491話 人間がいっぱい



「みんな、お待たせ」


「エランさん」


 魔導具専門店で、認識阻害の魔導具を買った私は店の外に出る。

 そして待たせていたルリーちゃんたちのところへと戻った。


 姿は見えないけど、声は聞こえる。

 あと魔女さんも言っていたけど、見えなくなるのは姿だけだ。気配とか魔力は感じることができるから、だいたいのいる場所はわかる。


「これ、みんなの分の魔導具だよ」


「ありがとうございます。

 ……ずいぶん、長かったですね」


「え、そうかな」


 魔導具を渡しつつ、ルリーちゃんの視線を感じた。

 できるだけ急いで戻ってきたつもりだったけど、やっぱり知り合いと出会ったのが嬉しかったのかな。


「実は、店員さんが知り合いだったんだよ」


「知り合い、ですか?」


 それぞれ、透明化を解きつつ、フードを被っていく。

 私はすでに、ルリーちゃんたちをルリーちゃんたちとして認識しているから、認識阻害は効かないけど。


 これで堂々と町中を歩いても、不審な目は向けられないはずだ。


「魔導学園の先輩。ピアさんだよ、覚えてる?」


「えっと……魔導具技士を、目指してる人でしたっけ?」


「そうそう。どうやらここ、ピアさんの実家らしいんだよね」


 思いもしなかった再会に、自分でも気づかないうちに話が弾んでいたんだな。

 ピアさんのことは、ルリーちゃんにも話したことがある。会ったことはないけどね。


「魔導具技士を目指してて、ゴルさんとの決闘のときにも魔導具を貸してくれてさ。

 魔導具技士だったっていう師匠を目標にしてるってのは聞いたことがあったけど、魔導具技士になりたいってきっかけは実家が魔導具専門店だったからなのかもねぇ」


「……エランさんは、お知り合いが多いんですね」


 ルリーちゃん、ラッヘ、リーメイ……それからエレガたちも認識阻害の魔導具を身に着けたのを確認。

 これで、コソコソしなくてよくなった。


「そうかなぁ。……そうかも?」


「私の知らないエランさんが増えていってる気がします」


 学園じゃ、いろんなところ回ったりしたからなぁ。

 対してルリーちゃんは、認識阻害の魔導具を身につけているとはいえ、一人であちこち歩くのは怖いだろう。


 ルリーちゃんがぷくっと頬を膨らませて、私を見ている。


「どうかした? ルリーちゃん」


「なんでもないです」


 なんでもなくはないと思うけど、下手に聞いてはだめだろう。


 とりあえず私たちは、学園へと向かうことに。

 エレガたちを引き渡すなら、王城に行ったほうがいいけど……まあ、ピアさんの言うように顔を見せてあげないとな。


 ただ、学園は休校だからほとんどの生徒は学園内にはいないだろう。

 それに、先生たちは学園にいる可能性は高い。それに、生徒会長のゴルさんも。そういった、偉い人たちに今後の判断を仰ごう。


 ……クレアちゃんは、実家に帰ってるかな。

 場所はわかるけど、ルリーちゃんもまだ心の準備ができていないだろうし。後にしよう。


「うわぁ、人間がいっぱイ!」


 町中を歩くと、リーメイが目を輝かせて周囲を見回していた。

 右を向いても左を向いても、人人人。リーメイにとっては、新鮮なものばかりだろう。


 同じように、記憶を失ったラッヘも、物珍しそうに周囲を見ていた。


「懐かしいな……」


 私も、周囲を見渡す。

 この景色は、懐かしいものだ。数日離れていただけでも、そう感じる。


 魔導大会の途中、あんなことになっちゃって……国中が、パニックになったんじゃないかと思ったけど。

 ちゃんとみんな、無事で……


「ぁ……」


 そう思っていた矢先。目を向けた先に、半壊した家を見つけた。

 側では、瓦礫を退かしたり修復したりと、たくさんの人がいた。


 それだけではない。他にも、あちこちに傷跡が残っている。

 ……無事に見えたのは、国の入口付近だけ。中央に……魔導大会の会場に近づくにつれ、おそらくは魔物魔獣が暴れた跡が見える。


 やっぱり、みんな無事だった……なんてことは、なかったんだ。


「おいおい、そんな睨むなよ」


 エレガが、笑う。どうやら私は、気づかないうちにエレガを睨みつけていたようだ。

 でも、それも仕方ないだろう。こいつらのせいで、会場はめちゃくちゃになった。


 あんな大きな魔獣が暴れて……それに、場内の衛兵さんだって、殺していた。

 人を、殺していたんだ。ぱっと見平和が戻ったように見えるこの国だけど、傷跡はまだ深い。


 会場の魔獣や魔物は、その場で殲滅した……とは言っていたけど。

 それは、犠牲なしになし得たことなのだろうか? もしかしたら、誰か……私の知ってる、誰かが……


「エランさん」


「! うん、大丈夫」


 いや、そんなマイナスなことばかり考えていても、仕方ない。

 みんな、強い人たちばかりだ。きっと大丈夫だよ。


 だんだん傷跡が大きくなっていく町並みを見つめつつ、私たちは歩き続ける。

 そしてついに、懐かしい魔導学園へとたどり着いた。


「ん? 誰だ、ここになんの用だ」


 入り口には、門番のような人が立っていた。

 以前は、こんな人いなかったはずだけど……フィルちゃんのような部外者の侵入を許したことや、あの事件をきっかけにセキュリティに力を入れているのか。


 なんにせよ、ご苦労さまだ。


「私、この学園の生徒で……ちょっとしたアクシデントで、この国から離れてたんだけど、戻ってきたんです。なので、中に入れてください」

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