562話 水の中で踊る



 私とルリーちゃんは病院から出て、その足を魔導学園へと向けていた。

 そして、ここにシルフィ先輩が加わっている。


 目的は、学園に行っているリーメイを見つけること。

 現状、国中の人たちを洗脳しているってことに対策できそうなのが、リーメイなのだ。


「しかし……人魚と言う種族がいることは知っていたが、実在していたのか」


 本などに、ニンギョ族のことは載っている。

 でも、実際に会うことができるかなんてわからない。誰も見た人がいないのだ、空想上の種族だと思ってもおかしくはない。


 ふふん。


「なにを笑っている」


「いやあ。リーメイってばかなーりかわいいから、見惚れちゃダメですよ」


「はっ」


 また鼻で笑われてしまった。

 少しでも場を和ませようとしただけなのに。


 まあ、この人が女の子に見惚れている姿は想像できないもんな。

 ゴルさん大好きなわけだし、頭の中ゴルさんだけなんじゃないかな。


 そんなこんなで、魔導学園にやって来た。

 今朝先生たちに話をしに一度来たから、今日は二度目の訪問だ。


「そ、そういえば、学園はいつから再開するんでしょうか」


「さあな。街並みも戻っては来ているし、怪我人が復活次第じゃないか」


 ルリーちゃんの問いかけに、シルフィ先輩はむっつりと答える。

 私以外にも、特別優しいってわけじゃないんだよな……そういえば、初めて会った時に先輩たちはシルフィはこんなやつだ、って言ってたっけ。


 人付き合いに苦労しちゃうぜぇ、そんなんじゃまったく。


「ま、生徒会でもわかんないってことですか」


「そういうことだ」


 門をくぐり、学園の敷地内へ。

 さあて、この広い中からリーメイ一人を見つけるのは大変そうだ。


 ……と、思ったんだけど。

 女子寮の方から、なんだか賑やかな声が聞こえる。なんだろう。


「行ってみようか」


 学園は休校だ。だからといって、みんながみんな引きこもっているわけではない。

 寮に残っているみんなでお話をしたり、魔導の訓練をしたりすることだってできる。


 魔導学園は生徒の自主性を尊重している場所だし、休校であろうとなかろうと魔導を学ぶ場所はちゃんとあるのだ。

 むしろこういうときこそ、魔導の練習をする絶好の機会だ。


 ま、人によっては街の復興に協力しているみたいだから。魔導の練習をしてない人は立派じゃない、と言いたいわけじゃない。


「おー」


 校舎を曲がり、その先には。人だかりができていた。

 人だかりは、なにかを囲うようにできていて……その中心で、ふわふわと浮いているものがある。


 あれは……水か。水をボールみたいな形にして、ふわふわと浮かせているんだ。

 魔導の練習かな。それにしては、みんな浮かれている気がする。

 浮く、だけにね!


「あら、エランさんではありませんか」


「カリーナちゃん」


 人だかりに近づくと、私に気づいた女子生徒が手を振る。

 それは、同じクラスのカリーナちゃん。私をお茶会に誘ってくれた子だ。


 カリーナちゃんもなにかを見物しているようだ。


「やっほー。さっきカリーナちゃんのお父さんとお話したよー」


「えっ、お父さ……き、教頭先生とですか?」


 公私はわけているようで、お父さんじゃなくて教頭先生として話している。

 うんうん、それはいいことなんだろう。多分。


「理事長や校長も交えてねー。

 それより、みんななにしてるの?」


「それよりって……

 ……彼女、エランさんが連れてきたんでしょう? すごい人気ですわ」


「彼女?」


 カリーナちゃんが指す方向……人だかりの中心にいる人物。

 みんなが壁になっていて見えないけど、なんとか中心を見るためにぴょんぴょんと跳ぶ。


 で、見つけた。そこにいたのは……薄い青色の髪をなびかせ、両手を動かすと同時に浮いている水を動かしている人物。

 まるで踊りでも踊っているかのように、彼女は無駄のない動きで次々と水を生み出していた。


 水の中で踊っている。まさに、ニンギョだ。


「リーメイ……」


 昨日、生徒たちに選んでもらって買った服を着たリーメイが、生徒たちの視線を受けて堂々と、そこに立っていた。

 人気、という言葉は嘘ではないようだ。


 リーメイ……というかニンギョ族は、水系統の魔法しか使えないらしい。

 魔法はイメージの力だけど、なにをイメージしても具現化するのは水として。水の玉とか、槍とか。


 こうして見ていると、とても美しい。その挙動すべてが。


「っと、見とれてる場合じゃないや。

 先輩、あそこにいる子がリーメイで……」


 なんにせよ、探す手間が省けてよかった。先輩に、彼女がリーメイだと紹介する。

 ただ……先輩はなぜか、反応を返してくれない。


 不思議に思って先輩の顔を見上げると……その視線は、一点に集中していた。

 人だかりの中心……そう、リーメイへと。


 ふーむ……ははーん、リーメイの魔法の精度に見とれているんだな。

 リーメイは水の魔法しか使えないけど、その精度はすごいものだ。まるで手足のように、水を動かしている。


「先輩。おーい、せんぱーい」


「……! な、なんだ」


「いや、なんだって。あの子リーメイですって」


「あ、あぁ。……そうか、彼女が……」


 まったく、いくら魔法の扱いがすごいからって、私のこと無視しちゃうのはひどいなぁ。

 ま、それくらい許してあげる。私、オトナだから!


 とりあえず、リーメイの魔法お披露目が終わるまで待ってよう。

 ……その間も、先輩はリーメイをじっと見ていた。ほんのりと耳が赤いように見えたのは、気のせいだろうか。

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