550話 恐怖の対象
「…………はぁ」
「どうしたのナタリアちゃん、テーブルに突っ伏しちゃって」
「朝一からこんな話を聞かされて、どんな反応をすればいいのかわからないんだよ」
ルリーちゃんと、ナタリアちゃんに事情を打ち明けようと決めた次の日。
その日のうちにまたナタリアちゃんのところに押しかけては迷惑だと思ったので、一晩置いてからまた会いに行くことに。
ルリーちゃんとナタリアちゃんの微笑ましい再会を見届けて、さっそくナタリアちゃんに、クレアちゃんの事情を話したわけだけど……
「ごめんね、こんなこと話せるのナタリアちゃんしかいなくて」
「頼ってもらえるのは嬉しいけど、ルリーくんとの再会の直後に重すぎる話を貰ってもう情緒めちゃくちゃだよ」
さすがに、朝からする話じゃなかったかなぁ……
でも、なるべく早く相談したかったんだよなぁ。
しばらくテーブルに突っ伏していたナタリアちゃんだけど、やがて顔を上げる。
それから、こほんと咳払いをした。
「それにしても、
この話を知っているのは?」
「当人のルリーちゃんとクレアちゃん以外だと、私とナタリアちゃんだけだよ。
クレアちゃんは、ルームメイトのサリアちゃんにも話していないみたい」
ちなみに、今この部屋にいるのは私とナタリアちゃんだけだ。
フィルちゃんは、ルリーちゃんが外へと連れて行った。
フィルちゃんには聞かせられない話なのと、この時間を利用してルリーちゃんが会いたい子に会いに行ったらどうかと思ったからだ。
「
ナタリアちゃんは、なにか知ってる?」
「そうだなぁ……有名な話に、昔一つの大国が一晩のうちにして滅んだ、というものがある。
その、滅ぼしたというのが……
「国を、一晩で……」
しかも有名な話、という前置きがあるってことは、
私が知らないだけど、一般的に知られているものもあるんだろう。
……国を滅ぼすような、恐ろしい存在と同じになってしまったと、クレアちゃんが思っていたとしたら。
「でもよかったのかい? クレアくんの許可は得てないのに、ボクに話してしまって」
そこで、ナタリアちゃんが首を傾げる。
今の話は、クレアちゃんが友達にも母親にも話せずに抱え込んでいたものだ。
それを、本人の虚かも得ないままに、勝手に第三者に話してしまった。
これは、バレたら怒られる……では済まない話かもしれない。
……友達の縁、切られるかもな。
「よくは、ないだろうね。でも、私やルリーちゃんだけじゃ、わからないことも多くて……
大丈夫、もしナタリアちゃんがクレアちゃんの事情を知っていることを知られて責められたら、私が勝手に話したって言ってくれればいいから」
勝手に第三者に話す……もしかしたら、話した私だけではなく、知ってしまったナタリアちゃんにも怒りの矛先が向くかもしれない。
今のクレアちゃんは、不安定だ。だから、辺りに散らしてしまう。
そもそも私が勝手に話したのは本当なのだから、ナタリアちゃんが責められる謂れはないのだ。
「ボクのことは、気にしなくていいけど。
……それも、そうだよね。クレアくんの現状には、ルリーくんの正体が関わっている。その人数も、多くはない」
「うん……クレアちゃん、ルリーちゃんがダークエルフだったことにショックだったみたいで」
「それに加えて、
休校となった学園内でも、会おうと思えば食堂でもそれこそ同じ女子寮でも、会える。
ただでさえ、ナタリアちゃんとクレアちゃんは仲が良かったのだ。
でも、あの件からクレアちゃんは人前に姿を見せてはいない。
「ダークエルフも
「そんな! クレアちゃんをその……あんな体にしたのは、私たち、なのに」
「過程がどうあれ、あのままでは彼女は死んでいたとはいえ……
クレアくんが
……ナタリアちゃんの言葉が、胸の奥に突き刺さるようだ。
私が、ルリーちゃんがやったことが、クレアちゃんの胸にどうしようもなく深い影を落としてしまった。
でも、ルリーちゃんの話だと、
さっきの、国を滅ぼしたって話も『生き返った人が時分の意思で』国を滅ぼしたってことだ。
「……周りからなんと思われるかはわからない、か」
魂の話も、
実際、自分が本当に死ぬ前の自分と同じかなんて、クレアちゃん本人にもわかっていないんだから。
……それでも、ナタリアちゃんの"魔眼"で見てもらえば、クレアちゃんがクレアちゃんだとわかるはずだ。
「そこに至るまでがまた大変なんだよな……」
部屋に引きこもっているクレアちゃんに、ナタリアちゃんをどう会わせるか。
昨日みたいに押し掛ける手もあるけど……私にもしばらく会いたくないと言っていたクレアちゃんが、ナタリアちゃんにも会ってくれるかはわからない。
となると……ルームメイトのサリアちゃんに協力してもらうしか、ないか。
もちろん、彼女に事情は話せないけど。
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