565話 ドジメイド



 とにもかくにも、私たちは王城へと向かった。

 当然入り口で止められたけど、ノマちゃんと約束をしているのだと話したら通してくれた。


 助かるけど……セキュリティ的にそれはどうなの!?


「えっと、ノマちゃんの部屋は……」


「……一応聞くが、ノマ・エーテンとは約束をしているのか?」


「え? してないけど?」


「……そうか」


 私と、リーメイと、シルフィ先輩で城の中へと入る。

 ルリーちゃんはどうするかと聞いたけど……やめておく、と断った。


 ま、王城なんてほいほい来れる場所でも来ていい場所でもないしね。

 平民の、それもダークエルフのルリーちゃんはおいそれと行きにくいってのはあるんだろう。

 

 それに、人数はできるだけ少ない方がいい。


「さて、ノマちゃんはどこに……」


「あぁ、お待ちになってくださいお嬢様!」


「おや?」


 廊下を歩いていると、曲がり角の向こうから声が聞こえた。

 その直後、角から飛び出してきたのは……レーレちゃんだった。


「わっ、レーレちゃん?」


「あれ? 確か昨日の……」


 金色の髪を揺らす、小さな女の子。

 レーレ・ドラヴァ・ヲ―ム。彼女の名前だ。国王の娘……


 つまり、王女様ってことになるのか。


「あの……ノマの友達!」


「うん、正解。名前はエランだよー」


「えらん!」


 ノマちゃんを捜していたら、ノマちゃんを雇った張本人を見つけてしまった。

 レーレちゃんは私をなぜかキラキラした目で見上げていたけど、その後ろから誰かが姿を現す。


「お、お嬢様! ま、ちょっ、お待ちに……

 わきゃ!」


 角を曲がって現れたのは、メイド服を身に纏った女性。

 多分、さっきレーレちゃんを追いかけていたっぽい人だ……が、なにかに足を躓かせたのか、その場で転んでしまう。


 う、わぁ……顔から派手に行ったなぁ。

 ちなみに、メイド服といってもノマちゃんのように短いスカートではなく、長いスカートだった。


「あははは! ブリエったらおっちょこちょい!」


「あたたた……」


 転んだ女性を見て、レーレちゃんはお腹を抱えて笑っていた。ひどい光景だ。

 ……ブリエと呼ばれた女性は、鼻をぶつけたようで起き上がりながら、擦っていた。


 痛そうだ。


「もう、お嬢様。元気なのは結構ですが、お転婆もほどほどにしていただかないと!」


「ブリエったらお堅いなー。そんなんだから男の一人もできないんだよ」


「よ、余計なお世話です!

 というか、どこでそんなこと覚えてきたんですか!」


 ……メイド服を着ている時点で、ブリエさんの立場はわかったけど、これあれだな。お嬢様の遊び相手だな。

 彼女は、丸眼鏡をかけて緑色の髪をお団子のようにして頭の上に乗せている。


 それから彼女は、私たちを見た。


「あら、あなたがたは? 侵入者ですか?」


 眼鏡をくい、と手で上げながら、侵入者かと聞いてきた。

 今更私たちに気付いたこともだけど、それ以上になんだその聞き方は。


 普通、見知らない相手に侵入者かって聞く!?


「……私が言うのもなんだけど、そこは『きゃー侵入者よー』って叫ぶところでは?」


「えぇまあ……ただ、お嬢様が親し気にしているので」


 なるほど……レーレちゃんが私たちを警戒していないから、慌てる必要がないってことか。

 ま、知らない人がいたら騒ぐはずだもんね。

 ……だよね?


 ただ、やっぱりセキュリティ的にそれはどうなんだろう。


「私たちはえっと、ノマちゃんの友達で……ノマちゃんに、会いに来たんです」


「まあ、ノマさんの。もしかしてあなたが、エランさん?」


「え? はい」


 まだ名乗ってないのに、私の名前を知っている? なぜだ?

 その疑問は、すぐに明らかになることになる。


「やっぱり! ノマさん、よくおっしゃっているのですよ。とても強くてかわいいお友達がいるのだと。

 その方の名前が、エラン」


「の、ノマちゃんが!」


「エランさんはすごいんですのよ、といつも言っていますよ」


 ブリエさんは、いわばノマちゃんの同僚だ。その同僚に、私の話をしてくれている!?

 しかも、強くてかわいいなんて!


「んもう、ノマちゃんったらー」


「褒めるとすぐに調子に乗る……まさに言っていた通りです!」


「それ褒めてる?」


 ノマちゃんが私のことをどう見ているかはともかく、私のことを自慢の友達だと話すくらいに、大切に思ってくれている。

 これは、間違いないみたいだね!


 まったくもう、人に話すくらい私のこと大好きだなんてー!

 私だって、ノマちゃんのこと大好きなんだから!


「んん!」


「あ」


「あはは、ノマはエランのこと好きなんだネ!」


 シルフィ先輩の咳払いと、リーメイの笑い声で我に返った。

 いけないいけない、危うく自分の世界に入ってしまうところだったよ。


 ここは気を取り直して……


「ところで、ノマちゃんの部屋ってどこかな」


 ここに来たのは、国王やレーレちゃんを探るため。そのため、ノマちゃんに会いに来たというていでここまで来たわけだけど。

 せっかくだし、本当にノマちゃんに会いに行こう。でないと二人に怪しまれるしね。


 二人は顔を合わせてから、それから笑った。


「いいよ、私が案内してあげる! こっちよ!」


 胸を張るレーレちゃんが、先頭になり私たちを案内してくれる。

 大人ぶりたいんだろうか。張り切ってるなぁ。


 さすがは王女様、城内を迷うことなく進んでいく。

 しばらく歩いたところで、一つの部屋の前で立ち止まった。

 ここかぁ。

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