521話 白い髪と黒い瞳
「ちょ、ちょっと待って。あんまり、話がよく見えないんだけど」
やたらと興奮した様子で話し始める国王に、私は待ったをかける。
なんかすごく、重要なことを話している気がするんだけど……だからこそ、頭がこんがらがっているうちに聞くものでもないと思う。
私は手を振り、それを受けて国王は一旦言葉を止めた。
「本当に知らないのだな。まあ、考えてみれば知っている人間のほうが少ないのか」
「えっと……確認、させて。あなたが言うに、白い髪と黒い瞳の人は、精霊さんに認められた存在、ってこと?」
「いいや、もっと深い繋がりさ。精霊に見初められる……それは遥か昔、それこそその人物が生まれた瞬間から決定された、いわば運命と言うべきものだ。
私も、その一人。この髪と瞳を持って生まれたその瞬間から、精霊と共に深く繋がっている!」
私がそう言ったからではあるけど、確認させてと説明を始めた国王は、次第に熱くなっていく。
王の間のときとは、まるで別人。人が変わったように……
……いや、もしかしたらこっちが本当の彼なのかもしれないな。
「生まれた瞬間から……繋がっている?」
それは、ただ精霊さんに認められる……とは違ったニュアンスに思えた。
考えてみれば、魔術を使うにはある程度精霊さんとの信頼関係が必要だ。
精霊さんに認められて白髮黒目になるなら、もっとそういう特徴の人間は多いはずだ。
あぁいやいや、生まれた瞬間からってことなら、その人はもう生まれた時点で白髮黒目だから……
あぁ、だから見初められた、って言葉なのか。
「でも私、髪黒いよ?」
私は自分の髪の毛に触りながら、首を傾げた。
「だが、先ほども言っただろう。キミは魔導大会で、その髪の色を白く染めた。
髪の色が変わるなどと、聞いたこともない現象だが……自分の目で見たことは、さすがに疑えない」
「……」
「精霊に見初められた者は、白髮黒目の容姿を持って生まれてくる。
ゆえに、キミは……元々の黒髪が白に染まったのではなく、白の髪が黒へと変わっているのではないか?」
国王の話を、私は黙って聞く。
髪の色が、黒から白に変わったと思っていたけど……元々は白だったのが、ずっと黒になっている。そういう見方もあるのか。
ただ、十年以上ずっと黒髪だったからなぁ……それが数日前にいきなり、髪が白くなった。
おそらく魔力の昂ぶりで。それもなにか関係しているんだろうか?
「でも……」
「キミも経験はあるんじゃないか? 幼い頃……物心ついたときにはすでに、精霊に好かれていたなんてことが」
さらにまくしたてる国王。心当たりか……そう言われれば、まあ確かに。
師匠は言っていた。私は昔から、精霊さんに好かれていたと。なんでか昔から精霊さんと仲良くなるのが得意で、羨ましいとさえ言っていた。
私も、その理由はわからなかったけど……
「それのせい……?」
私のこの髪の色が元々白だったのなら、生まれる前から精霊さんに見初められる運命が決まっていた……ってことなんだろうか?
「これはとても珍しく、そして名誉なことだ。精霊と心を通わせるだけでも至難だというのに、生まれる前から見初められる運命などと……」
国王は腕を組み、一人でぶつぶつ言っていた。
白髮黒目は珍しい、か。確かに白い髪の人は結構見るけど、目が黒い人はいないもんなぁ。
……ってことは、もしかしてフィルちゃんや魔女さんも、精霊に見初められた人物ってこと?
魔女さんはそんなこと言ってなかったけど。みんながみんな知っているわけでもないんだろうな。
「キミのことはある程度調べさせてもらってね。魔導大会以前にも、複合魔術で魔獣を退治したり、分身魔法とやらを使いその上で魔術の二重詠唱をしてみたり。
なにより普通は、魔術は使えても一種や二種。それをあんなにも多才に使いこなすなど、精霊に見初められた以外に考えられない」
「それは……師匠に、いっぱい修行をつけてもらって……」
「精霊と心を通わせられるかは、修行云々で決まることではない。もちろん、精霊との対話を行うために重要なことはある。
だがキミの多才さはまさに、選ばれた者のそれだ!」
……私は本当に、精霊さんに見初められたってことなんだろうか?
実際、それはとても良いことなんだろう。精霊さんと、生まれる前から仲良くなれるのが決まっていたみたいなものだから。
今私が戸惑っているのも、突然こんなことを言われたからだ。
「じゃあ、なんで私の髪は黒いの?」
「それは……わからない。ただでさえ珍しい黒髪……そして髪の色が変化するという現象。どちらも、まだ答えが見つからなくてね」
本当に私の髪の色が白だったとして、普段黒になっている理由はわからないという。
いや、逆でも。普段黒なのがいきなり白に変わるって理由でも、わからないことに変わりはないか。
なんにしても、わからないことがわかったようなわからないままなような。
ただ、もし元が白髪でなんらかの理由で今黒髪になっているのだとしたら……
そのせいでヨルやエレガたちに必要以上にからまれてしまったのは、とても不本意だよ。
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