【番外編二】生えちゃっ……た……



「ん……なんか、変な感じ」


 さすがにずっとベッドの中にいるわけにもいかないので、起きることにした私は制服へと腕を通していた。

 学園を休む、って手もあったけど、別に風邪であるわけでもないし……こんな変なことで、魔導の勉強を疎かにしたくはない。


 なので、今私はいつもの制服スタイル。なわけだけど……

 なんか、スカートが……というか、下着が違和感だ。正確には、下着の中にあるアレが違和感バリバリだ。これ、外から変に見えないよね?


 ……大丈夫。変に興奮しなければ、大きくなることはないし。大丈夫、大丈夫。さっきは、不意打ちノマちゃんにドキドキしちゃっだけだよ。

 普通にしてれば、ドキドキすることなんてそうは起きない。というか、女の子相手にドキドキするはずない……


「エランさーん! おはようございます!」


「ふわぉ!?」


 いきなり、私の名前を呼ばれ同時に突撃される。

 突撃、と言ってもこれは本気のタックルではないため、痛みはない……それどころか、若干の柔らかさすらある。


 振り向くと、そこには予想通り……ルリーちゃんがいた。

 ダークエルフであり、普段は認識阻害の魔導具フードを被り自分の銀髪と耳を隠しているルリーちゃんは、私に心を開いてくれている。今だって、私を見上げるその笑顔はかわいくて仕方ない。


 ……だけど、だ。今は、ちょっと……!


「るるるり、ルリりぃ……ルリーちゃん!

 その、あた、当たって……」


「?」


 当のルリーちゃんは、私がなんで慌てているのかわからない、といった様子。こてん、とかわいらしく首を傾げている。あぁもう抱きしめたいなぁ!

 じゃなくて! だいたい今私を抱きしめているのがルリーちゃんで!


 すると当然、私の腰辺りに……その、ルリーちゃんの、なかなかに育ったそれが、押し当てられるわけで……!?


「どうしました、エランさん……?」


「なぁんでもないよ!?

 その、くっついてくれるのは嬉しいんだけど、ほ、ほら、ご飯食べないと!」


 不思議そうにしているルリーちゃんを、なんとか引き離すことに成功。ここは食堂だ、これからご飯だということを盾にすれば、動きにくいため抱きついてくるのは防げるはずだ。

 本当なら、いつでも抱きついてもらって構わないんだけど……今は、まずい。


 というか、私、今ルリーちゃんの身体に興奮してなかった!? いやいや、あんな抱きつかれるのなんてしょっちゅうだし! なんで今更……

 ……やっぱり、アレか! 生えちゃったアレのせいか!?


 くそぅ、いつもなら、私にないもの押し付けやがってこの野郎もぐぞ……とか思うのに。

 怒りどころか……なんか、ちょっと嬉しく感じている!? なんだこの役得感!


「……」


「ど、どうしたの?」


「いえ……」


 なんだろう……ルリ―ちゃんからの視線を感じる。……下半身に。

 なんで? もしかして、バレたりしてないよね? いやいや、あり得ないでしょ。

 うぅ、隠したいけど……お股押さえたら、不審に思われちゃうもんねぇ。


 堂々としていないと、うん、堂々と。

 私は背筋を伸ばして、今日のメニューを確認しに歩き出す。


「あ、エランちゃん。おはー」


「お、おはよう」


 さすがは朝ご飯の時間帯、人が結構並んでいる。私もそこに並ぶと、ちょうど前にクレアちゃんが並んでいた。

 クレア・アティーアちゃん。この国でできた、私の初めての友達だ。彼女は私に気付いて、振り向き挨拶をしてくれた。私も、笑顔で挨拶を返す。


 ……べ、別に変じゃあ、ないよね?


「……エランちゃん?」


「な、なぁに?」


「いや……なんか、今日いつもと違う?」


「!?

 そ、そんなことなななないよ!?」


「めっちゃ動揺してるけど」


 私は、いつも通りだ。下半身以外は。なんともないはずだ。なのに、なんでいつもと違うなんて言うんだ?

 ああもう、クレアちゃんったら……たまに鋭いところあるし、いいにおいするし、私のことよく見てくれているって嬉しくはあるし、目立たないけどいい身体してるし……


 って、ちがぁあああう! 私は変態か!?


「い、いただきます!」


 とにかく、早くこの場から離れよう。食券を買い、食事を注文。できた料理を受け取ってから、食堂での食事を速攻で済ませることにする。

 ご飯をかきこむ私を、みんな不思議そうに見ていた。けど、気にしてはいられない。


 ……ふと、視線を感じた。ルリ―ちゃんだ。彼女は私の顔……ではなく、視線を下げていた。

 その視線の先にあるのは、私の胸……お腹……いやもう少し下……


 ……なぜ、そこを見る?


