ショート劇場「子供にはあまり見せない方が良い童話」
タヌキング
鳥と泉
とある森の一軒家。
四歳の少年が庭先で倒れている青い小鳥を見つけた。
触れてみると小鳥は冷たくなっていて、幼い少年にも死んでいることが分かった。
「かわいそう。」
小鳥の死に涙を流す少年。生き物の死に様を見たことのない少年にとって、可愛い小鳥が死んでいるのは可哀想に思えて仕方なかった。
「そうだ、パパが言ってた。森の奥に【生命の泉】があって、そこに死んだ生き物を入れたら生き返ることがあるって。そこに行ってみよう。」
小鳥を両手で大事に持ち、少年は歩き出した。
確かに【生命の泉】に入れれば、生き物が生き返ることが稀にある。だがそんなの微かな可能性であるし、【生命の泉】に行くまでの道は一本道だが、大人でも音を上げる程に険しい道だ。とても年端も行かぬ子供にそこまで行くのは無理に思えた。
だが少年の決意は固く、茨の道や、ボロボロの吊り橋、薄気味悪い洞窟も、彼は転んだり切り傷を作り涙を流しながらも、両手に小鳥を大切に持ちながら前に進んだ。
そうして何時間も歩き続け、色とりどりの花が咲き乱れる花畑に辿り着いた。花畑には爽やかで気持ち良い風が吹いている。
「うわぁ、キレイだなぁ。」
少年は今までの苦労が報われた様な気分がして、ニッコリと笑顔になった。
少年の父の話では、この花畑の先に【生命の泉】があるらしい。少年は花を踏まないようにゆっくりと歩いて行く。暫く歩くと本当に大きな大きな泉があった。太陽の光が反射してキラキラと宝石みたいに輝いている。
「着いた、やっと着いたんだ。」
感嘆の声を上げる少年。子供心に、この泉には何か神秘的なモノがあるのを感じ取っていた。
「さぁ、小鳥さん。生き返って。」
両手で小鳥持ったまま、泉に浸す。
目を閉じて祈る少年。すると暫くするとチッチチと小鳥のさえずりが聞こえてきた。
少年が目を開けると小鳥が少年の周りを飛び回っている。
「よ、良かった。助かったんだ。」
見事、小鳥を生き返らせることに成功した少年。小鳥は少年の足元に着地し、感謝の言葉・・・ではなく、こんな事を言い始めた。
「やってくれたな。」
「えっ?」
小鳥に睨まれ、少年は意味が分からず呆然とする。その様子に小鳥はため息混じりに語り始めた。
「僕はもうこの世に絶望していたんだ。だから頭を木にぶつけて自殺したんだ。それなのに君は善意を押し付けで、理由も知らないのに僕を助けた。僕を助けて気持ちが良かったか?この偽善者!!」
「えっ?えっ?えっ?」
自分が何を言われているか、半分も分からない少年だったが、小鳥の自分の対する怒りだけは伝わってきてパニックに陥る。
「責任を取れ!!責任を取れ!!」
バタバタと羽を羽ばたかせ、けたたましく叫び立てる小鳥。その様子は狂気的で殺気に満ちていた。
「ご、ごめんなさい!!」
「責任を取れ!!責任を取れ!!責任を・・・」
小鳥がそこまで言いかけた時、少年はもう小鳥の声を聞きたくなくて、咄嗟に近くにあった石を掴んで、それを振り上げた。
"ボゴッ"
次の瞬間、生き返った筈の小鳥は頭から血を流して倒れており、少年の手には返り血の付いた石が握られていた。
「はぁ、はぁ・・・。」
少年は何が起こったか分からない。が、まだ意識のある小鳥が震える声でこう言った。
「そ、そう、それで良いんだ。」
その後、小鳥はゆっくりと目を閉じ息絶えた。
少年はそのまま膝から崩れ落ちて、先程、手に残る小鳥を殴りつけた嫌な感触に耐えきれなくなり嘔吐した。
相変わらず花畑には爽やかな気持ちの良い風が吹いていた。
ショート劇場「子供にはあまり見せない方が良い童話」 タヌキング @kibamusi
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