542話 呼ばれた先で
先生に着いていき、私は学園の敷地内から校舎へと入っていく。
その最中、私に向けられる視線が半端なく多かった。この視線は、あれだ……魔導学園に入学した当初に感じたものに近いものだ。
当初は、黒髪で魔力がとんでもない美少女、って周囲からの視線を集めていた。
それが学園生活を経て、ダルマスと決闘して勝ったりグレイシア師匠の弟子だとみんな知ったり魔獣と戦って勝ったりクラス試合をして勝ったりゴルさんと決闘して負けて生徒会に入ったり……
いろいろしているうちに、私へのイメージもだいぶ変わったわけだ。
そんな、クレアちゃん曰く『とんでもない』私が魔導大会の最中にどこかへ消えた。
行方を心配していた人たちも少なくない。あと純粋な興味とか。
そんな私が、いきなり帰ってきたのだ。そりゃ驚くよね。
「ここって……」
「あぁ、入れ」
校舎の中へと続き、目的地目指して歩いていた先生は……一つの部屋の前で、立ち止まった。
私も釣られて止まり、教室の表札を見る。
そこには、私にとっては印象深い文字が刻まれていた。
「失礼します」
「あ、失礼します」
ガララ……と扉が開き、先に入る先生に続いて、私も『理事長室』に足を踏み入れる。
部屋の中には、すでに人が座っていた。薄い紫色の髪をオールバックにした、深いしわが刻まれた女性だ。
他にも、二つあるうちのソファーの一つに、おじいちゃんが座っている。
この人は確か……この学園の校長だ。入学時や組分けの時に見たことがある。
その隣に座っている、少し若そうな男は……理事長、校長と来たら、次は教頭ってやつだろうか。
「理事長、エラン・フィールドを連れてきました」
「ご苦労さまです。ようこそ、エランさん」
「あ、ども」
正面の高価そうな机に肘を乗せ、高価そうな椅子に座っている人物は、この学園の理事長。
名前は確か、えっと……なんだっけ。なんか結構長い名前だった記憶があるんだよなぁ。
ただ、ここで素直に理事長の名前を覚えてない、って言うのもどうなんだろう。
「……ぁ」
なんとなく手がかりを求めて部屋の中を視線だけ動かしていると、飾られてある賞状に名前が書いてあった。
フラジアント・ロメルローランド……あ、そうだそうだこんな名前だった!
ただ、すぐ忘れちゃいそうだなぁ……ローランド理事長で覚えておこう。
「ふふ、そう固くならずに。そこのソファーに座るといいわ」
「あ、はーい」
私が突っ立っていたのを、緊張しているからだと勘違いされたみたいだ。
ごめんなさい、あなたの名前がわからなくて必死に手がかりを探していただけなんです。
とはいえ、せっかく座っていいと言われたのならそれに従わないわけにもいかない。
ローランド理事長の示した先にあるソファーへと向かい、私は腰を下ろす。
続いて先生も促されると、私の隣に腰を下ろした。
「さて、エランさん。今貴女を呼んだ理由……わかるかしら?」
ローランド理事長は肘を乗せたまま手を組み、その上に顎を乗せて私を見ていた。
私がここに呼ばれた理由、か。
そんなの、正直考えるまでもない。
「転移の魔法石で消えたあと、ここに戻ってくるまでどこにいたのか……ですね」
「えぇ」
そりゃそうだよなー、再会した人に事あるごとに聞かれちゃうわけだし。
しかも先生たちとしては、生徒が消えてその後どうしていたのか、知らないわけにはいかないだろう。
それにしても、こんな風にがん首揃えなくてもいいのに……
「後日、私たちの方で生徒たちに説明はしておく。一々お前から説明するのも面倒だろう」
「あ、それは助かります」
やっぱり、私からあれこれとみんなに一々説明するのは、面倒だと思っていたところだからね。
とはいえ、私の話をちゃんと信じてくれるかどうか……
……まあ嘘は言うわけないんだし、正直に言うしかないよね。
「じゃあ、とりあえず順を追って説明するんで」
「あぁ、ゆっくりでいいぞ」
それから私は、魔導大会の最中に転移の魔石で飛ばされた後のことを話した。
友達のルリーちゃんと乱入してきたエルフラッへと共に魔大陸に飛ばされたこと
魔大陸で黒いドラゴンと契約したこと
魔族と出会って魔族間の戦争に巻き込まれたこと
最中に魔導大会をめちゃくちゃにしたエレガたちと交戦したこと
ラッへが記憶喪失になったこと
拘束した彼らを連れてこの大陸に戻ってきたこと
最中に『ウミ』でニンギョのリーメイと出会い連れてきたこと
この大陸に着いてからなんとか見つからないようにこの国まで帰ってきたこと
……こうして整理して話すと、この数日でよくもここまでの出来事が起こったもんだよ。
ラッへやリーメイに関しては、話しても問題はないだろう。というか、さすがに少しは知ってる人もいたほうがいい。
ただ……魔物の村のことや、この国の人間が少しおかしくなっていることは、伏せておいた。
なんとなく、指摘しても仕方ないことだと思ったから。
「ざっとこんな感じ……あれ?」
そういえば、話し始めた頃は相づちを打ってくれていた先生たちが途中からだんまりになったな……と気づき、改めて先生たちの顔を見る。
なんでか、四人が四人とも頭を抱えていた。
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