522話 人々の行方



 髪と瞳の色に、そんな理由があったのか……知らなかった。


「キミの類まれなる力も、これで納得がいくよ」


「……それが本当ならありがたいことだけど、類まれなるなんて大きく見過ぎだよ」


 私は、首を降る。精霊さんに好かれるって言うのが本当だとしても……それは、そういう体質ってだけだ。

 だから無条件でとてつもない力を得られる、なんてことはないだろう。


 そうじゃなきゃ、私が今まで努力してきたのは意味がないのかって話になるし……

 私は、ゴルさんにも負けてる。そのゴルさんは下級魔導士相当の力だっていうし。


「珍しい力なのかもしれないけど、私はまだまだだよ」


 自分の力は自分がよくわかっている。

 恵まれているから、じゃあ強くなる……って確定しているわけでもない。


「そうか……力に自惚れないのは、いいことだな」


「……国王は、なんでそのことを私に?」


「なあに、単なる興味だ。単なる白い髪と黒い瞳ではなく、今も黒い髪をしているキミへの……な」


 興味ねぇ……まあ、教えてくれるんだからありがたいことなんだけど。

 私はそんなに、興味を持たれるような人間でもないと思うんだけど……


 ……いや、これはあれかな。美少女魔導士としての認識が広まってきたってことかな!


「なにをニヤニヤしているんだ?」


「へっ? なんでもないですよぅ」


 私そんなニヤニヤしてたかな。

 ほっぺたをぎゅーっと引っ張り、表情を引き締める。


「まあ、そういうことだ。これからも同じ白髮黒目の仲として、友好を築いていこうじゃないか」


「……うん」


 気さくな、人だな。みんなの前じゃ厳格な感じだけど、こうして二人きりになると……多分これが本性だ。

 接しやすいし、こうしているとなんだかこっちまで楽しくなってくるみたいだ。


 やっぱり、国の人たちを洗脳しているのはこの人じゃ、ないんだろうか。


「それで、キミからも聞きたいことがあるのだろう?」


「!」


 国王の話は、私と自分が同じタイプの人間だと知らせたかった……ってことでいいのかな。

 この感じだと、まるで仲間を見つけたみたいに思っているのかもしれない。


 黒髪黒目もだけど、白髮黒目の人間もまたあまり見かけない。

 この国で私が知っているのは、フィルちゃんくらいだ。フィルちゃん元気にしてるかな……今どこにいるんだろう。


 学園にいた頃は、私とノマちゃんの部屋で一緒に暮らしてた。でも私はいなくなり、ノマちゃんも王城住まいだと言うし……

 ……って、フィルちゃんのことはとりあえず、後だ。


「聞きたいこと……考えてみれば、たくさんあるけど」


「あぁ。なんでも聞くといい」


「なんでも。……なら、聞くけど。元々このお城に住んでいた人たちは、どこに行ったの?」


 まず、聞きたかったこと……それはノマちゃんが言っていたことだ。

 この城の中を、いくら探しても前に城に住んでいた人たちは見つけられなかったとのこと。


 ザラハドーラ国王との関係性は、一応わかったつもりだ。古い友人。

 その友人に頼まれて、第一王子であるゴルさんが王位を継ぐまでの間暫定的な国王でいてくれというのも、まあわからないでもない。


 それはそれとして、だ。このお城に、知った顔がいないのが気になる。

 何日もここにいるノマちゃんが見つけられないのはおかしい。いくら広くても、誰とも会わないなんてことあるだろうか。


「……元々住んでいた人たち?」


「そう」


 もし、なにか理由があってずっとどこかに引きこもってるのだとしても……その理由が、知りたい。

 ノマちゃんはこっそり探るつもりでいたけど、この際だ。直接聞いてしまおう。


 さて、この国王はどんな反応をして……


「すまない、あまりよく意味がわからないのだが。……キミには、この城の中に知り合いでもいたのか?」


「そ、そうだよ。いないのどこにも。

 ジャスミルのおじいちゃんは? マーチさんは? あの……魔導のエキスパートのおじいちゃんに、武術のエキスパートの口悪い人は?」


 以前に"魔死事件"の件でここに来たとき、会った人たちだ。半分名前覚えてないけど。

 他にも、あのとき見かけた兵士さんたちの姿もない。誰一人としてだ。


 自分で言うのもなんだけど、私がここに来たってわかったら、マーチさんなんかはノマちゃんみたいにやって来そうだ。

 でも、その様子もない。誰も、いない。


 その、私の質問を……


「はて……そのような名前に、心当たりはないが」


「…ぇ?」


 少し考えた素振りを見せたあと……あっさりと、そう言いのけた。

 私は一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。


 たとえば……ザラハドーラ国王の代からこの城に住んでいた人を、人知れず捕らえてどこかに監禁している……それを、誰にもバレないように徹底している。

 そういう展開なら、考えもした。それを指摘されて、ごまかすという展開も。


 だけど……この国王の顔は、本当に……心当たりがないと。そう言っている顔だ。

 心当たりがないと、そう偽っている……ですらない。


「本当に……知らない?」


 新しく国王になったばかりだから、お城の人たちの名前なんて覚えてない……普通の兵士なら、それもあり得るだろう。

 でも、私が挙げた名前はザラハドーラ国王の秘書や、各界のエキスパートだ。


 知らないなんてことは、あり得ない。

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