501話 同じ異世界転生者だけど



 さあて。地下牢から脱出して、地下から地上に出た私たちは、目的地を定めて進む。


 ここじゃ、新しい国王とやらのせいで黒髪黒目の人間は問答無用で捕まえられる。

 だから、誰にも見つからないように移動しないといけないわけだけど……


「……別に、変わった様子はないよなぁ」


 こそこそと移動している最中、町中を観察しているわけだけど……正直、おかしなことが起こってるって印象は受けないんだよね。

 なにも言われなかったら、なにも起きてないと信じてしまいそう。


 そもそも、ベルザ王国に入るときに門番のおじさんと話をしたけど、おじさんから別に注意されなかったもんなぁ。

 やっぱり、黒髪黒目の人間の件は一部の兵士にしか知られていないんだろう。


 ……だからって、町中を堂々と歩いても問題ないだろって結論にはならないけど。

 それに、黒目の人間に対してみんながどう思っているかは、わからないんだから。


 もしかしたら、魔導大会の件で……悪い印象を持たれているかも、しれない。


「まさかまた、こんなことをするはめになるとは……」


「こんなことー?」


「な、なんでもないです」


 建物の影に隠れ、物陰を移動しながら……ぼそっとルリーちゃんが、ささやいた。

 それに対して首を傾げるラッヘだけど……ルリーちゃんの気持ちは、なんとなくわかる。


 この国に来たばかりのルリーちゃんも、今と同じように隠れながら移動していたんだろう。

 認識阻害の魔導具を身に付けていても、気になってしまうものだ。


「なんだか、ニンジャってものみたイ! ニンニン!」


「お、リーメイってば忍者なんて知ってんの? この世界にないものでしょ」


「ずっと前、たまたま人間が話してるの聞いたノ」


「へー。やっぱ転生者って昔もいたんだ」


 リーメイとヨルは、よくわからない話をしている。

 まあ、仲良くなっているのならなによりだ。


 普通に歩いて移動すればそこまで時間はかからないけど、さすがに身を隠しながらというのは時間がかかってしまう。


「なあエラン、その……ペチュペチュにはまだ着かないのか?」


「ペチュニアね」


「なんかこう……ワープとか使えないのか? そうそう、エランたちが魔大陸まで転送されたって言う、あれと同じような魔法とか」


「ないよそんなの」


 転送魔法と言う存在は、あるにはあるらしいけど……それは私どころか、師匠も使えないものだ。

 もしそんなのが使えれば、いろいろと楽にはなったんだろうけどね。


 ま、私にはそんなものはいらないけどね。もしそんな魔法が使えて、魔大陸からあっという間に帰って来てたら……会えなかった人も、いるわけだし。


「あ、見えたよ」


 いつもより時間はかかったけど、『ペチュニア』が見えた。

 もはや懐かしい気さえするな……あの屋根に、壁に、風景も。


 クレアちゃんの実家で、私がこの国に来てからお世話になっていた場所だ。


「わぁ……」


 ルリーちゃんも、目を輝かせて建物を見ている。

 そうだよな。懐かしいよな。ルリーちゃんだって、そこに泊まってお世話になったんだから。


 ただ、ルリーちゃんも不安だろう。あんなに仲良くしていたクレアちゃんが、ルリーちゃんの正体を知った途端あの態度なのだ。

 タリアさんたちだって、どう思うかはわからない。


 それは、感情の問題ではないのかもしれない。ダークエルフはどうやら、そういう呪いを受けて……


「あ、そうだ。ヨルに聞こうと思ってたことがあったんだ」


「? 今じゃないとダメか?」


「ホントは会ったらすぐ聞こうと思ってたんだけど」


 大事なことだったはずなのに、あんまりいろんなことが起こったからすっかり忘れていた。

 ヨルに聞こうと思っていたこと。それはダークエルフについてだ。


「ダークエルフは、人々から嫌われる呪い……っていうのが、カミによって本能に刻まれているらしいの。

 で、こいつらが言うには……テンセイするときに、メガミがそんなことを言ってたって」


 話した内容をできるだけ思い出し、私はエレガたちを指差した。

 確かエレガたちは、こう言っていたよな。


 その言っていることは、ほとんど意味がわからなかったけど……


「ヨルも私と会った時、テンセイとかメガミとか言ってたよね」


「お。俺と初めて会話した時のこと覚えてくれてるのか!」


「ちっ。それはいいから」


「舌打ち!?」


 覚えていた……というか、忘れたくても忘れられないというか。

 師匠と暮らしていた家を出て、こんな大きな国に来て人と会うのも物珍しかったのに……初対面の男の子にあんな迫られ方されたら、残念なことになかなか忘れられないよ。


 ヨルは、自分の顎に手を当てた。


「うーん……そいつらも、異世界転生者っぽいんだよな。でも、俺はそんなことは聞いてないなー。

 俺とそいつらが会った女神が一緒の存在かも、わからないし」


「ふぅん……」


 同じ境遇のヨルなら、なにかわかると思ったんだけどな……

 残念ながら、そうもいかなかったみたいだ。


「あと俺、自分が異世界転生することになるなんてテンション上がっちゃってさー。もしかしたら説明されたかもしれないけど、聞いてなかったかもしんない!」


「……」


 こいつ……聞いたのが間違いだったかな。

 カミとやらのせいで、人々にはダークエルフを嫌えという呪いが本能に刻まれている。


 それについて、なにか手がかりでわかることがあれば対策でも立てられるんじゃないか……と思ったけど。

 結局は、まだ認識阻害の魔導具に頼るしかないわけか。

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