541話 みんなとの再会



「まあまあ、落ち着いてよ」


「逆になんでキミはそんな落ち着いているんだ!?」


 とりあえずナタリアちゃんを落ち着かせ、私はナタリアちゃんの肩越しに背後を見た。

 そこには、たくさんの生徒。中には知った顔もいる。


 ははぁ、クロガネを召喚した際に、出てきちゃったのか。いきなりあんな大きなドラゴンが現れたらびっくりするもんね。

 で、その場に残っていたナタリアちゃんが質問攻めにあっていたわけだ。


「迷惑かけたねぇ」


「そう思うならきちんと説明していってほしかったな」


 それにしても、こうして見るとわりと寮に生徒は残っていたんだな。

 それとも、寮じゃなく家に帰っていたけど騒ぎを聞きつけて……って人もいるかもしれない。


「フィールド……本当に、帰って来てたのか」


「あ、先生」


 こちらの様子をうかがっていたみんなの中で、歩いてくる人影が一つ。

 それは、学園での私の組の担任、サテラン先生だった。


 先生は、驚いたような表情となぜか呆れたような表情を混ぜ合わせたような表情を浮かべている。


「あ、先生じゃない。帰ってきたならそう連絡しろ。どれだけ心配したか……」


「あ、心配してくれたんだ」


「生徒のことだ、当然だろう」


 ふむ……やっぱり、王城に戻るより先に先生に挨拶しに行ったほうがよかったかな。

 ま、今更考えても仕方ない。


 先生は、職員用の寮があるらしいのでそこで寝泊まりしているのだろうか。


「みんな懐かしいなぁ。数日しか経ってないのに」


「呑気な奴だ。ま、変わりないようでなによりだがな」


 こうしてみんなの顔を見ていると、あぁ帰ってきたんだって気持ちになるなぁ。

 まだ見てない友達もいるけど、これだけ人の目に触れれば人から人へ話が広がって、向こうから会いに来てくれるかもしれない!


 仲の良い子の家もわかれば、直接で向いてもいいんだけどねぇ。


「お」


 誰か気軽に話せる人はいないなとキョロキョロしていると、じっと私を見ている赤毛を見つけた。

 特徴的なツンツン赤毛、そして変な眉毛。間違いない、やつだ。


「あ、ダルマスじゃーん。おーい」


「!」


 クラスメイトを見つけたことで、私はダルマスに向けて目を振る。

 とうのダルマスはというと、肩を跳ねさせたかと思えばダッシュで私へと向かってきた。


「やめろお前! 恥ずかしいだろ!」


「恥ずかしい? なんでさ。私とダルマスの仲じゃん」


 恥ずかしいと叫ぶダルマスだけど、私はそんな恥ずかしいことをしただろうか?

 ダルマスとは二人だけの魔導訓練をした中だし、ちょっとは気安くしてもいいかなと思ったんだけど。


 あ、二人だけって言っても途中からもう一人増えたんだけどね。


「言い方! その言い方は誤解を生むだろ!」


「エランくんと……赤毛くんの、仲?」


「ほら見ろ!」


 いやぁ、久しぶりのやり取りに和むよ。

 ルリーちゃんはともかく、記憶喪失のラッへや会ったばかりのリーメイとじゃこういうやり取りはできないからさ。


 なんにせよ、元気そうでなによりだよ。


「それにしても……お前今まで、どこに行ってたんだ」


 あ、やっぱそれ聞いちゃうよね。


「まあ、いろいろあったのさ……」


「なんだそれは。

 ……ところで、その指輪はなんだ?」


「これ? これはあの……」


 ダルマスは次に、私の指にハマっている指輪を見た。

 目ざといやつめ……もしかして、これが国宝とはいかなくてもかなり珍しい魔導具だと気づいたか?


 でも、正直に答えるわけにもいかないもんなぁ。

 こうなったら、経緯だけを簡略化して答えるか。


「これは、男の人にもらったものだよ」


「お、男の人……?」


 ザラハドーラ国王は男の人だし、レジー拘束の褒美とはいえあの人からもらった、って認識で問題はないよね。


「そ、それを……左手の薬指に、は、ハメてる、のか?」


「へ? んー、まあ」


「……」


 指輪をこの指にハメたのは、ただなんとなくだ。深い意味なんてない。

 あ、ザラハドーラ国王にハメてもらったわけじゃないって言ったほうがいいかな。

 ……まあいっか。そもそも今のみんなが、ザラハドーラ国王をどう認識しているかわからないし。


 これで質問は終わりだろうか。ダルマスはなぜか、その場で固まってしまっている。

 それに、ナタリアちゃんも顔を赤くして口元を押さえていた。私変なこと言ったかな?


 なぜか先生は、呆れたような表情を浮かべていた。

 先生も指輪もらった現場にいたけど、説明してもらおうかしら。


「お前は、相変わらずというかなんというか。

 ……まあいい、フィールド、お前にはいろいろと聞きたいことがある」


 先生は軽くため息を漏らしたあと、キッとした目で私を見た。

 あぁ、いろいろ聞かれるんですねわかります。


 もう何度目の説明になるけど……先生に話して、先生経由でみんなに話してもらったほうが、今後の手間は省けるか。


「というわけで、フィールドは着いてこい。お前たちもいろいろと話したいことはあるだろうが、今回は譲ってもらうぞ」


 この場では落ち着いて話はできない。なので、場所を移す。

 職員室か、生徒会室か……そういったところだろう。


 先生は周囲の生徒たちに声をかけ、歩き出す。私はその背中に、ついていく。

 最後、振り向いてみると……未だ固まったままのダルマスが、印象に残った。

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