564話 てへっ



「国王と……レーレちゃんのところに行く?」


「そウ!」


 この状況をどうするか。そう考えていたところで、手を上げたリーメイの意見。

 その表情に、一切の迷いはないように見える。


「だって、洗脳してる人がいるなら、その人にやめてって言えば済むでしょウ?」


「うーん?」


 リーメイの言うことはわかるけど……

 国中の人間を巻き込んで洗脳しているような人に、それやめてって言って素直に聞いてくれるだろうか。


 そもそも、怪しいのは国王かレーレちゃんだけど、二人も誰かに操られている可能性も、なくはないんだし。


「それもいいかもしれないな」


「先輩?」


 けれど、肯定的な意見を出すのは意外にもシルフィ先輩だった。

 この人のことだから、そんな不確実で危険なことは論外だ、と言いそうだったのに。


「ここで手をこまねいていても、なにも好転しない。ならば、ここでお前たちが戻ってきた利点を生かすべきだ」


「私たちが戻ってきた利点」


「あぁ。普通に考えれば、即位したばかりとはいえ国王に会うなんて同じ王族でもないとできない。

 だが、ゴルドーラ様は入院中……そもそもラニ・ベルザ家が王族でなくなったのなら、弟妹君に頼れもしない」


 新しくレイド国王を国王とし、ゴルさんたちは王族ではなくなった。みんなそう、思いこまされている。

 そのせいで、入院しているゴルさんはもちろんコロニアちゃんやコーロランの力も借りられない。


 ……そういえば二人は今どこに泊まっているんだろう。学園寮じゃないみたいだし。


「その点、お前ならばノマ・エーテンの友人として王城に入ることは容易だ」


 ……ゴルさんたちでも無理なら、シルフィ先輩が王族に会うことも無理。だけど、私なら。

 実際にノマちゃんの友達の私は、昨日もノマちゃんの部屋にまで行ったし。

 会おうと思えば、会えるのか。


 王族に伝手のできた私と、洗脳無効化のリーメイか。

 だから、私たちがここにいる利点を生かせってことか。


「確かに、シルフィ先輩だけじゃなにもできなさそうだもんね」


「なんだと喧嘩売ってるのか。あとお前がシルフィと言うな」


「おっと」


 しまった、口に出してしまっていたか。

 とっさに口を塞ぐけど、もう遅い。


「リーも、シルフィって呼ばない方がいイ?」


「! い、いや、キミは全然、呼んでくれて、構わない」


 なんだこいつ……私とずいぶん態度が違うじゃないかおぉん?


 ともかく、リーメイの提案は思いのほか好感触だった。

 私が居ればノマちゃんに会いに行く形で、レイド国王に会うこともできるだろう。


 ……そうだ。


「もし国王か、レーレちゃんがみんなを洗脳していたとしたら。リーメイが触れたら、みんな元に戻ったりしない?」


 洗脳された人間に触れて洗脳が解けるのなら。洗脳をかけた人間に触れれば、洗脳がかかったみんなを元に戻せるのではないか。

 そんな展開を、考える。


「できると思うヨー」


 そしてその考えを、あっさりとリーメイは肯定した。

 す、すごいな……じゃあわざわざ国民一人一人に触れなくても、一気に解決しちゃうじゃないか。


「いや、それは止めた方がいい」


 だけど、それに待ったをかけるのはシルフィ先輩だった。


「なんでー? みんなの洗脳が解けるなら、それに越したことは……」


「相手の目的が分からない。前国王が亡くなり、レイド・ドラヴァ・ヲ―ムという聞いたこともない男を国王に据えそれを国民に信じさせている。

 それを行っているのが本人にしろ他者にしろ、なぜあの男を国王にする必要があった? もしくは……ゴルドーラ様たちを国王にしないためならば誰でもよかったのか。

 いずれにしろ、目的が分からない中で、国民の洗脳を解くようなことをすれば……」


「……相手がなにをするかわからない、ということですね」


「そうだ。こんな大規模な洗脳術を使ってまで"なにか"をしようとしている相手だ。

 計画を崩されたと知れば、なにをするか」


 ……今だと、洗脳にかかっていないのは数人。だから気づかれていない。

 でもみんなが元に戻れば、さすがに気付かれる。


 国民全体への洗脳術。それは言ってしまえば、洗脳術以外にもなにかできるぞ、ということかもしれない。

 つまり、国の人間すべてが人質のようなもの。


 そんな状態で、大袈裟に動くのは危険……か。


「まずは誰が黒幕か。そしてそもそもドラヴァ・ヲ―ムとは何者なのか。誰がどこまで関与しているのか……

 そういった点を整理しないといけない」


「なんかめんどくさいね」


「正直だなお前は」


 とはいえ、仕方ないか。みんなを危険にさらすわけにもいかないし、ここは慎重に。

 それに、だ。洗脳術がもしもダークエルフのものだった場合……そのダークエルフが捕まったら、ダークエルフの立場がさらに悪くなることは間違いない。


 できれば、とっ捕まえて二人で話をしたいものだ。


「それに、洗脳術なんて大規模な魔術を使うのなら、かなりの実力者のはず……戦ってみたい」


「……聞こえてるぞ」


「あ……てへっ」


「……」


 なんかすごい睨まれている気がする……

 しょ、しょうがないじゃない! 強い人とは、戦ってみたいし……魔導大会は、不完全燃焼で終わっちゃったし。


 そりゃ、クロガネやエレガたちとも戦ったりはしたけど……そういんじゃまだ、足りないというか。


「と、とにかく! その黒幕を探すのが、先決ってことだよね!」


「……あぁ」


 結局最後まで、呆れたような目が消えてくれることはなかった。

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