555話 病室の再会
理事長室で、この国で起こったことを聞いた。おおかたは、予想していた通りではあったけど。
魔獣や魔物が国中で暴れまわり、エレガたちは早々に離脱。魔導大会で国外からも実力者が集まっていたことから、次第に鎮圧化していった。
それでもまったくの無事とはいかず、建物なんかは所々崩れている。
負傷者重傷者は多数の中で、死者はザラハドーラ国王一人。そのザラハドーラ国王亡き今、レイドという人物が新たに国王になった。
レイド国王はザラハドーラ国王の友人らしく、彼の息子のゴルさんが安定するまで暫定的な国王の座にいる。
でも、国民は暫定的どころかこの先ずっとレイドが国王でいるかのような認識でいる。
それどころか、ゴルさんにはすでに王位継承権は残っていないのだと言う。
「……お見舞いも兼ねて、本人に確かめてみようと思って来てみたけど」
この国の状況を聞き、理事長たちにもう一度私たちの旅路を話した私とルリーちゃんは、ある大きな建物の前にいた。
見上げるのは、王城ほど大きくはないけどそれに迫るくらいの大きな建物。
ここが、ゴルさんが入院しているという病院か。
「この国に来てからしばらく経つのに、病院なんてものがあるって知らなかったよ」
「まあ、大抵は回復魔術で治せますからね」
ルリーちゃんの言うように、大抵の傷は回復魔術で自分で治すことができる。
ただ、自分の力量を超えた傷は治すことはできない。
そういう、回復魔術でも治せない傷を負った人が利用する場所だ。
それと……考えてみれば、回復魔術って誰も彼もが使えるわけじゃないんだよなぁ。
学園だと使える人わりといるし、自分でなくても他の人に治してもらうこともできるから、あんまり意識したことなかったけど。
それこそ、回復魔術専門の先生だっている。
「普通回復魔術は使えないんだよな……」
市場には、ポーションという回復の薬が売っているらしい。飲めばたちまち傷が治るという。
他にも、塗り薬なんかも。冒険者が取ってくる薬草なんかが、材料になっている。
それも、あくまで市販の品だ。濃度の高い薬なら傷の治りも早いけど、そんなものはまず市場には出回らないか、出回ってもとてつもなく高い。
「エランさん、行きましょう」
「だね」
今はとにかく、ゴルさんの様子を確かめないと。
ルリーちゃんと共に、私は病院の敷地内へと足を踏み入れた。
敷地内では、あちこち怪我したと思われる患者さんや、それに付き添う人たちがいた。
回復魔術だって、万能じゃない。怪我は治っても、基本的には失った部位なんかは戻ってこない。
そういう人たちの姿も、ちらほら見受けられる。
「……」
失った部位を戻すなんて芸当、師匠でも無理だって言ってた。魔術はすごい力だけど、万能じゃない。
死ななかった人は大勢いる。でも、だからってみんながみんな無事でいられたはずがない。
そりゃ、命あってこそだとは思うけど……
「こんにちは、どうかされましたか?」
「あの、ゴルさ……ゴルドーラ・ラニ・ベルザさんの病室ってどこですか?」
「ゴルドーラ様ですね」
受付に言って、犬塾人のお姉さんにゴルさんの病室を教えてもらう。
当然だけどいろんな種族の人がいるなぁ。
私は案内された部屋を目指して、進む。病院っていうのは初めて来たけど、なんだか独特的なにおいがするなぁ。
スタスタトコトコ。廊下を歩いて階段を上って……
「ついた」
一つの部屋の前で、立ち止まる。
表札には『ゴルドーラ・ラニ・ベルザ』と書かれている。間違いない、ここだ。
部屋の前で軽く深呼吸をする。なんだか緊張してきた。
けど、ここまで来たんだ。いざ!
「失礼します」
「し、失礼します」
扉をノックし、病室の扉を開ける。
ガラガラと音を立てて、部屋の中の様子を確認。
部屋の中は、外と同じく白い壁に天井。そしてベッドは一つ……個室ってやつかな。
そのベッドの上に、寝ている人物が一人。側で椅子に座っている人物が一人。
二人は、部屋の入口……つまり私たちの方を見て、目を見開き、ぽかんといった表情だ。
二人のそんな表情を守ることがなかったので、なんだか新鮮だ。
「えっと……お、お久しぶり、です?」
ただ、そんな二人になんと声をかけていいのかわからなくて……私は、笑いながら手を振った。
ちゃんと笑えているだろうか?
……ベッドの上にいる、ゴルドーラ・ラニ・ベルザ。そして側に座っているのは、彼の婚約者のリリアーナ・カロライテッド。
リリアーナ副会長は、ゴルさんのお見舞いによく行っていると聞いたけど……今日も、いたようだ。
二人とも、なにもしゃべらない。
まあ……魔導大会の最中にいきなり消えて、今まで行方不明だった人物がひょっこり顔を出したら、こうもなるか。
「……」
「……」
「……」
しばらく、無言の時間が続く。
ルリーちゃんなんか、どうしたらいいのかわからないのかオロオロしている。
そういえば、ルリーちゃんがゴルさんたちと会うの初めて……だっけ?
なかなか見れない面白い表情ではあるけど、このままというわけにもいかない。なので、私からまた声をかけようとして……
「……え、エラン、か……驚いた……」
と、ようやくゴルさんが口を開いたのだった。
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