第575話 違和感はあった



 お城にゴルさんを連れて行くために、病院にやってきた私。

 病室にはゴルさんのお見舞い、リリアーナ先輩にコロニアちゃん、コーロランがいた。


 ゴルさんにお城に来てほしいとお願いしたわけだけど、なぜか不思議なものを見るような目で見られていた。


「やだもうゴルさんったら、そんな熱い視線……」


「向けてない。ごまかすなバカめ。

 ……リリアーナなんだその目は」


「いえ、別に」


 最近は、ゴルさんの見たことない表情をいっぱい見ることができる。

 ちょっと面白い。


「あの、エフィーちゃん……ゴル兄様はこんな状態だから、移動するのは難しいかなって」


 と、フォローするようにコロニアちゃんが指摘する。

 こんな状態、というゴルさんは、右腕を失い他にも傷を負った状態だ。

 右腕以外の傷は治ったとはいえ、失った部分から消耗したものはまだ完全には戻っていない。


 頭の包帯も、その中身は治っているんだとは思う。


「あー、そっか」


「そっかってお前な……」


「いや、ゴルさんのことだからなんだかんだ言ってももう飛び回れるくらいに元気になったのかなって」


「お前は俺をなんだと思っているんだ」


 回復魔術は、術師のレベルにもよるけどほとんどの怪我を治すことができる。

 けれど、欠損した部位は生やすことはできない。くっつけることは……わかんない。


 回復魔術でも回復できないほどの大怪我。元々回復魔術でも、傷は治っても失った体力や血は戻ってこないのだ。

 だから、休息が必要になる。


 腕を失うほどの重傷。ここまでの重傷患者はなかなかいない。

 今まで回復魔術が主流だったからこそ、ここまでの重症患者への対処が難しい……というのはあるんだろう。

 衰弱した体を回復させるのに、どれほどの療養が必要なのか。


「まあ、大げさなんだみんな。俺はもう、動くことに支障はないと思っている」


「だめですよ。大切なお体なんですから」


 ベッドから出ようとするゴルさんを、リリアーナ先輩が止めている。

 実際のところはわからないけど、ゴルさん本人はもう退院してもいいくらいの勢いだ。対して、周りがそれを許さない。


 この国の、第一王子……国王亡き後、その後を継ぐ立場にある。リリアーナ先輩の言うように、大切な体だ。

 一方で、自分が王族ではなくなったという認識をさせられている。この矛盾はいったい。


「この通りだ。リリアーナはもちろん、医師も大事を取って安静にしろと言っていてな」


「なるほど」


 しっかし、ここからゴルさんが動けないとなると……どうしたもんかな。

 イシャスの洗脳を解いて、混乱するかもしれない国民のみんなにゴルさんに呼びかけてもらう。これが良かったのだけど。


「ところでエランは、どうして兄上にお城に来てほしいと?」


 そこで、コーロランが私に問いかけてくる。

 あぁ、そう言えばまだ、お城に来てほしいってその理由を話していなかったっけ。


 向こうに着いてから話そうかとも思っていたけど……

 まあ、結局今話しても同じことか。


「実はね……」


 かくかくしかじかちょもらんま


 私は、これまでの経緯をかいつまんで説明する。

 みんな、黙って聞いてくれていた。いや、黙って聞いたと言うよりも……


「……なにをどう反応すればいいのか」


 反応の仕方が、わからなかったようだ。


「国民が洗脳されてて……」


「今新しく国王になっているのは他国の元王族で……」


「そいつを国王に据えた犯人を捕まえた……」


「洗脳を解いて混乱するであろう国民を、ゴルドーラ様の声で鎮めてほしい、と」


「そゆこと」


 四人とも、頭を抱えていた。

 ただ、その中でもゴルさんが正気に戻るのは、早かった。


「なるほど……道理で、違和感が消えなかったはずだ」


「違和感」


「父上……ザラハドーラ国王が死んだというのに、その後に王座に座っているのはまったく関係のない人物。

 そのことに、多少疑問はあれど問題には思っていなかった。いや、話を聞いた今でも、なにがおかしいのかと思ってしまっている」


 ゴルさんは、自分なりに違和感に気づいていた。でも、それは些細なもの……

 違和感を問題にはしないほどの影響力が、洗脳にはある。


 それに、あなたは洗脳されてますって言われてそれでもその事実を受け入れがたいみたいだ。


「まあ、話はわかった。そういうことならば、さっさと洗脳とやらを解いてもらったほうがいいな」


「ゴルさん、国王になりたいんだね」


「茶化すな。真実が捻じ曲げられた状態を良しとしていないだけだ」


 よし、ゴルさんの許可も取れた。

 あとは、どうやってゴルさんを連れて行くかだけど……


「って、別にゴルさんを連れて行く必要はないんだよね……」


 考えてみれば、ゴルさんを向こうに連れて行くんじゃなく、向こうから来てもらえば……

 あぁ、でもゴルさんがなにか発信するならお城からのほうが都合がいいのか。


「……そうだ!」


 うんうんと考えた結果、ここで私は、一つの案を思いつく。



 ――――――



「そういうわけで、ゴルさんたちを連れてきたよ」


「……なにをどうしたらそうなるんだ」


「いっぱいいルー」


 ゴルさん、コロニアちゃん、コーロラン。あの場にいた王族兄妹三人を連れてきた。

 それだけではない。リリアーナ先輩も一緒だ。


「先輩まで……」


「これで万事解決だよね!」


「……」


 私は、病室のみんなを丸ごと、お城へと連れてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る