549話 魂はどこへ
クレアちゃんは一度死んでしまった……それを闇の魔術で生き返らせたのが、ルリーちゃん。
私は闇の魔術に関しては、全然詳しくない。
でもきっと、世間ではそれがどういうものなのか……どの程度かはわからないけど認識されているんだろう。
闇の魔術、そして、今のクレアちゃんの状態……
『一度死んでるんだ、そいつは。で、闇の魔術で蘇生した……そいつは、生者じゃない。かといって、死者でもない』
自分が死んで、生き返ったと知ったクレアちゃんはひどく錯乱していた。それは、生者でも死者でもないからというもの。
『そいつの中身だ。本当に、以前のままなのか、それともガワだけ取り繕った偽物なのか……
それは、本人が一番、思い知らされるだろうなぁ』
それは、生き返った人が本当にその人なのか、それとも別のなにかになってしまったのではないか……
そういった理由からだ。
そういう悩みは、あれだ……魂ってやつだ。
死んでしまった魂が、ちゃんと本当に本人のものなのか。それがわからないから、怖い。
『そいつらは、ダークエルフに対する恐怖、
『刻む、って……どこに……』
『
それが、今を生きる人間に刻み込まれた、性みたいなものだ!』
わからない恐怖と、ダークエルフに対する恐怖。
それらが、クレアちゃんをあんなにしてしまった。
なんとか、してあげたい。なんとか、したい。
だから……
「あの魔術について、教えて」
ルリーちゃんに、人を生き返らせた……闇の魔術についてを、聞く。
「……あれは、闇の魔術の中でも特別なものです。
元々、闇の魔術は良くは思われていないものなんです。邪精霊の力を使っているから……世界の流れに逆らう魔術、なんて言われたりもして。
その中でも、死者を生き返らせるあの魔術は、禁忌とされているものです」
「きんき……」
「私も、使用したのは初めてで……っ、クレアさんに、いなくならなくてほしくて。必死で。でも、結果的にクレアさんを苦しめるはめに、なってしまって……」
……禁忌の魔術、か。
普通の魔術だって、使い方によっては天変地異を起こすことだってできる。使い方一つでとんでもないことができるんだ。
でも、人を生き返らせる魔術なんて聞いたことがない。
回復魔術なら、術者の力量によってはどんな怪我でも治せる。失った四肢だって生えてくるって話だ。
それでも、死んでしまった人はどうすることもできない。死者は、決して生き返らない……それが、この世界の理のようなものだ。
闇の魔術は、世界の理を無視した魔術……ということなのかもしれない。
「使ったの、初めてだったんだ?」
「はい。これは、対象が亡くなってからすぐでないと効果がないらしくて。
それにあの頃の私は、こんな魔術使えなかったし……」
死者を生き返らせるといっても、時間制限ありってことか。死んでしばらくしたら、もう魔術は通用しない。
その点で言うと、目の前でクレアちゃんが倒れたのは……運が良かった、とも言えるのだろうか。
もちろん、なにもないのが一番ではあったけど。
それから、なにかをつぶやくようにルリーちゃんは表情に暗い影を落とした。
もしかしたら、過去のことを思い出しているのかもしれない。エルフ仲間のことを。
「……可能性があるなら、それにすがりたいって思うよ。私だって、人を生き返らせる魔術なんてものを使えたら、それに頼るかもしれない」
「エランさん……」
「でも、実際に生き返ったクレアちゃんは……ちゃんと、クレアちゃん、でいいのかな」
エレガの言っていたことを鵜呑みにするわけではない。
でも、一度死んだ人間が生き返った。魂なんてものがあるなら、それは本当に本人のものなのか……
どうしても、引っかかるところではある。
「それは、もちろん本人です。断言できます」
するとルリーちゃんは、力強くうなずいた。
自信なさげなルリーちゃんが、こうも自信満々に言うとは。
「その根拠は?」
「そう聞いていた、というのもありますが……あのときクレアさんを見て、はっきりしました。
生き返ったクレアさんは、ちゃんとクレアさんの魔力でした」
ルリーちゃんは自分の目を指して、言った。
エルフの目、"魔眼"。人の体内に流れる魔力をよりよく見ることができるなど、私たちよりも魔力寄りに特化した目だ。
つまり、死んでしまう前のクレアちゃんと生き返ったあとのクレアちゃん。どちらも、同じ魔力だったってことか。
魔力自体は、その人特有のものだ。血縁なんかは似るらしいけど、同じものはありえない。
魔力を別人に似せる、なんてこともできるらしいけど……それでエルフの目は、ごまかせない。
なら、彼女は本当にクレアちゃんか問題は、解決したと言っていいかな。
一応ナタリアちゃんにも、確認を取ってみよう。
「……クレアちゃんは自分の体のこと誰にも話してないみたいなんだけどさ。
ナタリアちゃんには、話してみてもいいかな?」
「そうですね……ナタリアさんなら、誰かに言いふらしたりしませんし。いいと思います」
どっちみち、私たちだけでは抱えきれない問題だ。
そしてこの話をしようと思えば、必然的にルリーちゃんがダークエルフであることにも触れることになる。
となると、初めからルリーちゃんのことを知っているナタリアちゃんが適任だ。エルフの目だって持っているんだしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます