560話 ゴルさん信者



 話がある……そう言われて私たちは、一旦病院から出た。

 そして中庭へと移動して、空いているベンチに座る。


「あの、私は……」


「構わない。好きにするといい」


 シルフィ先輩が私に話があると言うので、ルリーちゃんは席を外そうか迷っていた。

 どちらでもいいとのことなので、結果私の隣に座ることに。というか、私がいてほしかったのだ。

 だって、この人と二人きりは……なんか、アレだし。


 シルフィ先輩、そして少し距離を離して私とルリーちゃんが並んで座る。

 まさかこの人から、私に話があると言われるなんて思わなかったな。


「あの……」


「遠回しなのは嫌いだ。なので直球で聞くが……

 お前は、今の国王をどう思ってる?」


 じっ……と、シルフィ先輩が私を見ていた。

 直球で聞くと言われたけど、思ったよりも直球だった。


 うむ、今の国王をどう思っているか、か……

 今までこういう質問は私がしてきたから、逆にこういうことを聞かれるのは新鮮な気がする。


 それに……この質問をするってことは、もしかして……


「先輩も、もしかして私と同じで……?」


 先輩は私と同じく、今の国王がおかしいと考えている方の人ではないのか。

 そうでないと、この質問はまず出てこない。


 つまり先輩も、洗脳されてはいない……ってことか?


「先ほど病室の中での会話が聞こえてな。盗み聞きするつもりはなかったが……」


「あぁ……」


 病室での会話、聞かれてたのか。

 今の国王についてとか、洗脳がどうだとか。考えてみれば、結構危ない話してるよなぁ。


 それを聞いて、私たちも自分と同じく洗脳されてないと考えたわけか。

 というか、病室の中に私たちがいると知っててあんな態度取ってたのかよ。性格悪いなぁ。


「私とルリーちゃんは、国の外にいたから……

 帰ってきたら国王は変わってるし、みんなそれを受け入れてるし、もうどうなってるのかと」


「なるほど。こっちある時を境に突然、周りが変わった。

 新しく国王が誕生し、それに対して皆大して疑問を抱いていない。ザラハドーラ国王が亡くなったんだ、次の国王を決めないといけないのはわかるが……次に即位するとしたらゴルドーラ様だ。

 おまけに、即位までの時間があまりに早い」


 ふむふむ、国の中にいたら突然周りが変わったように感じるのか……それも怖いな。

 自分だけが正常。いや、周りがみんな変わっているということは、ある意味自分だけが異常なのかもしれない。


 私が同じような立場に立ったら、どうなってしまうだろう。


「けど、どうして先輩は洗脳されてないのかな」


 他にも洗脳されてない子はいるけど、それは"魔人"のノマちゃんといった特殊な状態になっているからだ。

 筋肉男は……知らないけど。あいつ普通の人間だよなぁ。


 私の問いに、シルフィ先輩はしばらく黙ったあと……私を見て、言った。


「俺は、吸血鬼ヴァンパイアだ」


「ヴァ……」


 明かされたのは……先輩の種族。

 シルフィ先輩がなんらかの獣人だということは聞かされていたけど……先輩自身は教えるつもりはなかったようだし、ゴルさんたちも本人が言わないのに勝手に言うことはできないと黙っていた。


 それが今、唐突に明かされたわけだ。

 吸血鬼か……聞いたことはあるけど、会ったのは初めてだな。


 このベルザ国の中でも、おそらく珍しい種族のはずだ。


「吸血鬼……って、もしかして私にいやらしいことするの!?」


「それは夢魔インキュバス夢魔サキュバスのことだ。だいたい夢魔だとしてお前にそんなことはしない」


 自分の体を抱きしめる私に、冷ややかな視線が注がれる。

 そんなに淡々と言われると……なんか悔しいな。


「でもさ、吸血鬼だからってそれが関係あるの?」


「あっ、聞いたことがあります。吸血鬼は、精神操作系の術は効かないんでしたっけ」


「そうだ」


 どうやら、ルリーちゃんは私よりも吸血鬼に詳しいようだ。

 精神操作系の術は効かない……だから精神に作用する洗脳は効かない。ニンギョと似たようなものか。


 ……いや、ニンギョは身体に影響を及ぼすもの、だったか。

 ニンギョには身体強化の魔法は効かないけど、吸血鬼には効く。こういうことか、ややこしい。


「それで、洗脳も効果がなかったと。なら、他にもそういう人はいるのかも?」


 吸血鬼という種族に洗脳が通用しないのならば、シルフィ先輩以外にも洗脳から逃れた人がいるはずだ。

 案外、その数は多かったりして。


 少し期待を持っていたけど、先輩は首を振る。


「いや、吸血鬼はほぼ絶滅している。特殊な力で、吸血鬼は同族が近くにいる場合それがわかるんだが……

 少なくともこの国に、吸血鬼はいない」


 吸血鬼特有の能力で、同族が近くにいるかわかる……反応がないから、この国にはシルフィ先輩以外の吸血鬼はいないってことか。

 それは残念だなぁ。


 今のところ、国の外に出ていた私たちや地下に閉じ込められていたヨルを除けば、筋肉男とノマちゃんとシルフィ先輩だけか……洗脳されてないのは。

 それ以外の人間に及ぶほどの洗脳。まだ思ったよりも逃れた人数がいるとも言えるし、これだけしかいないとも言える。


 ともかく、せっかく数少ない同志だ。なんとか協力していきたいところだけど。


「あんな訳のわからん男に、このまま王位をくれてやるつもりはない。

 次の国王にふさわしいのは、ゴルドーラ様だ。あの人を国王に添えるため、なんだってしてやる」


 ……目的が同じなら協力はできそうだけど、ゴルさん信者すぎて怖いよこの人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る