489話 魔導具専門店へ!



「エランさん、おつかれさまです」


「ありがとー、ルリーちゃん。えっと、そこにいるんだよね?」


「はい!」


 ベルザ王国に戻ってきて、門をくぐり……国の中へと、ついに入った。

 ここから見る景色は、なんだか懐かしい。


 先に入っていたルリーちゃんたちと合流する。

 とはいっても、ルリーちゃんたちは透明なままなので、声をかけられてようやく気付けたんだけど。


「ここが、人間の国……人間が、いっぱイ……!」


 今のは、リーメイの声だな。

 人間の国に行ってみたいと行って、私たちに着いてきたニンギョのリーメイ。


 ここに来るまで、立ち寄った村と言えばモンスターだらけの村。

 たくさんの人間を見かけることは、なかったわけだ。


「それで、これからどうしますか?」


「そうだねぇ」


 とにかく、ベルザ王国に帰ってくることが第一目標だった。

 それからどうするか……行く先は、おのずと限られる。


「やっぱり、魔導学園かなぁ」


 まずはやっぱり、心配しているだろうみんなに会いに行きたい。

 ただ、いきなり学園に行くわけにもいかない。


 というのも、とりあえずは買わないといけないよな……認識阻害の、魔導具。


「ルリーちゃんは、認識阻害の魔導具はどこで買ったの?」


「ええと……ここに来る前、商人に勧められまして」


「じゃあ、どこに売ってるのかはわからないか」


 まあ、魔導具なんだから……魔導具専門店、みたいな場所があれば、そこにあるんだろう。

 となると……さっそく、魔導具専門店に行ってみよう。


「魔導具専門店は……えっと、あっちだったかな」


「エランさん、場所わかるんですか?」


「うん。この国に来たばかりの頃、クレアちゃんがいろいろと案内してくれたんだ」


「……そう、なんですか」


 そう、ベルザ王国に来たばかりの私は、クレアちゃんの家がやっている宿屋に泊まり……その後、学園で合否結果が出るまでを過ごした。

 その時、空いた時間にクレアちゃんにいろいろ案内してもらった。懐かしいなぁ。


 その話を聞いて、ルリーちゃんは……多分、表情を暗くしている。

 見えなくても、声の調子でわかる。


 ……クレアちゃんには、ルリーちゃんがダークエルフだって知られている。あのときの反応を、思い出しているんだろう。


「……認識阻害の魔導具は、一度その人を認識したら相手には、もう効果はないんだっけ」


「はい、そうです」


 認識阻害の魔導具とはいっても、その効果は永久に続くわけではない。

 認識阻害の人物の正体を知ったら、その相手にはもう認識阻害は通じない。私やナタリアちゃんが、ルリーちゃんをルリーちゃんとして認識できているように。


 だから……あのとき、ルリーちゃんがダークエルフだとクレアちゃんに知られてしまったから。

 新たに認識阻害の魔導具を使っても、もうクレアちゃんはごまかせないってことだ。


「……大丈夫だよ、きっと」


 私は多分……自分を納得させるために、大丈夫だと言った。

 きっと、クレアちゃんも受け入れてくれると、信じよう。


「あ、ここだよ」


 話をしているうちに、目的地にたどり着く。

 ここは、この国の中でもわりと大きな魔導具専門店だ。一度入ったけど、気のいいおっちゃんが話しかけてくれたっけ。


 ちょうど人も少ないみたいだし、ちょうどいいや。

 透明のままのみんなは、頃合いを見よう。まずは、私が入って認識阻害の魔導具をいくつか買う。


 ルリーちゃんだけでなく、ラッヘやリーメイにも必要かもしれないからね。

 エレガたちは……うーん、まあ目立つからなぁ。仕方ないか。


「じゃ、行ってくるね。ちょっと待っててね」


「はい、いってらっしゃい」


「ごめんくださーい」


 ルリーちゃんたちを置いて、私は店の中へ足を踏み入れる。

 扉を開けて店内に入ると、まず目に入ったのがたくさんの魔導具。この数は、すごい。


 魔導具だけじゃなくて魔石もある。

 あ、壁には仮面みたいなものもかかっている。


 これだけの数があるなら、認識阻害の魔導具もありそうだ。


「はーい」


 最初店内には誰もいなかったけど、奥から声が聞こえた。

 女の人の声だ。以前いたおっちゃんじゃないのか。


 タタタ、と駆けてくる足音がする。


「いらっしゃいませー。魔導具専門店、マドウテンへようこそ。

 こちらには様々な種類の魔導具を取り揃えて……」


「……あ」


 奥から出てきたのは、一人の女の人。

 店員さんであることは間違いなく、魔導具のお店の説明をしながら私の顔を見て……その動きが、止まった。


 私もまた、現れた人物を見て固まっていた。


「うそ……アンタさん、エランちゃんか!?」


「ぴ、ピアさん!?」


 そこにいたのは、ピア・アランフェイク。魔導学園で私の先輩に当たる人で、魔導具技士を目指している人だ。

 猫の獣人で、耳とか尻尾とか触ったらもふもふなんだろうなと思う。


 ゴルさんとの決闘のときに彼女の作った魔導具を使わせてもらったりと、わりとお世話になっている。


「なんで、ここに……」


 そんな人が、どうしてここに。客側じゃなく、店員側として。


「そりゃこっちのセリフだよ。

 ここは、アタシの実家だから。時間がある時は手伝ってるんだ」


「なるほど」


 そうだったのか……まさかこのお店が、ピアさんの実家だったとは。

 もしかしてピアさんが魔導具技士を目指したのは、ここがきっかけなのかもしれないな。

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