513話 胡散臭いガキ



「ほぉ、その者たちが?」


「そう、魔導大会をめちゃくちゃにした奴ら」


 今まで認識阻害の魔導具で顔を隠していたエレガたちを、その顔をあらわにして国王の前に突き出す。

 四人とも、ぶすっとした表情を浮かべていた。


 四人も黒髪黒目の人物が現れ、しかもこいつらが例の事件の犯人だと聞かされ、国王や兵士たちの雰囲気が変わる。


「魔導大会に乱入して、魔獣を放って……会場を、国をめちゃくちゃにした。それが、こいつら」


「ほぅ?」


「そのような人物と一緒にいるなど、やはり貴様も仲魔なのだろう!?」


 国王の側に控えている兵士が、叫ぶ。

 だから仲間なんかじゃないってのに。第一仲間なら、こんな風に国王の前に差し出すわけがない……


 ……あぁ、そうか。これは、実は仲間だけど自分だけ疑いから逃れるために仲間を差し出した、とも取れるのか。


「違うって」


「なら、違うという証拠を出せ!」


 あー、なんかめんどくさいこと言い始めた。

 とはいえ、うーん、証拠かぁ……そんなこと言われてもなぁ。


「私はこいつらに、魔大陸まで飛ばされたんだよ? いわば私も被害者だよ」


「またい、りく……?

 嘘を付くな、そんな場所に飛ばされた!? 仮にそれが本当だとして、生きて帰ってこれるわけがない! しかも、例の事件のときに飛ばされたのなら、あれからまだ数日だぞ!」


「私も魔大陸に行ったことはあるが、徒歩でとても数日でなどと」


「胡散臭いガキだ!」


 おおっと、どんどん周囲が騒がしくなってきたぞ。

 魔大陸の存在くらいは、さすがに知っているらしい。まあ、私がよく知らなかっただけで大陸の名前とかは知ってるもんなのかもしれない。


 私が魔大陸に飛ばされたのは、転移の魔石によるものだ。けど、そもそも魔大陸まで飛ばせるような転移石があるなんて思われてないのかも。

 それに、戻って来るまでの日数が少なすぎる。


 あの大陸を歩いて数日は、無理だよなぁ。その上、大陸を横断してここまで戻ってきたんだから。


「んん……」


 胡散臭い、と思われても仕方ないのかもしれないけど……それはそれとして、あまりいい気分はしないな。

 全部本当のことなのに。嘘だって決めつけてさ。


 本当のことを全部話すにしても、こいつらにわざわざ全部話すのめんどくさいしなぁ。

 クレアちゃんたちならともかく、知らないおじさんたちに身の上話を聞かせるのは乗り気になれない。


 もういっそ、この場でクロガネを召喚してしまおうか。このドラゴンに乗ってきました、って証明するの。

 見てもらったほうが早いでしょ?


「まあ皆待て。その者の言うことを全て嘘と断定するには、いささか早急すぎると思うがな」


 だけど、周りの兵士たちを国王が黙らせる。

 うぅん、私の話をちゃんと聞いてくれている……ってことだよな。やっぱり、イメージしていたのとだいぶ違う。


 ザラハドーラ国王より若いっぽいけど、だからって短絡的とか……そんな雰囲気はない。

 むしろ、威圧的な見た目とは裏腹にこっちの話を聞いてくれる、落ち着いた雰囲気だ。


「しかし、いくらなんでも現実的ではありません」


「それは……そうかもしれんな。しかし、どうにもその者が嘘を付いていないようなのでな」


「!」


 なんだろう……嘘を付いていないように見える、ってのからわかるけど。

 嘘を付いていないって断定するのは、どういうことだろう。


 ただまあ、話を聞いてくれる姿勢なのはいいことだよ。


「ともかく、その四人があの事件の主犯……ということで、間違いないのだな?」


「うん。魔導大会に乱入して、魔獣を放って、私たちを魔大陸に飛ばして……

 そのあと、魔大陸で再会したから、捕まえたんだ」


「お主一人でか?」


 思えば、こいつらとも魔大陸からの付き合いなんだよな。なんの情も湧かないけど。


 うーん、一人で四人捕まえた……っていうと、まあ事実ではあるけどちょっと違うよなぁ。

 ラッへが暴走したルリーちゃんを止めてくれたおかげで、四人相手にするのに集中できたわけだし。


 四人もいっぺんに相手したわけじゃないし、クロガネもいたしね。


「まあ、苦労はしたけどね」


 私一人で、って堂々と言うことでもないし、ここは適当にごまかしておくか。

 なんにせよ、これでこいつらを引き渡して……その後、黒髪黒目を捕まえろって命令を解いてもらえれば、問題ない。


「ともかく、主犯のこいつらをちゃんと捕まえて。そしたら、兵士たちには私とヨルを捕まえないように言ってよ」


 まだ、黒髪黒目の件は国民に伝わっているわけではない。

 それでも放っておいたらいつ伝わるかわからないし、国中を見回っている兵士から隠れるのも面倒だし。


 私たちはなにもしてないんだから、隠れる必要なんてないのだ。


「ふむ……そうか。わかった、そのように取り計らおう」


「国王様!」


 顎に触れ、なにか考えるように黙っていた国王は……私の要求を、飲んでくれた。

 やっぱり、物わかりがいいなぁ。


 ちなみに、一度捕まえていたレジーが他の仲間に助けられて逃げたわけだから、そこもちゃんと注意しとかないと。


「ところで、お主に会いたいという人物がいてな」


「! 私?」


 私に会いたい人物、だって?

 いったい誰だろう?


「あぁ、今その者を……」


「ババーン、ですわ!」


 国王の口が動き、すべてを言うその前に……なにやら賑やかな声とともに、部屋の扉が開いた。

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