558話 それは闇の魔術?



 とにかく、ゴルさんたちも洗脳を受けているってことでいいのだろう。

 自分が王族であるとは理解しているけど、王位がなくなったことはさして問題にはしていない。


 やっぱり、レイド国王に周りのことが、国中の人間に変な認識を与えているってことだ。


「リーメイを連れてくればよかったかな……」


 ニンギョであるリーメイには、洗脳の類いは効かない。

 それどころか、リーメイが触れれば触れられた相手は洗脳が解ける。

 まあニンギョに通用しないのは正しくは身体に変化を及ぼす術なんだけど、そこは今は置いておこう。


 リーメイを連れてきていれば、ゴルさんとリリアーナ先輩の洗脳も解くことができた。

 今リーメイは、昨日仲良くなった子たちのところに行っている。人間の友達ができたと喜んでいたものだ。


 そんなリーメイを、無理やり私に同行させるわけにもいかなかった。ゴルさんたちが洗脳されているかの確証もなかったしね。


「どうしたんだ、国王のことを聞いたりして」


「いや、ちょっと気になったことがあっただけ。

 ……話は変わるけど、人を洗脳する魔導の類いの存在に心当たりはある?」


「本当に話が変わったな」


 話は変わる、とは言ったけど、実際には同じ話題の延長線上のものだ。

 洗脳……人に洗脳をかける魔導とか、聞いたことはないけど。

 そういったものはあるのか。あれば、それが使われている可能性は高い。


 それに、国中の人間を洗脳するなんて、とんでもない規模だ。

 ノマちゃんやなぜか筋肉男といった例外以外、先生たちやゴルさんみたいな高い魔力の持ち主も洗脳されている。


 この国の外にいたから私やルリーちゃんは助かったけど、もしこの国にいたままだったら……

 ……そう考えると、国の外にまで転移させられたのはラッキーだったのかもと思う。その先で、リーメイに出会えたのも含めて。


「対象を洗脳する魔導、か」


「そういった類いのものは、聞いたことがありませんが」


 やっぱりそうだよなぁ。魔法はイメージの力、自分が想像できることならば大抵のことはなんでもできるとはいえ……

 さすがに相手の身体……いや洗脳だから脳かな。脳に直接干渉するようなことはできないはずだ。


「だが……」


 と、ゴルさんが言葉を続ける。


「闇の魔術なら……可能性はなくはないだろう」


「!」


 闇の魔術……その言葉を聞いた瞬間、隣のルリーちゃんが少しだけ反応した。


 闇の魔術とは、ダークエルフだけが使える魔術。

 対象の感覚を殺すものや、死者を生き返らせるもの。単なる魔術では想像もつかないようなことが可能だ。


 確かに、そんなことができるのなら……人を洗脳するなんてことも、できるのかもしれない。

 それに……闇という言葉が、どうしても暗いイメージを持たせる。


「ダークエルフが使うという、闇の魔術。聞いた話だが、それは想像もつかないような恐ろしげな魔術らしい。

 それであれば、人を洗脳するという魔術があっても不思議ではないと思うが……それが、どうかしたのか?」


「! い、いやぁ、ただ気になったと言いますか!? あはははは!」


 なんで洗脳の魔導があるのか聞くのか……と返されると、どう答えればいいのかわからなくなってしまう。

 まさか正直に、あなた洗脳されてますよ、なんて言えないしなぁ。


 自分が洗脳されてるなんて、指摘されてもピンと来ないだろう。私だって、リーメイに指摘されてもわからなかった。

 それに、リーメイが触れたら洗脳は解けたけど、あなたは洗脳されてるよって無理やり洗脳を解いた場合……どうなるか、わからない。


 ここは慎重に、だ。


「……」


 ただ、すごく怪しまれているのが私にもわかる。

 じっと見られているよぉ。


「ち、ちょっとした興味本位ですって。私、魔導のことはなんでも知りたいからぁ」


「……まあ、いいが。なんにせよ、人を洗脳する魔導なんてものはないし、お前はダークエルフでもないのだから闇の魔術も使えない」


「でっすよねぇ」


 あはははと笑いながら、私はちらりとルリーちゃんを見た。

 ルリーちゃんは同じく苦笑いを浮かべながらも、私の視線に首を横に振った。


 そんな魔術は闇の魔術でもありはしない……か。それとも、洗脳魔術は存在するけどルリーちゃんは使えないか。

 いずれにしろ、洗脳の魔術があるとしたらそれはダークエルフが関わっている、ということか。


 ……でも、レイド国王もレーレちゃんも人間だしなぁ。

 もしかして二人の裏に誰かがいるとか。ダークエルフが。


 ……ダークエルフといえば、ルランやリーサは元気だろうか。


「ところで、学園にはもう行ったのか」


「あ、うん。みんな元気そうで安心したよ」


「……そうか」


 なんでだろう、ゴルさんから『お前が言うな』という視線をめっちゃ感じる。


「俺もさっさと、退院したいんだがな」


「まだしばらく安静にしないとだめですよ」


「わかっている」


「……結構設備の整った病院だけど、やっぱりその状態じゃはい回復魔術で終わり、ってわけにもいかないんだね」


 回復魔術では失くした部位は戻ってこない上に、傷は治っても疲労などは回復しない。

 失った血や体力を戻し、衰弱した体を元の状態に近づけるには……やっぱり、休息が一番だ。

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