478話 なんなんだキミは
「じゃあ、とりあえず……キミのことは、エランママと呼べばいいのか?」
「なにがとりあえず!? 全然良くないんだけど!」
今の話の、なにをどう聞いたのか。
あっけらかんと言う魔女さんに、私は驚きを隠せない。
だから私は生んでないんだっての!
「はは、わかっている。キミには十年前以上の記憶はないが、さすがに幼子だろう。
エルフならばともかく、人間にできることじゃあない」
「からかわないで! わりとデリケートな問題なんだから!」
「すまんすまん」
ひとしきり笑った魔女さんは、こほんと咳払い。
それから、真剣な目をして私を見る。
「じゃあ、もう一度聞く。本当に、そのフィルという子に心当たりはないんだな? ママと呼ばれる心当たりも」
「だから、ないって言って……」
「ないんだな?」
「……ない」
魔女さんの真剣な問いかけに、私も真剣に答える。
それを経て、魔女さんはふぅ、と軽くため息を漏らした。
「ふむ。突如自分のことをママ扱いしてくる謎の幼女か。
……ヤバくないか、そいつ」
魔女さんが、まるでやばいものを発見したかのような表情を浮かべる。
改めて第三者からそう言われると、だいぶヤバい気がするな。
「最初は私にしか懐かなかったんだけど……同じ部屋のノマちゃんや、仲の良い子に触れさせたら、だいぶ慣れたみたいでね。あのまま私にしか心を開かなかったら、どうしようかと思ったよ」
「お母さんか」
「でもフィルちゃん、本当にエランさんが好きみたいで。
魔導大会でも、観戦席から元気に応援していましたよ」
「本当? いやあ、嬉しいなぁ」
「まんざらでもなさそうじゃないか」
そういえば、魔導大会中はフィルちゃんのことは、ルリーちゃんとクレアちゃんに預けていたんだよな。
その後、乱入してきた諸々で、フィルちゃんがどこに行ったのかわからなくなったけど……
「大丈夫かな、フィルちゃん」
「きっと、無事ですよ。クレアさん…………ナタリアさんや、ノマさんもいますし」
フィルちゃんの存在は、学園中に知れ渡っていると言ってもいい。
私が有名人になっちゃっているから、その私をママ呼ばわりするフィルちゃんもまた、知られている。
まあ、フィルちゃんも学園に通って形だけでも授業を受けているから、目立つんだけどね。
教室で一緒に授業を受けていたとき。おとなしく座っていたり聞き分けのいい子だったなぁ。
特に女の子たちからかわいがられていた。
まだ小さい子供だからこそ、きっと誰かが保護してくれているはずだ。
「しかしキミも、変な人物に絡まれる運命のようなものなのか」
「魔女さん、変な人物なんてそこまで自分のことを自虐しなくても……」
「自己紹介しているわけじゃないんだが!?」
まあ魔女さんの言いたいこともわかる。私わりといろいろ特徴的な人に絡まれるよねぇ。
ヨル、フィルちゃん、エレガたち……
私としては、もう少し平穏に過ごしたいんだけどな。
「しかし、今の話を聞いていると……白髮黒目の幼女フィルが、髪が変色し白髮黒目になるエラン・フィールドのことをママと呼ぶ。なにかあるのではと勘ぐっても、おかしくはない」
「なにかって言われてもなぁ。
髪の色が変わるとか言うけど、それなら普通に白髮黒目の魔女さゆのほうがよっぽどママじゃん。ていうか魔女さん女の人?」
「はは、どうだろうな」
さらっと流されてしまった。
師匠の顔は美形だ。男とも女とも取れるから、ぱっと見じゃ性別がどちらなのかわからないと思う。
まあそもそもこの人は、師匠の顔と同じにしたわけだから師匠の顔で性別を判断することはできないわけだけど。
「本当に、なにもない? キミが記憶を失うより以前に、会っていたり……」
「いや、それだと多分まだフィルちゃん生まれてないよ」
記憶を失う前に、会ったことのある可能性……それは考えなかったわけではないけど。
そうなると、年が合わない。
今のフィルちゃんは、どう見ても師匠に拾われた頃の私と同じくらいの年齢だ。
私が拾われたのは十年前。十年前だと、フィルちゃんはまだ生まれていない。
エルフなら、見た目が子供でも何十年生きている可能性があるけど……
フィルちゃんは人間だし、十年前にはまだ生まれていないのは間違いない。
「私はそのフィルちゃんとやらは見たことがないな。黒髪黒目は元より、白髮黒目もこの世界ではわりと貴重だ」
「そうだねぇ」
フィルちゃんをひと目見たときの感想は、それだった。きれいな白い髪に、吸い込まれそうなほどに黒い瞳。初めて見たと思った。
白い髪の人はわりといるけど、黒い瞳をしている人はいないのだ。
そう考えると……うーん、フィルちゃんも謎だ。
私と同じで、印象的な容姿だしすぐに両親も見つかるかと思ったけど結局だったし。
そもそも、学園の敷地内にどうやって入れたのかも謎だ。セキュリティに関しては、以前魔獣が現れてからいっそう強化したって聞いたし。
小さい子供だから見逃したのかな? いやでもな……
うーん、謎だ。
「キミ自身のことを掘り下げようと思ったら、その周囲の人間にも目を向けなければいけなくなる。なんなんだキミは」
「なんなんだろうね私は」
本当にね。
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