526話 ルームメイトとの再会



 あれこれと考えているうちに、魔導学園にたどり着いた。

 あの頃と、変わらない……国中がめちゃくちゃになったとはいうけど、ここには被害はなかったのだろうか。


 そういえば、外からの侵入者は許さないというのがこの学園の特徴だったな。

 そのわりに部外者のフィルちゃんが入ってきたり、いきなり魔獣が出現したりしたけど。


「ここが、人間の通う学園ってやつカー」


 リーメイは、キラキラした目で学園を見上げている。

 ニンギョっていうのは水の中が拠点みたいだし、こういった建物はなかっただろうから……なにもかも、新鮮なのだろう。


 あ、入口あたりに兵士さんがいる。

 でもこっちを確認しても、すぐに視線をそらした。私たちを捕まえようってことはなさそうだ。


 国王との話を終えたのはさっきなのに、もう兵士に連絡が行ったのか。早いなー。


「じゃあ、私はまずクレアちゃんに会いに行くけど……ヨルはその、学園に会いたい人……いる?」


「いるよ! なんだその言いにくそうにしながら言う感じ! 友達くらいいるから! 触れちゃいけないことみたいに言わないでいいから!

 ……俺も俺で、気になってる奴はいるし、こっからは別行動でいいんじゃないか」


 どうやら、ヨルにも会いたい人はいるようだ。

 私と違って、ヨルはずっとこの国にいた……とはいえ。

 魔導大会での事件の後に捕まってずっと地下牢にいたのなら、自由な行動はできなかっただろうし。


 友達と会えてないって意味では、私とおんなじか。


「わかった、じゃ用事が終わったらここに……いや、別にそうしなくてもいいか」


「あの宿屋に戻ればいいだろ」


「だね」


 どのみち、学園での予定を済ませたら『ペチュニア』に戻るんだ。わざわざここで待ち合わせなくてもいい。

 となると……


 私は、リーメイに目線を向ける。


「リーメイは……どうしよっか」


「リー、学園の中見てみたイ!」


 リーメイは手を上げて、元気に叫んだ。

 うぉっ、一転の曇りもない眼だ……ま、眩しい!


 このままリーメイを帰すのはできなさそうだな。というより……この国というか人の国に初めて来たリーメイを一人にするほうが怖い。


「じゃあ仕方ないけど、リーはヨルに着いてク」


「おいいろいろ文脈おかしくない!? しかも仕方ないってなんだよ!?」


「だってエランは、大切なお友達に会うんでしョ。邪魔できないヨ」


「俺も友達に会うんですけど!?」


 リーメイは進んで、ヨルに着いていくと言った。

 当然、ヨルは仰天しているわけだけど……


 ……もしかしてリーメイ、私に気を遣ってくれたのかな? クレアちゃんと二人で話せる、その機会を作るために。


 リーメイがいればクレアちゃんの洗脳も解ける。だけど、洗脳云々の前に……クレアちゃんとは、話をしなければいけない。

 ルリーちゃんのことで。

 だから正直……


「助かるよ、ありがとうリーメイ」


「うン!」


「だから俺の話を……はぁ、まあ別にいいんだけどさ」


 これで、私とヨル、リーメイに分かれて行動することに。

 用事が済んだら、それぞれ『ペチュニア』に帰る形だ。


「じゃあヨル、リーメイが迷子にならないようにしっかり見ててよ」


「わかったよ、ちゃんと見とく」


「いやらしイ」


「理不尽だろ!」


 学園の門を開けてもらい、私たちは敷地内へと入る。

 ただ敷地を跨いだだけなのに……途端に、懐かしい感じがする。なんだろう、におい……っていうのかな。

 懐かしいにおいだ。


 私たちは一言二言交わしてから、分かれる。

 私は女子寮へ、ヨルは男子寮へ……今更だけど、リーメイが着いていくってことはリーメイも男子寮に行くってことだよな。


 まあ、男子が女子寮に行くのは原則禁止だけど、逆は別に禁止されていない。

 そもそもこんな状況で、校則が働いているのかって話だけど。


「……誰も、いないな」


 少し歩いてみるけど、周囲には人の姿は見当たらない。

 学園ノ敷地内なのに、人っ子一人いないのだ。


 みんな寮の中か……校舎の中にいるんだろうか?

 普段、なにもない日でも誰かしら歩いていたりするので、誰もいないのは新鮮だ。


 まあ、みんながみんな学園に残っているわけじゃないんだ。普段とは状況も違うだろう。


「クレアちゃんの部屋は……っと」


 寮の中に足を踏み入れ、クレアちゃんの部屋を探す。

 一年生寮、入学した人数は例年より少ないらしいとはいえ、それでも数は多い。

 一つ一つ確認していくのは大変だぞ。


 そんなことを思っていたとき……


「あれ、ラン?」


「!」


 後ろから、声が聞こえた。多分、私を呼んでいる。

 聞き慣れない呼び方。そんな呼び方をするのは、私は一人しか知らない。


 私は振り向いて、後ろにいた人物を確認する。


「さ、サリアちゃん?」


 そこには、思った通りの人物。サリア・テンランちゃんがいた。

 クレアちゃんのルームメイトであり、人の名前を頭文字を飛ばして呼ぶのが特徴的だ。

 私ならエランだからラン。クレアちゃんならレア、みたいにね。


 あんまり会ったことはないけど、こうも印象に残っているのは名前の呼び方が特徴的であることと、クレアちゃんとルームメイト……

 という理由だけではない。


 一つは、身体的特徴があるからだ。

 なんせ、頭のてっぺんに一本、赤い角がちょこんと生えているのだ。


 一つは、なにを隠そう師匠の熱狂的な信者だからだ。師匠を神と崇めている。

 魔女さんとはまた違った意味で師匠ラブな子だ。


「ラン、本当に? いなくなったって聞いたけど……」


「うん、戻ってきたんだ。心配させちゃってごめんね。

 それで、いきなりだけど……クレアちゃんに、会いたくて」


 クレアちゃんの部屋を探していたら、クレアちゃんのルームメイトと再会するとは。

 これは、運が良い。

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