490話 おかえり
ベルザ王国に帰って来てから、最初に再会した知り合いが、ピアさんとは。
門番のおじさんは……ほら、一応ベルザ王国の外だったし?
ピアさんは私を見て、駆け寄ってくる。
「うわぁ、本当にエランちゃんだ。うわぁ」
「そんな、お化けを見たんじゃないんですから」
「なに言ってんの。あの日、突然消えちゃって心配したんだから」
ピアさんは私の体をまじまじと見た後、肩を掴んでくる。痛いくらいの力で。
でも、それは私を心配していたものだということがわかって……そのままに、しておいた。
そうか、ピアさんも魔導大会の会場にいたのかな。
「じゃあピアさんも、あの現場にいて私が消えたの見たんだ?」
「というか、学園内でそれを知らない人はいないよ。
話題の黒髪一年生が、魔導大会の決勝でいきなり姿を消したっていうんだから」
おおう……私の話、そこまで大事になっていたのか。
まあ、生徒が消えたんだ。学園としても、大問題になっているよね。
私、いろんな意味で有名人みたいだから、そういった意味でも。
「いったい今までどこにいたのさアンタさんは」
「いやあ、話すと長いことながら……」
離れていたのは数日とはいえ、どこに行ったともわからないならその心配は私の想像を超えるだろう。
もし、私が残された側で、ルリーちゃんやクレアちゃんがどこかに消えたとしたら……考えただけでも、怖いな。
「はぁ、まあいいや。いや、よくはないけど……
速く無事を知らせてあげな。みんな心配してるよ」
「! うん」
やっぱりピアさん、いい人だ。
ゴルさんとの決闘の時には魔導具を貸してくれたし、魔導具技師を目指すその姿勢は尊敬できるものだ。
ピアさんの言うように、早くみんなに無事を報せたい。そして、みんなの無事も知りたい。
ただ、その前にやることがある。
「えっと、ピアさん。ここにある魔導具で、認識阻害の魔導具ってある?」
「認識阻害?」
私がここに来たのは、ピアさんに無事を知らせるためではない。そもそも、ピアさんがいるって知らなかったし。
そうじゃなくて、この魔導具専門店に来た理由。それは、認識阻害の魔導具を手に入れるためだ。
ここでピアさんと話に花を咲かせるのもいいけど、外でルリーちゃんたちを待たせているしね。
「そりゃ、ここに取り揃えている魔導具は、結構豊富だよ。もちろんあるけど……」
「よかった」
「でも……なんのために?」
あぁ……まあ、気になるよねぇ。
ただの魔導具じゃない。認識阻害なんて、人目を避けたいと言っているようなものを。
実際に、人目を避けたい人たちがいるわけだけど。
「それはまあ、あれだよあれ」
「どれよ。……まあ、お客様のご要望とあれば、売るけどさ。
認識阻害の魔導具、フードだよ」
なんとか、深く追及されることは避けることができた。
ルリーちゃんが以前使っていたのに、似たフードだな。……あれ?
こういうのって、専門の人が見たら"認識阻害の魔導具"ってわかっちゃうもんなのかな。
まあ、わかっても認識阻害している中身までわかることはないんだろうけど。
「じゃあ、認識阻害の魔導具一つでお会計は……」
「あ、一つじゃなくてみっ……いや、七つください」
「本当になんのために!?」
ダークエルフであるルリーちゃんはもちろん、エルフのラッヘにもほしい。ニンギョは扱いが謎なので、一応。
エレガたちのためにお金を使うのは業腹だけど、仕方ない。ずっと透明でいさせるわけにもいかないし、一人でも目立つ黒髪が五人は……
考えただけで無理だとわかる。
「大丈夫、お金ならあるから」
身に付けていたお金が少しはあるし、実はナカヨシ村で魔女さんからお金をもらっていた。
遠く離れているけど大丈夫なのか疑問だったけど、魔女さんが言うには共通金貨だから使えるらしい。
認識阻害の魔導具七つ。そのお会計に、お金を出す。
「んん? このお金……ここいらじゃめっきり見なくなったが、また珍しいものを」
「使えないかな?」
「待って。親父……店主に確認してくるから」
そう言って、魔女さんはお金を手に店の奥まで戻ってしまった。
うーむ、昔のお金ってことか。魔女さん、いったいいつの時代のものをどこで手に入れたんだ。
師匠と同じ顔だから狂うけど、あの人人間なんだよなぁ。
エルフなら昔のお金を持っていても、おかしくないけど。
「お待たせ。大丈夫、使えるってさ」
「そっか、よかった」
「それにしても、本当にこんなのどこで手に入れたのさ」
「あはは……まあ、それは追々と」
とりあえず今は、魔導具の調達が先だ。
注文したものを七つ手に抱える。さすがに、七つもあれば少しかさばる。
「そういえば今更だけど、ピアさんが今日ここにいるってことは、今日学園はお休みなの?」
「本当に今更だね。
……まあ、今日というか。あの事件があってから、とても普段通りとはいかなくてね。学園寮は解放されているけど、無期限の休校になってる。だから、アタシみたいに実家の手伝いとかある人は、学園にはいないわ」
「なるほど……」
休校、か。それも当然か。いろいろ事態の解明に動かないといけないし、のんきに学園生活ってわけにもいかないだろう。
それも、主犯のエレガたちを差し出せば、少しは落ち着くだろうか。
ようやくあいつらの顔を見なくて済むか。
また捕まえるにしても、逃げられないようにしないといけないけど。
「あ、そうだエランちゃん」
魔導具を受け取り、店を出ようとする私にピアさんが声をかけてくる。
私は立ち止まり、振り返って……
「おかえり」
「! ……ただいま」
笑顔を向けてくるピアさんに、私もまた笑顔で返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます