566話 とりあえず閉めてくれません!?



「私がーノマちゃんの部屋にー来たーーー!」


 レーレちゃんに案内され、ノマちゃんの部屋の前にたどり着いた私は、部屋の扉をバンッ、と開ける。

 まさか私がいきなり来るなんて、驚くことだろう。


 ノマちゃんの驚いた顔を想像しながら、部屋の中へと視線を向けると……


「あ……」


「……」


 ノマちゃんと、目が合った。

 ……着替え中のノマちゃんと。


 私はその場で固まり、そして当然ノマちゃんも固まっている。これはこれは……

 着替え中だから下着姿のノマちゃん。ぶっちゃけ、その姿自体は珍しくはない。

 なんせ、ノマちゃんとは同室だったのだ。着替えどころかお互いの裸だって見たことはある。


 なので、部屋の中のノマちゃんが着替え中だったとて、別に慌てる必要はない。ノマちゃんだって、今更私に着替えを見られて取り乱しはしないだろう。


 ……問題は、この場にいるのが私だけではないということで。


「き、きゃああああ!?」


「わ、の、ノマちゃん! ごめん!」


「わー」


「おい、なにがあっ……」


「おらぁ!」


「ごはっ!?」


 幸いにと言えばいいのか、この場で唯一の男であるシルフィ先輩は最後尾にいたので、部屋の中を見てはいない。

 けれど、部屋の中からの悲鳴に飛び出してくる……


 それを見た私は、シルフィ先輩が部屋の中を覗き込む前に彼の脇腹に回し蹴りを放つ。

 まさかいきなり蹴られると思っていなかったのだろう。もろに蹴りを受けた先輩は、その場にうずくまった。


「き、貴様……なにを……なぜ……」


「ごめんね先輩。でも部屋の中でノマちゃんが着替えてるんだ。デリカシーの問題だよ」


「り、理不尽……じゃないか……」


「わざわざ言わなくていいですから! とりあえず閉めてくれません!?」


 申し訳ない、と扉を閉める。

 扉越しに、ノマちゃんに話しかける。


「ごめんねノマちゃん。でも私が言うのもなんだけど、鍵はかけておいたほうがいいと思うんだ」


「本当にフィールドさんが言うことではないですわね!

 というか、ここの方はみんな扉を開ける前にノックしますわよ!?」


「私だってノック……は、してないか」


 思い返せば、私は扉を思い切り開けた。ノックはしていない。

 ノマちゃんは鍵をかけていなかったとはいえ、いつもならば誰であろうと扉を開ける前にノックをする。


 だから鍵をかけてなくても、まさかいきなり扉を開けられるなんて思ってないわけか。


「それは……大変申し訳ない」


「……ま、いいですわよ。先輩には見られていないようですし」


「女の子ばかりでよかったよ。男の子が見てたら最悪目潰しして視力と記憶を奪わなきゃいけなかったから」


「なんて恐ろしいことを真顔で言うんだ」


 先輩は恨めしい表情で私を見ているが、私はそっと顔をそらす。

 だって仕方ないじゃないか。ノマちゃんのあのダイナマイトな身体を見せるわけにはいかないもの。


 しばらくして、扉が開いた。そこにはメイド服に身を包んだノマちゃんの姿。

 ……これはこれで刺激的なんだよなぁ。


「お待たせしましたわ。それにしても、いきなり来られたんですよね、びっくりしましたわ」


「あはは、ごめんねー」


 部屋に招かれて、私たちはそれぞれ腰を下ろす。

 いやぁ、きれいな部屋だ。ノマちゃん、カゲくんにお世話されていたわりには、マメに掃除してたんだよなぁ。


 というか今更だけど、髪のセットもカゲくんに頼っていたノマちゃんが、果たして他の人のお世話なんかできるのだろうか。

 途端に心配になってきたぞ。


「なんだか、変なことを考えていませんか?」


「そ、そんなことないよー」


 ぴゅー、と私は、下手くそな口笛を吹く。

 視線を向けられたままだけど、ノマちゃんにごまかすつもりはない。


「ちょっと、ノマちゃんに会いたくなっちゃって」


 と、レーレちゃんとブリエさんがいる手前笑って話す。

 それから、そっとノマちゃんの耳に顔を近づける。


「本当は、国王とレーレちゃんを探りに来たんだ」


「なるほど。それで、わたくしの友人という立場を使ったのですわね」


「うっ……なんか刺々しい言い方。さっきのは悪かったよー」


「ふふ、冗談ですわ」


「ん……それで、ノマちゃんはなにかわかったことはある?」


「残念ながら」


 どうやら、ノマちゃんもなにも掴めてはいないらしい。

 まあ、メイドになってから昨日までの間一人で調べててなにもわからなかったのに、一晩で新たに発見があるはずもないか。


 それから私は、シルフィ先輩を連れてきた理由を明かす。

 吸血鬼だから、洗脳はされていないのだと。事前に、種族は明かしていいと許可はもらっている。


 嫌いだって理由があったとはいえ私には種族秘密にしていたのに、他の人にはあっさりとバラすんだな。悔しい。


「ねー、二人でなんの話をしてるの?」


「なんでもないよ。ちょっとした大人の話だよ」


「?」


 あんまりこそこそと話していても、怪しまれるか。

 私はケラケラと笑いながら、レーレちゃんに答えた。


 部屋の中では、落ち着きなさそうに座っているシルフィ先輩が印象的だ。

 一方、リーメイはちょこんと座っていた。なんだか、ある一点をじっと見つめているのが気になったけど。

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