543話 お話ししましょう
私の説明は、もしかしてわかりにくかっただろうか。
そうだよなぁ。相手は教師だ。教師相手の説明なんて、簡単なものじゃない。
「あのぉ」
ただ、このまま黙っていられるのも、居心地が悪い。
もう用が済んだのなら、このまま帰ってもいいだろうか。
そんな期待を込めつつ、先生たちに話しかける。
「私、もうこれで……」
「なあフィールド」
「へいなんでしょう」
私の言葉は、サテラン先生に遮られる。
先生は顔を上げ、私を見た。眉間を指先で押さえながら。
「お前、今の話……本当、なんだよな」
「えぇ、もちろん」
「まあ、そうだよな。嘘ならもっとマシな嘘をつくよな……」
再度先生は、頭を抱えた。頭が痛いのだろうか?
それから、ローランド理事長の視線を感じた。
「ええと……まず、魔大陸にとばされた、と?」
「はい」
それを聞いて、その隣に座っている校長と教頭らしきおじさんが、小声でなにか話し合っている。
小声とはいっても耳をすませば聞こえるもので、「魔大陸? 本当に?」とか「そんなことありえるのか」とかいう声が聞こえた。
なるほど、私の説明がわかりにくかったんじゃなくて、私の説明……いや体験が信じがたいものだと思われているのか。
「魔大陸とは、噂に聞いたことがある程度ですが……本当に、存在するのですか?」
「えぇ。私は以前、行ったことがありますが……あそこを、学生だけで生きて抜けてくるなど……それも、こんな短い間に」
どうやらサテラン先生は魔大陸の存在は聞いた程度で、ローランド理事長は実際に行ったことがあるらしい。
へぇ、それは知らなかったなぁ。ってことは、魔大陸の存在はもう信じてもらえているわけだ。
問題なのは、私たちがこんな短い時間で帰ってきたこと。信じられないって表情だ。
「それは、契約したクロガネ……ドラゴンのおかげですよ」
「ドラゴン……」
「実在するのか?」
「私も、ドラゴンは目にしたことがありませんね……」
ふぅむ、理事長たちはドラゴンを見たことがないのか。
こうなったら、証明するためにこの場で召喚……はさすがにできないか。
クロガネったら、おっきくてかっこいいんだけど、召喚出来る場所が限られてしまうのがちょっとつらいよね。
「契約って……フィールド、お前ドラゴンを使い魔にしたのか?」
「使い魔っていうか、立場は対等なんで使い魔って言い方は正確ではないですねぇ」
「……使い魔契約だろ?」
「そ、そうです」
クロガネとは対等な立場での契約をしているから、使い魔なんて言い方をするのはちょっと抵抗があるんだけど……
説明しやすくするためには、素直に使い魔契約だと言っておいた方がいいか。
先生は、開いた口が塞がらないようだ。わ、面白いな。
「ドラゴンって……もはや、伝説上の生き物だろう?」
「そうなのクロガネ?」
『ふむ……まあ、人の前に姿を現すことはまずないからな。そう思われていても不思議ではなかろう』
「ですって」
「なにがだ。お前、使い魔との会話は他の人間には聞こえないんだぞ、お前。それに頭の中の会話をさも聞いてますよねという雰囲気止めろ。
あと自然にドラゴンと会話してるのか……!?」
「契約したモンスターとは頭の中で会話できるんですよぉ」
「知ってるよ! そういうこと言ってるんじゃない!」
ついには先生は、頭を掻きむしるように両手でわしゃわしゃしてしまった。
許容量を超えてしまった……と言うような姿だ。
そういえば先生、使い魔契約について授業してくれたときにいろいろ言っていたもんなぁ。
それに先生の使い魔はハム子……ハムスターだから、ドラゴンとの格差を感じているのかもしれない。
……いや、これは考え過ぎだな。もし私が逆の立場でも、ドラゴンすげーとはなってもウチのハムスターを卑下することにはならないだろう。
「もしかして、先ほど生徒たちが騒いでいた、黒いドラゴンというのは……」
「あ、私のクロガネですね」
「やはり……まあ、もしかしてもなにも別個体のドラゴンが現れたらそれはそれで問題ですが」
ふむふむ……クロガネとの契約は、やっぱりすごいことなんだろうな。
伝説上の生き物と契約した、私。そのすごさに、さぞや戦慄しているのだろう。
「それで……そのドラゴンのおかげで、こんなにも早く帰ってこれたと」
「あ、はい。あのね、クロガネってばすごいんだよっ。こう、びゅーっと飛んでわーって進んでさ!」
「……フィールド、頼むからちょっと落ち着いてくれ。あと落ち着く時間をくれ」
本当ならば、クロガネの姿を見せてその姿を語り聞かせたいところ。
でも、建物の中だとよほど広い所でないと壊れてしまう。召喚するなら外だ。
とはいえ……
「すごい見てんなぁ」
「……」
窓の外を見ると、生徒たちの顔があった。もう貼りつく勢いで。
先生に連れられて理事長室に入った私は、少しして気付いた。窓の外に生徒の姿があることに。
私が気付いていて先生たちが気付いていないことはないので、これは注意するのを諦めているな。
私が先生に連れていかれて、その先は後者の中だからみんなには見えなかったはずだけど……
ま、連れていかれるなら理事長室、って予想は立てられなくはないか。
「こほん。えー……エランさんのお話の衝撃は大きいですが、ひとまずは無事でなによりです」
咳ばらいをしたローランド理事長が、私を見る。その瞳は優しい。
本当に、私のことを心配してくれていたんだって顔だ。
「まだ聞きたいことはありますが……今日のところは、休んで下さい」
「どうする、フィールド。お前の部屋には今、エーテンはいないが……」
「あ、聞いてます」
私の部屋、か……ノマちゃんがいないから、今一人なんだよな。
せっかくだし、今日は『ペチュニア』に泊まろうかな。ルリーちゃんとラッヘも待たせているし。
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