第574話 行ったり来たり
シルフィ先輩のおかげで気を失った、イシャス。
それを、カッチガチに拘束しておく。さっきは、拘束が緩かったのかもしれない。
あと、不意をつかれたのもある。
どんな能力化は知らないけど、泥みたいになって逃げられたもんな。
泥みたいになる魔法なんて聞いたことがないし……エレガたちみたいに個別の能力でも持っているのかもしれない。
十中八九、あいつらの仲間だしね。
「さてと」
今度こそぎゅっと縛り、一安心。
今は気を失っているからいいとして、目が覚めたらまた逃げ出さないか気を這っておかないと。
「それで、こいつをどうするかだけど……」
「退屈しのぎというふざけた理由で、国中の人間を洗脳したんだ。さっさと処理してしまおう」
「物騒!」
処理……とは穏やかじゃないけど。それだけのことをこいつは、しているもんなぁ。
退屈しのぎ……すべてが欲しいという理由で、こいつは国中の人間を洗脳した。
しかも質の悪いことに、洗脳したみんなが新しい国王だと認識した男は別の国の元王族。こいつはその陰に隠れて、暗躍していたわけだ。
私たちもリーメイがいなかったら、こいつにたどり着けたかどうか。
そして、リーメイがこいつに触れれば、洗脳は解けるという。
「いきなり洗脳解けたら、みんなびっくりしちゃうかな」
「かもな。だが、このままにしておく理由もない」
うなずく先輩は、口には出さないけど……
さっさと異変を戻してゴルドーラ様を国王に据えろ、という視線をひしひしと感じる。
まあ……私たちは元から洗脳されてないから、洗脳されている人たちが洗脳が解けたらどういう反応をするかわからない。
かといって、先輩の言うようにこのままにしておく理由もない。
なにを考えても……実際にやってみないと、わからないものだ。
「うーん……じゃあちょっと、待っててくれる?」
「なぜだ?」
「ゴルさん呼んでくるよ」
もし国中が混乱したとしても……その時は、その時だ。
ただ、私たちで対処するには限界がある。なのでゴルさんに事情を話して、治めてもらおうというわけだ。
ゴルさんは当事者といってもいいし、権力的にも王族の理解があるのはありがたい。
「……それも、そうだな。ゴルドーラ様に先に、説明しておくべきか」
「でしょ。てなわけで、ワタシゴルさん連れてくるよ。リーメイ、先輩とここをお願いしててもいい?」
「いいヨー」
「……おい待て、ゴルドーラ様は今入院して……」
リーメイにこの場を任せて、私は部屋を飛び出す。
去り際、先輩がなにか言っていた気がするけど……まあ、あとで聞けばいいか。
部屋を飛び出した私は、まずノマちゃんと別れた部屋へ。
「ノマちゃん!」
「あ、フィールドさん! 助けてください!」
部屋を覗くと、ノマちゃんが謎の女性に詰め寄られているところだった。
謎の女性っていうか……ピアノの先生だ。その近くでは、レーレちゃんがおろおろしていた。
あー……そういえば、レーレちゃんがピアノのお稽古をしている中で、ブリエ……イシャスを拉致したようなもんだもんな。
ノマちゃんは、なんとか事情を説明しようとしていたけど、今や涙目になってしまっている。
「ノマちゃん……あと少しで、解決できるんだ。だからごめん、もうちょっと頑張って!」
「フィールドさぁん!?」
私はこの場を、引き続きノマちゃんに任せ、部屋を去った。
後ろから悲痛な叫び声が聞こえてくるが、私はなにも聞かなかったことにした。
ごめんよノマちゃん、一刻を争うんだ。
「よっと!」
そのまま私は、お城の外へ。
ここから病院までは、結構距離があるな……走っていくか、それとも……
クロガネに……いやいや、こんな国のど真ん中で召喚したら大パニックだよ。洗脳云々なんて言ってられない状況だよ。
「仕方ない……」
私は身体強化の魔法を、足へ集中して付与する。
そして、よーい……どん!
なんか最近、走ってばっかりな気がする!
「でもはやーい!」
自分でも思っていた以上の速度が出て、あっという間……というほどではないにせよ、病院へと到着した。
少し息切れしているけど、ふぅ……運動は気持ちいいぜ。
「っとと、待っててねゴルさん」
私は病院の中に入り、ゴルさんの部屋を目指す。
病院内では静かにとのことなので、走るようなことはしない。でもちょっと急ぐ。
ほどなくゴルさんの部屋の前に着くと、扉をノックしてから扉を開けた。
「! む、エランか」
「フィールドさん」
「どもー」
部屋の中には、ベッドに寝たゴルさんと近くの椅子に座っているリリアーナ先輩。
さらに、その反対側に……
「コロニアちゃんに、コーロランじゃん」
「あ、エフィーちゃん」
「……聞いてはいたけど、本当に戻って来てたんだ。久しぶりだね」
ゴルさんの弟妹であり、王族でもあるコロニアちゃんとコーロランがいた。
二人とも、身内のお見舞いに来ていたのか。そのことは、当然とも言える。
ただ、ここに二人もいるのはラッキーだったかもしれない。
二人にも、一緒に来てもらおうか。
「二人とも久しぶり! 話したことはいっぱいあるんだけど……
今は、ゴルさんに用事があるんだ!」
「……俺か?」
「そう! 今から一緒に、お城まで来てほしいんだよね!」
「……今から?」
珍しくゴルさんは、きょとんとした表情を浮かべていた。
ベッドの上で寝て、頭に包帯を巻き……右腕がなく袖が垂れ下がった状態で。
私のことを、なにか不思議なものでも見るかのように、見ていた。
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