527話 会いに来た
魔導学園にたどり着き、クレアちゃんの部屋を探して女子寮を歩いていたところ……クレアちゃんのルームメイトである子に、再会した。
サリアちゃん。懐かしい顔だ。
確か……ナタリアちゃんやコロニアちゃんと同じクラスだって言ってたっけ。
あんまり接することはなかったけど、妙に印象に残っているのは、頭から生えた角のせいだろうか。
「レアに会いに来たの?」
「! わかるの?」
レアとは、クレアちゃんのこと。
私がクレアちゃんに会いに来たことは、まだ話していない。でもこうして、言い当てられたってことは……
「レア、ずっとランのこと気にしてた。いなくなったこと、それからなにかにごめんなさいしてた。
だから、ランもレアのこと気にしてるのかなって」
「……そうだね。私、クレアちゃんに会いに来たんだよ」
クレアちゃんは、私がいなくなったあとずっと気にしてくれていた。
しかも、なにかにごめんなさいしてたとは……謝ってたってことだ。誰に?
もしかしたら……ルリーちゃんに?
「サリアちゃんは、ずっとクレアちゃんのそばにいてくれたんだ?」
「ん。一人にしちゃ、いけないと思ったから」
サリアちゃんは、クレアちゃんが危うい状態だと察して、一人にせずに側にいてくれたんだ。
寮の部屋に引きこもっている……そこには当然、ルームメイトがいる。
もしかしたら、クレアちゃんはサリアちゃんに、一人にしてくれとかそういったことを言ったのかもしれない。
でもサリアちゃんは、クレアちゃんを一人にはしなかった。
それは……少なくとも私にとっては、とてもありがたいことだと思う。
なにも話せなくても……誰かが側にいてくれるのは、救われるはずだ。
きっとクレアちゃんも……
「クレアちゃんはずっと、部屋に?」
「泣いたり、落ち込んだり……理由は話してくれないけど。
外にも出ないから、私が適当にご飯買ってきてる」
部屋までの道のり、並んで歩くサリアちゃんは手に持った紙袋を見せてくれる。
なるほど、購買でいろいろと買ってきたのか。
学園は休校でも、購買や食堂は機能しているらしい。
なので、顔を合わせることがないと思っていたみんなも、顔を合わせる時間はあるのだ。
だけど、クレアちゃんは部屋から出てこない状態。みんなとも交流できないし、なによりそのままでは空腹で死んでしまう。
それを心配したサリアちゃんが、こうして食事を届けている。
「でも、びっくりしたよ。帰ってきたらランがいるんだもん。魔導大会の会場で消えちゃったって聞いたけど」
「あはは。話せば長いことながら」
「いいよ、わざわざ話そうとしないでも。いろんな人にするの大変でしょ」
「まあね……」
寮も広いとはいえ、目指す場所がわかっていればそこまでの距離はない。
サリアちゃんの案内で、階段を上って廊下を歩いて……一つの部屋の前に、止まる。
私も続いて止まると、表札を見た。
そこには、クレアちゃんとサリアちゃんの名前が刻まれている。ここが、二人の部屋だ。
「この中に……」
「いきなりランが入ったら驚くだろうから、まずは私が説明するね」
「お願い」
まあ、そうだよな。表情にはあまり出てなかったとはいえ、サリアちゃんだって私に驚いたんだ。
私が消えるところを目の前で見たクレアちゃんの前にいきなり私が現れたら、それこそ混乱させてしまう。
なので、サリアちゃんにまずは任せるのが正解だろう。
「レアー、帰ったよー」
私とサリアちゃんはお互いにうなずき、サリアちゃんは扉を開けて部屋の中へ入っていく。
バタン……と扉の閉まる音。それを確認して、私はため息を吐いた。
思わぬ再会だったけど……サリアちゃんに会えて、よかった。
だって今、私……すごく緊張してる。
こんな状態で、いきなりクレアちゃんに会えってなるのは、正直気が重い。
クレアちゃんは目の前で、私が消えたことを心配しているだろう。だから無事を報告する。
でも……それだけで終わりじゃ、ない。
「ふぅ……」
クレアちゃんが部屋に引きこもっている理由に、直面しないといけない。触れないわけにはいかないだろう……ルリーちゃんのことを。
無事を確かめ合ってはい終わり……そんな単純な話じゃない。
それから、数分……私は、待った。長いような、それとも短いような……どちらともわからない空間。
やがて、扉が開く。
「いいよ」
「ありがとう。……なんて言ったの?」
「レアに会いたい人がいるからって、強引に押し切った。ランの名前出したほうが、よかった?」
「いや、大丈夫だよ」
私が会いに来た、ということは話していないようだ。
それでいいかもしれない。事前に私が来たなんて話したら、もしかしたら会いたくないなんて言うかもしれない。
まずは、会いに来た人がいると説明して、警戒を解いてもらうことが……
「お邪魔しまー……って、サリアちゃん?」
私が部屋へ入ると、サリアちゃんは入れ替わるように部屋から出ていこうとする。
「私は、席を外したほうがいいでしょ?」
「……ありがとうね」
「ん。ご飯は、机の上に置いておいたから。落ち着いたら食べさせてあげて」
ホント、どこまでも気遣いのできる子だ。
サリアちゃんが部屋を出て、扉が閉まる。それを確認して、私は部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋が違っても、部屋の構造が同じなのは知っている。前に、ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋でお泊りをしたからね。
そして、足を進めた先に……ベッドの上の布団が、異様に膨らんでいる光景があった。
「……クレアちゃん?」
「!」
布団を被り、誰かが隠れている。それが誰か、考えるまでもない。
私が声を掛けると……布団がピクリと、震えた。
そして、ゆっくりと振り向いて……その人物は、布団から顔だけを出し、私を見つめた。
「……っ」
そこにいたのは……肩まで伸びていたサラサラの髪はボサボサで。泣き腫らしたのか目は赤くなり。まともに眠れているのか心配になるほどクマができた。
あの頃の元気な姿は見る影もない、クレアちゃんの姿だった。
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