524話 ポンと解決だヨ



 まだまだ、わからないことが多い。でも、それは追々解決していけばいい。

 今はとにかく、早くクレアちゃんに会いに行きたい!


「ではフィールドさん、皆さんに会ったら、よろしくお伝え下さい」


「もちろんだよ」


 ノマちゃんと握手を交わして、私は約束する。

 この王城で勤めてから、ノマちゃんはみんなとは会っていないらしい。レーレちゃんお気に入りのメイドとして、レーレちゃんの側にいるのが仕事とはいえ……


 数時間でも、外に出たいと頼めば……あの国王なら、許可してくれそうなものだけどな。


「それじゃ……」


「あの、エラン、おねえちゃん」


 握手を離して、そろそろ部屋から出ようとしていたところで……服を、引っ張られる。レーレちゃんだ。

 彼女はうつむきがちに、それでもチラチラと私を見ていた。


 うっわ、なにこの子かわいいなぁ。


「あの……また、遊びに来てね?」


「それは、もちろんだよ!」


 小さい女の子の頼みは、断れないもんね!

 ノマちゃんと情報共有をするためにここへは何度も来ることになるだろうし、そうなればレーレちゃんと会うこともあるだろう。


 これは別に、レーレちゃんのかわいさにやられたからではない。ノマちゃんと会う、ついでに……


 いややっぱりかわいさにやられたってことでいいや!

 だってかわいいんだもん!


「やったぁ。

 ……約束、だよ?」


 そう言って、笑ったレーレちゃんの表情は……なんだか、違和感を覚える表情だった。



 ――――――



 兵士に案内されて王城を出た私たちは、王城の扉を背に歩いていた。

 まさかノマちゃんとここで再開できるとは、嬉しい誤算ってやつだったね。


 それに、エレガたちも引き渡せて身軽になったし。

 もうこれで、この髪の色を気にせずに堂々と歩けるね。


「つーか、リーメイが来た意味なかったんじゃねえの?」


「むっ、失礼ナ」


 頭の後ろで手を組み、からかうように軽口をたたくヨルに、リーメイがほっぺたを膨らませる。

 言い方よ。


 ただ、リーメイはそれ以上なにも言わず……しばらく歩いたところで、いきなり私をじっと見つめてきた。


「な、なに?」


「エラン、手」


「え?」


「手」


 立ち止まり、リーメイは私に手を差し伸ばした。

 そして、手、と口にする。これはつまり……私も同じように、手を差し出せってことかな。


 そうする意味がわからないけど、私は言われたとおりに手を差し出す。

 すると、伸ばした手をリーメイの手に捕まえられた。


 ぎゅっ、と握られる。さっきノマちゃんとしたみたいに、握手する形になる。


「り、リーメイ?」


 リーメイの手は、女の子特有の柔らかさだ。あたたかいし、気持ちいい。

 手をつなぐのはいいんだけど、どうして急に? まあ握手に理由はいらないって意味なら疑問の意味はないんだけどさ。


 それからしばらく手を握られた後に、離された。


「はい、これで大丈夫」


「大丈夫……?」


「うン」


 握手をして、大丈夫と笑うリーメイ。

 いったいなにが大丈夫だというのか?


 わかっていないのは私だけではないようで、ヨルも首を傾げていた。


「リーメイ、今のは……?」


「ただ握手をしたかっただけなんじゃねえか?」


「エ? だってエラン、洗脳されかかってたかラ」


「握手をしたいだけってなんか恥ずかしいけ……ど?」


 握手の理由を聞いて、口を挟んでくるヨル。

 もしそれが理由だったら嬉しいようなむず痒いような……なんて考えていたところへ。

 リーメイから、予想もしていなかった言葉をかけられた。


 今……聞き間違い、だろうか?


「せ、洗脳されかかってた……?」


「うん、そウ」


「……」


 どうやら、私の聞き間違いではなかったようだ。

 ただ、あんまりにもあっさりと言うから耳を疑ってしまったのだ。


「でももう大丈夫! リーに触れれば、ポンと解決だヨ!」


「そ、そっか……あ、ありがとう?」


「いやいやいや待て待て待て! 洗脳されかかってたって、それ本当なのか!? 俺が来た意味なかったんじゃとか言ったから嘘こいてんじゃないのか!?」


「ヨルはたいてい失礼だよネ」


 ヨルの言い方はあれだけど、私も似たような疑問だ。

 洗脳されかかってたなんて、本当に? もしそうだとしたら、いつ、どのタイミングで? 誰に?


 それがわからない。私に、洗脳されそうになった自覚なんてないから。


「誰かは、わからなイ。お城を出てから気づいたかラ。あ、エラン洗脳されかかってるなっテ」


「そんな軽い感じで!?」


 リーメイは、のほほんとしたところがあるけど……嘘は言わないだろう。しかも、こんな嘘なんて。

 ヨルの言葉にムッとしたからって、こんなこともしないだろうし。


 となると……本当に、私が? 自覚もないままに?


「おいおい、じゃあ俺は大丈夫なのか!?」


「大丈夫だヨー」


「本当か!? さっきの腹いせでいじわる言ってるんじゃないよな!? 謝るから洗脳されかかってたら治してくれよ!」


「だから大丈夫だっテー」


 ぎゃいぎゃいと騒がしいヨルに、リーメイは冷静に対応している。

 実際に、洗脳されかかっているかどうかってのは私にはわからないけど……リーメイは意地悪で、困っている人を放っておく子じゃない。


 なので、本当に洗脳されかかってはいないのだろう。

 ……なんで私だけ?

 そう考えると、一つの予測に行き着く。


 それは……ヨルが接触しておらず、私が接触した人物、ってことだ。

 同じ空間にいるだけで洗脳されるなら、私とヨルに差はないはずだ。でも、そうならなかったってことは。


「私とより近くにいた人が、私を洗脳しようとした?」


 さっき王城で、私と近くにいたのは……二人きりになった、国王?

 それとも……ノマちゃんと一緒についてきた、レーレちゃん……?

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