500話 次なる目的地へ!



 地下からの扉を抜け、ついに地上へ。

 兵士たちは、さっきの兵士と同じように魔法で作ったムチで縛っておいた。


 とりあえず、起きても簡単には抜け出せないだろう。


「本当なら、手足追って魔導の杖も奪っておいたほうが、安心できるんだけど……」


「怖いですよ!?」


「あはは、冗談冗談」


 とりあえず、これで自由に動ける。

 まずはこの城を出て、誰か力になってくれそうな人のところへ行く。


 ……こんなことなら、学園に行く前に先に『ペチュニア』に寄っておくんだったかな。

 クレアちゃんの実家だけど、クレアちゃんがいるかはわからない。でも、タリアさんや常連のおじさんたちなら、きっと力になってくれるはずだ。


 ……クレアちゃんと会うのが怖いから、なんとなく先延ばしにしてしまっていたのが、裏目に出たか。


「私は心当たりのある場所があるから、そこに行こう」


「大丈夫なのか?」


「多分……クレアちゃんの実家なんだけど、そこのお母さんが私やルリーちゃんにもよくしてくれたんだ。

 ……ルリーちゃんは、認識阻害の魔導具付けてたけど」


「……」


 私の知る限り、一番安全そうに思えるのは『ペチュニア』だ。

 だけど、もしクレアちゃんがタリアさんたちに、ルリーちゃんがダークエルフであることを話していたら……彼女たちも、同じような反応をするんだろうか。


 もし、そんなことになったら……

 ……ううん、そんな心配をしてたら、どこにも行けやしない。


「……あの、エランさん」


「ん?」


 そのとき、ルリーちゃんが私の名前を呼んだ。

 その声は、どこか震えているように聞こえ……ルリーちゃんはうつむき、表情が見えなくなっていた。


「あの……私、は……別行動をしたほうが、良いと思います」


「……へ?」


 スカートをきゅっと握る、ルリーちゃん……彼女の口から出たのは、とても想像もしていなかったもので。

 私はつい、間の抜けた声が出てしまった。


「なんで、そんなことを……」


「……エランさんは、きっと……黒髪黒目だって言っても、エランさんを知っている人は邪険にはいません。

 でも私は……ダークエルフです」


 ……自分が、ダークエルフだから……


「今は、このフードで認識阻害をしていても……すでに、クレアさんに見られています。

 クレアさんが、他にも私のことを話していたら……きっと、ダメです。ダメなんです」


「……」


「私と一緒にいると、エランさんにも迷惑がかかる。だから……」


 ダークエルフの自分といると、迷惑がかかる……ルリーちゃんは、そう言った。

 ルリーちゃんの言いたいことも、わからないことはない。


 私やヨル、リーメイならばきっと受け入れてくれる人はいる。でも、ダークエルフはどうだろう?

 すでにルリーちゃんがダークエルフだという話がどこまで広がっているかわからない以上、不安の気持ちは消えはしないのだ。


 だからって……


「私は、みんなとは別行動で……んむっ」


 私は、ルリーちゃんの頬を挟むように、両手で軽く叩いた。


「え、エランふぁん……?」


「ルリーちゃん……またそういうこと言ったら、怒るからね?」


「んむ……」


 ルリーちゃんの考えていることは、わかる。わかるけど……

 だからって自分を犠牲にするようなやり方、私は嫌だ。ダークエルフだからって自分を卑下して、私たちのために別行動をしようだなんて。


 それで一人になって、ルリーちゃんに居場所なんてない。


「ダークエルフ……へぇ、その子ダークエルフなのか! エルフとはやっぱり違うんだよな! おぉー……!」


「ちょっと黙ってて」


 なんかエルフに対して過剰なまでに興味津々なヨルだけど、今は黙っていてもらいたい。


「迷惑がかかるって思ってるなら、そもそもここまで一緒に来てないし」


「ふぉ、ふぉれは……」


「一緒に飛ばされたから仕方なく、って? そうじゃなくて、学園で一緒に過ごしてないってこと」


 ダークエルフを……ルリーちゃんを迷惑と思うなら、ここまで仲良くなってない。

 学園でだって、正体バレの危険は何度もあった。それでも、関係ない……私がしたいからそうしてるんだ。


 ルリーちゃんと一緒にいることは、私にとってなんの苦でもない。


「だから、あんまり自分を下げるようなこと言わない。私は、ルリーちゃんの味方だから」


「リーもだヨー!」


「私もー!」


「……ふふ、そうだね。

 わかったルリーちゃん? 返事は?」


「ふ……ふぁい」


 もしもこの先、タリアさんのところに避難して、それでもダークエルフだからってルリーちゃんを差別されるようなことがあったら……そのときは、また考えよう。

 とにかく、ルリーちゃんを置いて別行動はありえない。


「いやぁ……いいね。女の子の友情って、見ててあたたかい気持ちになる」


「なに言ってんだお前は」


 私はルリーちゃんの頬から手を離しつつ、ヨルに白い目を向ける。

 そんなヨルは、私の視線なんてどこ吹く風だ。


「ま、それはともかく。移動するなら急いだほうがいい、さすがにここにずっと留まるのは危険だ」


「だね」


 見張りの兵士を倒したはいいけど、いつ交代の兵士が来るともわからない。定期連絡をしているようなら、連絡が途絶えたことで不審に思った誰かが様子を見に来るかもしれない。


 そうならないうちに。私たちは、目的地へと向かう。

 目指すは、クレアちゃんの実家『ペチュニア』だ!

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