514話 ババーンと登場ですわ!



「ババーン、ですわ!」


 どこか懐かしい、そして賑やかな声。

 バンッ、ととbらが大きな音を立てて開き、条件反射で私たちは振り向く。


 部屋に入ってきた、人物。それは……


「の、ノマちゃん!?」


 金色の髪を、ドリルみたいにして両側から垂らしている女の子。

 魔導学園の寮では私と同室でもあった、ノマ・エーテンちゃんがそこにいた。


 まさかの人物の登場に、私は開いた口が塞がらない。

 なんで、ノマちゃんがここに……? それに、なんだあの服装。


 一言で言えば……メイド服ってやつだ。この部屋にいる、メイドさんたちが着ているものと同じ。

 ただ、なぜかノマちゃんのものはスカートの丈が短い。

 それに、なんか胸のあたりがけしからんことになっている。


「へ、変態……」


「む、なにか?」


 私はつい、国王に視線を向けていた。声が聞こえていないのはよかったんだか。


 いやだって……ノマちゃんだけあんな、きわどい恰好しちゃって。

 これ、どう見ても国王の趣味でしょ。


「あの、これは……」


「フィールドさーん!」


「ごぶふぁ!?」


 なぜここにノマちゃんがいるのか、なぜノマちゃんがこんな格好をしているのか……それを国王に聞こうとしたところ、背後から衝撃が伝わる。

 ノマちゃんが、思い切り体当たりしてきたからだ。


 本人には、体当たりなんて認識はなくても……頭から突っ込んでこられては、これは再会の抱擁ではなく攻撃だ。

 しかも今のノマちゃんは、普通の人間とは構造が変わっちゃってるんだし……


「ぅ、おぉおお……の、ノマちゃ……」


「ぶぇええええっ、じ、じんばいじまぢだのよぉ!」


 これにはさすがに一言申したい……と、私の腰に抱き着いているノマちゃんに振り向くと……震えた声が、返ってきた。

 私の腰に顔を押し付けて、ぐすぐすと鼻をすすっている。


 これは……泣いて、いるのか。なんて言ってるかは正直、聞き取れないけど。

 ワンワンと声を上げて泣いているノマちゃんの姿に、私もすっかり怒る気力が失せてしまった。


「……ん? の、ノマちゃん! は、鼻水が!」


「ぶぇ……!」


「わー!」


 泣くのはいいんだけど、私の服にめちゃくちゃ擦りつけられてる!

 私の言葉に顔を上げたノマちゃんは、そのきれいな顔を鼻水と涙と涎とでぐちゃぐちゃにしていた。


 いや、再会を喜んでくれるのはいいんだけどさ! ……喜んでるのかこれ?

 とにかく、これちょっといろいろヤバいって!


「うぅ……ぼ、ぼうしわけ、あびばべんば……ぐすっ、ちーん!」


「謝ってるのはわかるけどその直後になにしてんのさ!?」


 ノマちゃんは豪快に、私の服で鼻をかんだ。もうぐちゃぐちゃだよ!

 隣ではヨルが笑いをこらえているし。なに見てんだこの野郎!


「ノマちゃん、とりあえず落ち着こう。いろいろ聞きたいこともあ……うわきったな!」


「びぇえええええ!」


「あー、泣ーかした」


「これ私のせい!? また感極まったわけじゃなくて!?」


 泣いてしまったノマちゃんは、そう簡単には落ち着きそうになかった。

 心配し過ぎだ……とは思ったけど、すぐにそんな考えはなくなった。


 私だって……もし逆の立場だったら、それこそ泣き喚くくらいに心配するだろう。

 以前ノマちゃんが"魔死事件"に巻き込まれた時……ノマちゃんが死んだと思って、私は気を失うくらいにショックを受けた。


 あれと同じような気持ちだったとしたら……ノマちゃんを無理やり引きはがすことは、できなかった。


「よーしよし、大丈夫だよノマちゃん。私はここにいるからね」


「そうだよノマおねえちゃん。知らないおねえちゃんがここにいるからね」


「そうそう……

 ……!?」


 しがみついて離れないノマちゃんの頭を撫でる私と、もう一つの手。

 いつの間にかそこにいた人物に、私はぎょっとした。見れば、私とは別にもう一人ノマちゃんの頭を撫でているではないか。


 ヨルでも、リーメイでもない。というか、二人に比べて手が小さい……


「えっと……どなた?」


「?」


 そして、体も小さかった。幼女……とまではいかないけど、小柄な私よりも全然小さい。

 こんな子供が、どうしてこんな……王城の、王の間にいるのか。


 そんな疑問は、目の前で腰に手を当て小さな胸を張る彼女自身が、解決してくれた。


「わたしは、レーレ・ドラヴァ・ヲ―ム! レイド・ドラヴァ・ヲ―ムの娘よ!」


「おぉー。レーレちゃーん!」


 どやぁ、と擬音が付きそうなくらいに堂々とした姿。彼女が着ている水色のドレスは、なんともきれいだ。

 そして、その名乗りにデレデレの国王……


 えっと……レイド・ドラヴァ・ヲ―ムが新しい国王の名前で……その娘ってことは……

 この金髪少女が、国王の娘……つまり王女様ってこと!?


 王女がこの部屋にいると兵士が言っていたのに、それらしき人がいなかったのが気になっていたけど……それは、ノマちゃんと一緒にいたからか。


「いやいや、なんでノマちゃんがここにいて、しかも王女と一緒にいて、それどころかノマお姉ちゃんなんて呼ばれてるの……?」


 なんだろう、この状況……再会したノマちゃんは号泣し、それを慰めている私と王女。

 ノマちゃんがここにいる理由も、王女と仲良さげな理由も、気になることがありすぎて……頭がおかしくなりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る