498話 はっ、ちっさ



「ふぅーっ」


 牢屋から出て、部屋から飛び出した私とヨルは……見張りの兵士を、それぞれ一人ずつ倒した。

 ヨルの予想通り、見張りの兵士は二人だった。


 扉を開けた瞬間、扉に背を向けていた兵士たちがこちらを振り返る前に……一気に首の後ろに手刀を放った。

 ただ、手刀を打ち込んでも気絶しなかったので、仕方なく顔面に拳を打ち込んだ。


「これでよし! ……あれ、二人ともどうしたの?」


「……エランすごいなっテ」


「エランつよーい!」


 拳についた血を払い、リーメイとラッへは私を見てそれぞれ感想を述べた。

 ラッへは楽しそうに笑っていたが、リーメイはどこか遠い目をしていた。


 ヨルもうまく気絶させたみたいだ。


「そんじゃ、鍵はっと……」


 あとは、この手枷の鍵を見つけないと。

 私の予想では、見張りの兵士のどっちかが持ってると思うんだよなー。


 倒れた兵士の片方の服をひん剥いていく。


「キャッ。え、エランさんっ」


「へっ?」


 ビリビリッ……と服を引き裂いていると、後ろからルリーちゃんの悲鳴のような声。

 何事だろうと振り向くと、ルリーちゃんは手のひらで顔を覆い隠している。なぜか耳が赤い。


 そして、指の隙間からちらりと私を見た。


「な、なにをしているんですかっ」


「なにって……鍵がないか探そうかなって」


「だからって……なぜ、服を剥ぐ必要が!?」


「だって、服の内側にあるかもしれないから……」


「それなら、ヨルさんに見てもらえばいいじゃないですかぁ……」


 なんだろう、なぜルリーちゃんはそんなにも慌てているんだろう。

 見ると、エレガたちもぽかんとした表情を浮かべている。


 こいつらにこんな表情を向けられることになるとは。


「なにさ」


「お前、思ったよりも大胆というか……躊躇はないのか」


「?」


 躊躇……なんの躊躇だろう。

 もしかしてあれかな、私がいきなり服を剥ぎ取ったから、服がもったいないって話かな。


 確かに、資源を無駄にするのはよくないよね。


「大丈夫だよ、あとで魔法で元に戻すから」


「なんの話だ!?」


 破ったりして形が崩れても、切れ端が残っていればまた魔法で再生できる。

 一応私だって、服をビリビリにしてそのままということはしないさ。


「そ、そうではなくて……お、おお、男の人の、はだ……」


 言い難いものをなんとか言おうと、ルリーちゃんが口を開いていく。

 そうではない……服が問題ではない……あぁ、なるほど!


「私、いつも師匠の裸とか見てたし、今更男の裸とか見ても気にしないよ」


「なっ……」


「エラン、そういう問題でもない気がするが」


 顔を真っ赤にするルリーちゃんと、苦笑いを浮かべるヨル。

 そういう問題ではないのだろうか。違いやしないと思うけど。


 そう、昔師匠と住んでいたとき、師匠の裸を見たことはある。

 十年も一緒に暮らしていたんだ、それも一度や二度じゃない。


 それを思えば、今更男の裸の一つや二つ。


「それに、師匠の体に比べれば実に貧相……兵士だからそれなりに鍛えてはいるみたいだけどね。

 はっ、ちっさ」


「なにが!? まだ上半身しか脱がしてないけど!?」


 そんなこんなで、二人の兵士の上半身を裸に剥く。

 下半身は、武士の情け的なやつで勘弁しておいた。それに、上半身だけで真っ赤になっているルリーちゃんに下半身の刺激は強い。


 別に、ルリーちゃんに見えないように隠してやればいい話ではあるけど。

 結局、上半身にはなにもなかった。


「じゃヨル、二人の下半身まさぐって鍵を見つけてよ」


「言い方!」


 残りの捜索はヨルに任せるとする。

 それを見守っていると、一人の兵士のズボンのポケットから、いくつかの鍵がひとまとめにしてあるものが出てきた。


 あれは……牢屋の鍵や、手枷の鍵ってところかな。


「なんだ、普通にポケットに入ってたのか」


「なんで少し残念がっているんだ」


 そんなわけで、私たちは一つ一つ鍵を調べて、手枷を外す。

 全部違う鍵……なんてことはなく、ガチャンと音を立てて外れた。


 はぁー、なんかスッキリだよ。付けられていい気はしないもんね、手枷なんて。


「……おい、俺たちは?」


「あーん? 外すわけないだろぶぁーか」


「こいつ……!」


 エレガたちが自分たちに嵌められた手枷を見せつけてくるけど、わざわざ外してやる義理はない。

 だいたい誰のせいでこうなったと思ってるんだ。檻から出してあげただけでも感謝してほしい。


 私は、舌を出して首を振った。


「エラン……その人たちは? そっちは、ルリーだよな」


 困惑した様子で、ヨルが私たちを見る。

 みんなフードを被っているから、誰だかわからないのも無理はない。それに、認識阻害の効果も働いているようだ。


 ルリーちゃんだけは、一応親交があっ……たかはともかく、知り合いではあるので誰だか理解はしている。

 しっかし、呼び捨てとは……


「ルリーさん、もしくはルリー様と言いなよ」


「なんで!?」


「わ、私は気にしないから……」


 気にしない、というルリーちゃんの寛大な心に感謝するといいよヨル。


「まあ、いろいろあって、一緒に魔大陸に飛ばされたりそこから帰って来る途中に同行したりで、友達になったんだ。

 あ、この四人は違うから」


「へぇー。

 ……魔大陸?」


「じゃ、さっさとここから出ようか」


「ちょっと待った! いろいろ情報が追いつかないんだけど!」


 さてと、牢屋から出た、魔力封じの手枷も外した。

 あとはこの地下から出て……事態の把握を、しないとね。

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