょっと変なお姉さんに話しかけられた。俺が見た感じ、大体大学生位で手にはチラシみたいな紙を大量に抱えてる。
「なっ!!何でわかるんですか!?」
このどこか変なお姉さん、実は凄い人なのだろうか。
「ひと目見てすぐにわかりましたよ。ところで私の言う通りにしたらその不幸の連鎖を断ち切れるわよ」
「えっ!!ホントですか!何をしたら良いんですか?」
突然の大チャンス。これで合宿を楽しむことが出来る!!
「この紙に君の名前を書くだけよ。それだけですべての物事が上手く行くの」
そんな素晴らしい事があるのだろうか。俺は早速お姉さんからペンを借りて書こうとするが、
「ちょっと夜見君、何やってるの?」
後ろから掛けられた声に止められた。俺はその声が聞こえてきた方に顔を向ける。
「うわっ!!」
そこに居るのは綾崎だった。
「ねえ、その用紙、よく見た?」
綾崎にそう尋ねられる。
「え、まだだけど.......ってうわっ!!」
そこには『10万円のツボを買いますか?』と書かれていて滅茶苦茶小さい文字で契約内容がびっしり書かれていた。
「貴方騙されていますよ」
「あっ!!」
綾崎がそう俺に教えてくれた。確かに名前を書くだけで幸せになれる訳が無いな。
「逃げるよ夜見君!!」
俺は綾崎に手を引かれお姉さんが見えなくなるあたりまで走って逃げた。
________
「本当に貴方馬鹿なんですか?私の中の記憶では頭は良いはずなんですけど」
「本当にありがとうございましたっ!そして申し訳ありませんっ!!」
で、今現在綾崎と喫茶店に居て説教されてるわけ。
マジで恥ずかしい。
「今回は私が偶々通りかけたから良かったですが私が居なかったら危なかったんですからね」
「仰る通りでございます。言い返す言葉もありません」
綾崎が居なかったら自分は今どうなっていた事か。まじで感謝して...る..?あれ?でも綾崎が居なければ不幸だと感じて居なかった訳で...。そんなことを考えていたが綾崎の発言によって思考を遮られた。
「今日のお昼の時はごめんなさい。私も言い過ぎでした」
「急にどうしたんだよ?謝るな。怖いって!」
俺は綾崎が誤ってきて驚く。
「貴方にも貴方なりの考え方があるのですしね。私が勝手に悪だと決めつけてしまいました」
「あー、気にすんなよ。俺もみんなのことを騙してるんだし。ほらっ俺も助けてもらったし!せっかくペアになったんだったら仲良くしようぜ!な?」
綾崎がずっと頭を下げて来たので何とか落ち着かせる。あまり謝られたことがないから何て言ったら良いのかわからない。
「ではこれからよろしくお願いしますね、夜見さん」
「おうっ!これからよろしくな、綾崎」
合宿についての話をちょっとだけしたあと俺たちは解散することになった。
「お会計してきますね」
さり気なく綾崎が席を立とうとする。もしかして俺に奢るつもりなのだろうか。男としてはカッコつけたいし流石に女子には奢られたくない。
「大丈夫だよ。俺、バイトしてるしお金に困ったりしてないから」
そう言うと綾崎はピタッと止まった。
「おーい」
俺は不安になって声を掛ける。綾崎は2秒ぐらい止まった後にやっと口を開いた。
「バイトしてる何て嘘つかなくても良いですよ。バイトしてたら貴方の勉強時間が減ってしまうのではないですか。わかりますよ、あの点数、相当努力していますよね」
どうやら俺が家で滅茶苦茶勉強していると勘違いしてるらしい。
「いや、俺課題以外特に勉強とか何もやってないぞ」
綾崎の勘違いを訂正する。流石にもう勉強を頑張る元気も気力もない。
「あははー!そんな訳無いじゃないですか。私はテストであなたに勝つためにかなり勉強してるんですよ」
「もう中3からは自主的に勉強してないぞ」
綾崎の顔笑顔が消える。これもう今日で2回目だな。
「本気で言ってます?」
「ああ、こんな事で嘘はつかない」
「ああ、私の毎日の7時間の自主勉強時間は0時間の人にギリギリ勝てるぐらいなのです...ね...」
綾崎はそう言うとぶっ倒れた。
「綾崎っ!!おい大丈夫か!?返事しろ!!綾崎ー!!」
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