「あ、あの、エランさん……」


「なにかな」


 ルリ―ちゃんが、耳打ちしてくる。あぁん、ちょっとこそばゆい……


「違ってたら、ごめんなさいですけど……

 その、か、下半身に……なにか、入れてます?」


「!?」


 飲んでいたお水を、思わず吹き出しそうになってしまった。

 なんとか耐えたものの、代わりにむせてしまい、何度か咳き込む。


 その様子に、反対側に座るクレアちゃんは背中を擦ってくれる。

 ルリ―ちゃんは、平謝りしてくれながらも……


「ど、どうなんです?」


 と、質問をやめてくれることはなかった。

 なぜか、下半身に異常があると見抜かれている……ここは、ごまかしても無駄か……?


「な、なんで、そんなことを……」


「その……見えたん、です。エランさんのその、か、下半身に……

 魔力が、濃い部分があると、言いますか……」


「……」


 なぜ、ルリ―ちゃんが私のことを不審に思っていたのか……その謎が、解けた。彼女には、見えていたのだ。魔力の濃い部分が。

 え、コレって魔力が濃いの?


 ルリ―ちゃんはというと、顔を赤らめながら、なぜか周囲の男の子たちと私とをチラチラ見比べている。

 ……まさか、私のこの……魔力の濃いアレが……男の子に付いているアレと同じだと、バレてる……?


 なんでルリ―ちゃんが……今ルリ―ちゃんは、見えたって言ったよね。それって"魔眼"を持つルリ―ちゃんだからこそ見えたもの……ってことなのかな。

 ……ちょっと待とう。もし、見えたってのに"魔眼"が関係しているっていうのなら……


「もしかして……ナタリアちゃん、も?」


「……おそらく」


 ルリ―ちゃんと同じく"魔眼"を持っていて同室でもある、ナタリアちゃん。ナタリア・カルメンタールちゃんにも、見えている……ということか。

 あ、なんかさっきから妙に赤らんだ顔でニコニコしていると思った! あれ、そういう意味の笑顔だったの!?


 ルリーちゃんの視線が……うぅ、意識したらは、恥ずかしすぎる……!

 それにしてもルリーちゃん、やっぱりかわいい顔してるよな。胸も大きいし、脚だってきれいだし、小さなお口や手もまるで小動物みたいで……


「って違う!」


「?」


 これじゃあ私は変態だ。生えただけじゃなくて、なんか気持ちまでおかしくなってる?

 よくよく考えればこの空間、女の子ばっかり……クレアちゃんもルリーちゃんもノマちゃんもナタリアちゃんも、かわいい子ばっかで私は……


 なんか、変になりそう!!


「ご、ごちそうさまー!」


「ちょっ、エランちゃん!?」


 いたたまれなくなった私は、食事を急いで完食して、その場から逃げるように去っていく。あのままあそこにいたら、なんかやばい!

 そのまま私は、トイレへと駆け込んだ。個室に一人、とりあえず一安心だ。


 これ、いつまでこのままなんだろう……まさか、ずっとこのままなんてことじゃ、ないよね……?

 とりあえず、苦しいそれを外に出す。なんか、起きたときと形が変わっているような気がする……?


 ホント、どうしようこれ。一人でこんなの、抱えきれないよ。

 やっぱり、誰かに話した方が……


「エランちゃーん?」


「エランさん、大丈夫ですか?」


「!?」


 ドンドン、と扉が叩かれる。外からの声は、クレアちゃんとルリーちゃんのもの。

 きっと私を心配してくれたんだ。嬉しい……けど、この場においてはまずい!


「だ、大丈夫だよ。

 少ししたら行くから、私のことは放っておいて……」


「でも、顔色よくなかったし。もしかしたら風邪じゃないわよね?」


「エランさん、悪いところがあったら言ってください」


 二人の心配が、今ばかりは煩わしい。

 というか、ルリーちゃんは私に生えちゃったこと知ってるんだから、止めておいてよ!? いや、まだナニがあるとはわかってないのか!?


 その後も押して押されずの言い合いを続ける……話は平行線。これじゃ、出るに出られない。

 ……いや、待てよ? 今なんじゃないか? 誰かに話すなら、今こそチャンスなのでは? よくない風に考えていても、このまま誤魔化しきるのは難しい。


 二人は純粋に心配してくれているんだし、大丈夫。変に思わずにちゃんと聞いてくれるはず。うん、話そう。そして、私が元に戻るための解決策を考えて……



 ガチャッ



「へ?」


 あ、れ……なんで? 鍵、あれ、閉めてなかったっけ?

 音がして、ゆっくりと扉が開いていく。いや、ちょっと待って待って! 話そうとは決意したけど、こんないきなり!?


 自分から扉を開けるつもりだったから、開いていく扉に頭は完全にパニックになっていた。待ってと言うことすらできず……

 今自分が、丸出しであることすら気づけていなかった。


 あ、やば……


「エランちゃーん?」


「エランさーん?」


「あ、ら、らめーーー!!」

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