525話 怪しいのは誰だ



 リーメイのおかげで、私は洗脳から逃れることができた……らしい。

 というのも、私自身に洗脳されそうになっていたという自覚がないからだ。


 でも、今隣を歩いている人だって……まさか自分が洗脳されているだなんて、思いもしないはずだ。

 洗脳って、そういうものなのだろう。


「んじゃあ、あの国王かちっこい王女さんが怪しいんじゃねえか?」


 私だけが洗脳にかけられそうになっていた、それを聞いてヨルも同じ考えに至ったみたいだ。

 ニンギョは特殊な体質なので身体に影響を及ぼすものは通用しない、リーメイを除いて。

 私とヨルの違いは、なにか。


 私とヨルが分かれた瞬間が、二回あった。

 一度目は、再会したノマちゃんと別室に移動した時。二度目は、国王と二人きりになった時。


 そして、私だけが洗脳されかかっていたことを考えると……容疑者は、二人になるわけだ。


「でも、あの国王はいい人って感じだったよ? 国民を洗脳しようだなんてこと、考えてしかも実行してるなんて思えないけど……」


「それはエランの主観だろ? 人畜無害な人物を演じているだけかもしれないじゃないか」


「それにエランは、どうしようもなくお人好しなところがあるからネー」


「!?」


 国王が私の前で、自分を偽っていた可能性か……そうだなぁ……

 いい人そうに感じた、嘘はついていないように見えるって言っても、結局は私の主観でしかないし。


「それに、国王じゃなけりゃ……あの王女さんってことになるぜ?

 俺には、あのちっこい女の子に国中洗脳にかける力があるとは思えないけどな」


「まあ、そうだよね……」


 容疑者が二人しかいない以上、犯人はほぼ絞り込まれたようなものだ。

 やっぱりあの国王が、犯人なのか。


 ザラハドーラ国王と古い友人ってのも、本当かどうか……だよな。


「ゴルさんたちに聞ければ、わかるんだろうけど」


 父親の古い友人なら、子供であるゴルさんたちも知っている可能性が高い。

 っとなると……ゴルさんにも、確認に行きたい。

 あと、重傷だって言うなら心配だし。


 しまったな、ゴルさんたちの居場所聞いとけばよかった。


「ゴルさんの家は王城だもんね……でもそこにいなかったし。

 うーん、どこにいるんだゴルさん」


「ん? 生徒会長さんなら寮にいるだろ」


「……ん?」


 私の言葉に、ヨルが反応する。きょとんとした様子で。

 でも、きょとんとしたのはこっちだ。


 ……ゴルさんが学園の寮に、いる?


「それ、本当に?」


「嘘ついてどうすんだよ」


「……早く言ってよぉ!?」


 確かに、ヨルがここで嘘をつく理由はない。

 でも、まさか学園の寮にいるなんて……選択肢から、抜けてた。


 実家か、それか病院にでもいるのかと。


「も、もう知ってると思ってたんだよぉ。怒んなよぉ」


「お、落ち着いてエラン」


「ふー、ふーっ」


 ……いや、今のは私の確認不足が招いたことだ。

 ヨルに当たるのは、間違いってもんだろう。


 まあ、ここはゴルさんの居場所が特定できたってだけでも良しとしておこう。


「ふーっ。

 ……じゃあますます、寮に行かないとね」


 元々、寮へはクレアちゃんに会うために行く予定だった。

 だけど、同じく寮にゴルさんがいるのなら、行く理由がもう一つ増える。


「生徒会長さんねぇ。すげー強い人だったけど、あの人も洗脳されてんのかね」


 頭の後ろで手を組み、ヨルは言う。

 ……こいつ、魔導大会ではゴルさんと引き分けたんだよなぁ。ゴルさんの力は私が身を持って知っているから、同時にこいつの強さもわかる。


 でもなんか……! こいつとゴルさんが引き分けたなんて、納得いかない!


「そのために、リーがいル」


「そっか。リーメイに触ってもらえれば問題なしなんだもんな」


「……なんか言い方やらしイ」


「なにが!?」


 当のヨルはこれだ。あのゴルさんに匹敵する力があるなんてなぁ……

 いや、匹敵どころか。こいつは周囲の魔力を吸い取るなんて反則臭い力を持ってるから、力に関しては誰にも及ばないものになるのかも。


 ……こいつがねぇ。


「それで、どうするのエラン」


「へっ?」


 おっと、話を聞いていなかった。失敗失敗。

 私に話しかけてきたリーメイは、かわいらしく首を傾げている。フードで顔が隠れているのがもったいない。


「ルリー。一旦帰って、ルリー呼ブ?」


「あー……」


 リーメイの言葉に、私は立ち止まる。

 これから、魔導学園に……クレアちゃんに会いに行こうというのだ。そこに、ルリーちゃんを同行させるべきか。


 タリアさんの話だと、クレアちゃんはずっと寮に引きこもっている。実家に帰らず、タリアさんにもその事情を明かしていない。

 その理由は……十中八九、ルリーちゃんの……いやダークエルフのことだろう。


 クレアちゃんはあのときのことが頭から離れず、かといって誰にも相談できないままに、一人で抱え込んでしまっている。


「本当は、ルリーちゃんとクレアちゃんとで話をしてほしいけど……」


 いずれ、二人はちゃんと話をするべきだと思う。

 クレアちゃんはルリーちゃんを怖がっているし、ルリーちゃんはクレアちゃんに怖がられているのを怖がっている。


 でもそのままじゃ、二人の関係は溝が深くなるだけ。

 二人は友達なんだから……また、仲直りしてほしい。

 ただ……今クレアちゃんがどんな状態か、わからない。

 そんな状態でルリーちゃんと会わせるのは、危険な気がする。


 それに……


「もう、着いちゃった」


 いつの間にか、魔導学園の正門前だ。

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