544話 先輩方!



 また後日詳しい話を聞くということで、今日は帰っていいことになった。

 私と、そしてルリーちゃんの無事も伝え、二人ともたいした怪我もなく帰ってきたことを伝えた。


 うーん、考えてみればルリーちゃんを学園に連れてきても良かった気がする。

 私がクレアちゃんに会いに行くつもりだっただけで、ルリーちゃんはルリーちゃんでクラスメイトに会いに行くとか……


「……ルリーちゃんは、会いたい子とかいなかったのかな」


 あぁ、そんなわけないよなぁ。クレアちゃんに会うことと学園に顔を見せることは別なのに。

 失敗したなぁ。明日は、ルリーちゃんとまた来よう。


「エランくん」


「あ、ナタリアちゃん」


 校舎から出ると、ナタリアちゃんが駆け寄ってきた。

 生徒数は、かなり減っているみたいだ。もう暗くなってきてるし、さすがにずっとは待ってる人は減るよね。


 それこそ、私と直接的なかかわりがあるナタリアちゃん、ダルマスをはじめとしたクラスメイト……

 それに……


「やっほほい、エランちゃん」


「なんだか久しぶりじゃのう」


「あ、お二人とも!」


 ひょい、と手を上げてアピールしてくるのは、タメリア・アルガ先輩。一番フランクな、生徒会の書記だ。

 その隣には、同じく生徒会書記のメメメリ・フランバール先輩。狼型の亜人だ。


 二人とも、生徒会に入ったばかりの私に良くしてくれた頼れる先輩だ。すきぃ。


「なーんか元気そうじゃん」


「タメリア先輩も相変わらずですねー」


「かはは、若いもんは元気が一番じゃい」


 もしかして二人も、私が帰ってきたと知って待っていてくれたのか。嬉しいなぁ。

 二人がここに居るってことは、もしかしたら……


 と、私は周囲を見るけど、他のメンバーは見当たらない。

 それを察してか、メメメリ先輩が口を開いた。


「リリっちは、自宅へと帰っていてな。ゴルっちのことも心配だから、学園にはしばらく顔を見せておらん」


「そうですか……」


 リリっち……リリアーナ・カロライテッド先輩。生徒会副会長で、なにを隠そうゴルさんの婚約者。

 ゴルさんが重傷を負ったということで、そっちについているのか。当然だな、あの人ゴルさん大好きだし。


 ただ……今はもう王族ではないっぽいゴルさんをどう認識しているのかは、気になったけど。

 ……や、それはここにいる人たちに聞いても同じか。


「シルフィは、実家に帰ってるよ」


「そうですか……まああの人は、私が帰ってきたと知っても興味なさそうですけど」


「かはは、んなことはなかろう」


 シルフィ……シルフィドーラ・ドラミアス先輩の愛称だ。

 六人の生徒会、三年生四人を除いて私と同じく唯一の、こちらは二年生だ。


 なんらかの獣人らしいんだけど、私だけ教えてもらってない。他の先輩は本人に許可なしに教えてはくれないし、本人が私に教えようとはしない。

 どうにも、彼はゴルさんの大ファンで……私のことを、一年生で決闘を挑んだ無謀で野蛮で礼儀知らずな女、だと思っているらしい。


 そんな人だから、学園に残っていてもこの場にはいなかっただろう。


「ところで、先輩方にお聞きしたいことがあるんだけど」


「お? なんでも聞いてみ」


 ん? なんでも?

 ……って言ってる場合じゃなくて。


「ゴルさんのことなんだけど……」


「エラーーーン!」


 生徒会の仲良しメンバーなら、ゴルさんのことをなにか知っているだろうと思い……それを聞こうとしたところ、私を呼ぶ声があった。

 それは、ここ最近で聞きなれた声。


 リーメイのものだ。


「リーメイ、戻ってきたんなにぃいいい!?」


 駆け寄ってくるリーメイは、おしゃれな服に身を包んでいた。

 この国に来て、認識阻害の魔導具と全身を隠す衣類を身に付けていたはずだ。


 なのに、リーメイはおしゃれな服装に身を包んでいた。

 身を包む、とは言っても、リーメイは下半身お魚なのでズボン類は履けない。スカートを履いている。


 服も、初めて会ってから以降貝殻でおっぱいを隠しているだけだったから……なんというか、服を着ているのが新鮮だ。


「いや、なんでモロ出し!?」


「?」


 リーメイの下半身は、当たり前のように晒されている。

 ニンギョですよと、周囲に知らせているようなものだ。


「おーいリーメイ、いきなりそんな走らなくても……」


「なにやってんだお前はァ!」


「へぶら!?」


 リーメイを追いかけるようにして向かってくる、ヨル。そのヨルの頬を、私はぶん殴った。

 私と、リーメイとヨルはそれぞれ分かれた。ヨルなら、リーメイが危なくないように守ってくれると思っていたのに!


 これじゃあ丸わかりじゃないか!


「痛い……」


「お前! なにしてんの! なんでリーメイが服着てんの! あぁん!?」


「その言い方はいろいろ誤解を招くだろ!」


「あのぉ……」


 倒れたヨルに追撃しようとしていたところ、恐る恐るといった形で声がかけられた。

 小さく手を上げているのは、かわいらしい女の子だった。


「キミは……」


「えっと、私たち……リーメイちゃんに、かわいい服を着てもらいたいなって思って。それで、勝手に……すみません」


「えぇ?」


 手を上げた女の子と、その隣にも何人か。

 彼女たちは申し訳なさそうにして、頭を下げていた。


 えぇと……これって、どういう?


「ヨル?」


「……クラスメイトの女子。リーメイを見て、あまりのかわいさにいろいろ着せたくなったんだと」


 ううんと……つまり。

 ヨルがリーメイを連れ出したんじゃなく、ヨルのクラスメイトの子たちがリーメイにかわいい恰好をさせたかった、と。


 なるほどなるほど……じゃあヨルは、悪くなかったわけだ。


「なぁんだ、それならそうと言ってよぉ。いいよぉ、むしろリーメイをこんなかわいくしてくれてありがとうねぇ」


「おい! 俺と扱い違くないか!」


「当然でしょ! かわいい女の子がしたことならなんだって許されるの!

 あ、殴ってごめんね」


「釈然としねえ!」

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