559話 正直クソ野郎だと思ってた
人を洗脳する魔術があるとすれば、それはダークエルフが使う闇の魔術。
ダークエルフであるルリーちゃんはその存在を知らない。ダークエルフだからって、闇の魔術全てを把握しているわけではない……私たちだって、魔術に関してまだまだわからないことも多い。
使えたとしても、ルリーちゃんはそんなことはしない。
……この国にいる他のダークエルフと言えば、ルリーちゃんのお兄さんであるルランと幼馴染のリーサだ。ただ、二人もそんなことはしない……はず。
ルランに関しては、過去"魔死事件"を起こした前例がある。人間に対してなにをしてもおかしくはないけど。
そもそもまだ、この国に残っているのかはわからない。
最近すっかり姿を見ないし。
「ところで、ふ、副会長は、いつもお見舞いに来ているんですか?」
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
ルリーちゃんはおずおずと、リリアーナ先輩に話しかける。
自分から、一見堅物そうな先輩に話しかけるなんて……成長したなぁ。
「えぇ。私はゴルドーラ様の婚約者ですから。当然です」
……この人、婚約者という肩書きに従わされているだけなのかと思っていたけど、本当にゴルさんのこと大好きなんだよなぁ。
毎日来ているんだろう。好きな人の側にいたいって気持ちは……理屈としては、わかる。
私もいつか、好きな人とかできたら、同じ気持ちになるんだろうか?
「そうですか……なんだか、素敵ですね」
ルリーちゃんはそんなリリアーナ先輩を、微笑ましそうに見つめている。
ルリーちゃんも、お年頃の女の子だけど……お年頃、だよな? エルフ族だからその辺よくわかんないけど、お年頃なんだよな?
これまでの生活から誰かを好きになるなんてことはなかっただろう。
それに、そんな相手がいたとして……正体を明かしたら、どうなるか。
そんなのはきっと、ルリーちゃんが一番わかっている。
「俺としては、もう少し頻度を下げてもらってもいいんだがな」
「それは、私が来ると困るということですか?」
「お前の負担が増えるからという意味だ」
「まあ。そんなこと、気にしなくてもいいですのに」
……この二人、二人きりのときはこんな感じなのか。いや二人きりではないんだけど。
いつも生徒会室で、他にも人がいるから淡々としたやり取りしか見てこなかったけど……
表情には出さないけど、ゴルさんも結構リリアーナ先輩のこと好きだな?
「じゃ、私たちはお邪魔だろうし。そろそろ帰ろうかルリーちゃん」
「そうですね」
「お邪魔なんて、そんなことはないですよ」
リリアーナ先輩はこう言ってくれるけど、二人きりの時間をもっと設けたいはずだ。
大丈夫、一応聞きたいことは聞けたし。なによりひとまず無事なのは、確認できたし。
席を立ち、一言告げてから部屋の扉へと足を進める……そのタイミングで。
扉から、ノックが鳴った。
「失礼します、会長」
そして、聞いたことのある声と共に……扉が、開く。
扉に向き合っていた私は、当然扉の前にいた人物と顔を合わせることになり……
その人物が、わかりやすく顔をしかめたのがわかった。
「おぉ、シルフィ。今日も来てくれたのか」
「! 会長。当然です」
ゴルさんから声をかけられたその人物……シルフィドーラ・ドラミアス先輩は、ゴルさんに対して頭を下げた。
それから、私をチラッと見て……
「戻っていたのか、エラン・フィールド。無事でよかった」
「ど、どうもー」
どう聞いても良かったとは思ってなさそうな声色で、良かったと告げた。
シルフィ先輩は扉を閉め、手に持っていた花をベッドの側の花瓶に差し入れた。
お見舞いに花か……しかも束で。
この人ゴルさんのことめっちゃ尊敬してるからな。これくらいしても不思議じゃない。
花瓶の花と、自分の持ってきた花を手慣れた様子で入れ替えている。もしかしてあれもシルフィ先輩が持ってきたものなのだろうか。
「エランさん、あの人は……」
「生徒会で二年の、シルフィドーラ先輩。みんなシルフィって呼んでる。
私は……本人の前じゃ呼ばないけどね」
耳打ちしてくるルリーちゃんに、耳打ちして言葉を返す。
生徒会メンバーの一人、しかも学年が違うためルリーちゃんと関わることはない人だ。
ゴルさんの言葉通り、ちょくちょく来てるんだろうな。ちょくちょくってか、毎日かも。
寮で寝泊まりはしていないみたいだし、実家が近くにあるのだろうか。
「いつもありがとうございます、ドラミアスさん」
「これくらい気にしないでください、カロライテッド先輩」
お礼を言うリリアーナ先輩と、それに応えるシルフィ先輩。
リリアーナ先輩はいつも丁寧だ。一年生の私にも、フィールドさんって呼び方で敬語だ。
こうして見ているだけでも、ゴルさんが慕われているのがわかる。
今は朝だからそんなにいないのかもしれないけど、お昼になったら他にもお見舞いが来るのかもしれないな。
「じゃあ、改めて私たちはこれで」
「あぁ。わざわざすまないな」
「いえ」
正直、初めて会った時は立場と権力を肩に好き勝手やってるクソ野郎かと思った。
でも決闘を経て、生徒会で一緒に過ごして……そうではないことを、知った。
それを知っている人が他にもいるからこそ、本人が無愛想でもちゃんと慕われている。
私たちはペコリとお辞儀をしてから、部屋を出た。
廊下を歩いて、学園に帰るか……と思っていたところで……
「おい」
と、声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは……シルフィ先輩だった。
「少し、話がある」
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