563話 先輩がおかしい
学園に戻ると、リーメイがみんなの前で魔法を披露していた。
みんな夢中なのは、魔法の精度の高さからか、それともリーメイがかわいいからか。
そもそも、どうしてこんなことになっているんだろう。
カリーナちゃんに聞いてみる。
「どうやら、リーメイさんの方から魔法を見せたいとお話があったようですわ」
ほほう、リーメイが言い出しっぺなのか。
誰かに無理やり魔法を使わされている可能性もあるんじゃと思ったけど、どうやらそうではなかったみたいだね。
なんでとは思うけど、たくさんの人前でテンション上がったのだろうか。
「人魚族なんて初めて見ましたわ。とてもお美しいです」
「カリーナちゃんもきれいじゃない」
「まっ、エランさんたら」
パシパシ、とカリーナちゃんが私の肩を叩いてくる。ちょっと痛い。
それからしばらくの間、リーメイの魔法を観察した。
そういえば旅の途中でもリーメイの魔法を見ることはあったけど、こうやって落ち着いて見たことはなかった気がするなぁ。
「はーイ。おしまイ!」
水の玉を浮かせるだけでなく、それを輪のようにしてくぐってみせたり簡易的な水の塊を作ってその中で泳いでみせたり。
私たちにはできないようなことを見せてくれたリーメイは、やがて魔法の実演を終える。
その直後、みんなからは拍手の嵐だ。
最近、国中めちゃくちゃになったり学園が休校になって気分が沈んでいたせいだろう。こうしてリラックスできる時間というのはありがたいよね。
ちなみに、水に濡れたリーメイの服はすぐに乾いていた。
どうやら、着衣しているものが濡れてもすぐに乾くのもニンギョの能力らしい?
初めて会った時はてっきり、濡れちゃうから服着てないんだと思ってた。
「あ、エランとルリーダ!」
それから、私たちに気がついたリーメイが手を振りながら、駆け寄ってくる。
身体は大人なのに、中身は子供みたいだ……と、リーメイの一部を見ながら私は思っていた。
危なかった。貝殻おっぱいのままだったらいろんな意味で危なかった。
「リーメイはいつでも元気だねぇ」
「えへへへへェ」
「どうして、皆さんに魔法を披露していたんです?」
「聞いたよ、ここは魔導学園って名前なんでしョ! ならリーも、魔法が使えるってアピールすれば学園に通えル!」
「……学園に通いたいの? リーメイは」
「楽しそウ!」
これは、驚いたな。リーメイ、学園に通いたかったのか。
とはいえ、今まで学園なんてものを見たこともなかったのだろうし。興味が出るのは当然だ。
魔導学園という名前を聞いて、魔法を見せつければ学園に入れると思ったのだろう。
ただ、今から学園に入ることなんてできるのだろうか。
「リーメイさんが転入してきたら、それは楽しくなりそうですね」
と、ルリーちゃんが笑う。
ふむ。どうやら私が知らないだけで、学園に今からでも通うことはできるようだ。
リーメイのいる学園生活かぁ……あは、それは楽しそうかも。
「う、んん!」
……おっと、いけないいけない。こんな話をしに来たんじゃないんだ。
リーメイに会いに来たのは、協力を求めるためだ。私たちと立場を同じくした者同士で協力して、現状を打破する。
そのために、洗脳を解くことができるリーメイは重要な存在だ。
私は後ろにいる先輩を、ちらりと見た。彼は咳払いしたまま、チラチラとリーメイを見ていた。
「エラン、その人ハ?」
どうやらリーメイも、先輩の存在に気づいたみたいだ。
私は隣の先輩をチラッと見る。
「ええとね、私の先輩で……」
「し、シルフィドーラ・ドラミアスだ。よ、よろしく頼む」
私が名前を紹介する前に、先輩は自分から名乗りを上げる。
なんかちょっとどもってる。
「シルフィローラ?」
「シルフィドーラだ。し、シルフィでいい」
「シルフィ!
リーはリーメイだヨー!」
……あれ、先輩こんなんだっけ。もっと堂々としているというか、むすっとした態度だったけど。
あ、いや、むすっとしているのは私の前でだけか。
だとしても、他の先輩たちに対する態度とも違うような気がするし……どうしたんだ?
リーメイに手を握られ、ブンブンと振られて固まっている。押しが強いなー。
「リーメイ。私たち、リーメイの力を借りたいんだ」
「リーの力ー?」
とりあえず、周囲に人がいるこの状況では話せないか。
リーメイの魔法を見ていたみんなはまだ興奮冷めやらぬ状況だけど、みんなに別れを告げてからこの場を移動することに。
みんなから離れ、校舎裏に。
それから、リーメイの力を借りたいことの説明をする。
「そっかー、なるほどネ。リーの力が必要なら言って、なんでもするヨ!」
「なんでも……」
「先輩?」
「な、なんでもない」
さっきから先輩の様子がおかしいけど、まあいいか。
これでリーメイの協力を取り付けた。とはいえ、ここからなにをどうするかなんだよなぁ。
リーメイが触れればその相手は洗脳が解ける。とはいえ、まさか国中の人間片っ端から触っていくわけにもいかない。
それに、洗脳が解けてもまた洗脳される可能性だってあるわけだし。
うんうんと考えていると、リーメイが手を上げた。
「じゃあ今日も、おじさんとちっちゃい娘に会いに行こうヨ!」
と。
多分、おじさんとは国王のことで、ちっちゃい娘とはレーレちゃんのことだろう。
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