477話 黒髪黒目



「面白いついでに、こんな話を聞いたことはあるか? この世界とは、異なる世界が存在する、という話を」


 ……魔女さんが唐突に言い出した言葉に、私は開いた口がふさがらなかった。

 異なる世界が存在する、だって? なにを言っているんだろう。


 けれど、その目は真剣だ。

 とても冗談を言っている風ではない。


「私は、聞いたことないです」


 私より先に、ルリーちゃんが答えた。長寿のダークエルフでも、知らない言葉らしい。

 同じく長寿、だけど今のラッへは言うまでもないけど、リーメイもきょとんと首を傾げていた。


 ……今更だけど、この旅の仲間私以外長寿種族ばっかだな。


「キミはどうだ? 初めて聞いた……という顔には見えないが」


「……その言葉がなにを意味しているのかは、知らないけど。

 私が通っている魔導学園に、似たようなこと言うやつがいたんだよ。だから、イセカイとかがって言う言葉自体はだいぶ前から知ってた」


「ほぉ。

 それらのニュアンス的に、イセカイ=異なる世界のことだと、私は考えている」


 魔女さんは腕を組み、話す。


「じゃあ、ヨルたちはイセカイ……異なる世界に元々いたってこと?」


「あぁ。そして、テンセイとやらでこの世界にやってきた」


 その男、ヨルは自分がイセカイからなんたらとか、メガミがどうしたとか言ってた。

 挙げ句、私も同じではないのかと迫ってきた。だから私は逃げて、以降ヨルを避けるようになったわけだけど。


「ヨル……あ、その変態とエレガたちを見るに、イセカイっていう言葉に関係してるのは、黒髪黒目ってことらしいけど。

 あ、私は違うからね」


「……キミが学園でその人物のことをなんと思っているか、今のやり取りだけでわかったよ」


 おぉ、さすがは魔女さんだ。今の話だけで、ヨルがどんな人物なのかわかったみたいだ。

 私の苦労も、きっとわかってくれるよね。


 まあ、今はあいつの人間性より、こっちの話だ。


「私は違う、か。だが、キミは十年前より以前の記憶がないのではなかったか。

 キミが知らないだけで、キミがイセカイから来た人物であることは否定できない」


「それは……」


 魔女さんの指摘に、私は言葉が出ずに押し黙ってしまう。

 確かに、私には師匠に拾われる前……十年前より前の記憶がない。だから、絶対ないとは言い切れない。


 ヨルが私に迫ってきたり、エレガたちが私に興味を示したのだって、この黒髪黒目が原因だし。


「その黒髪黒目が、イセカイとやらの関係者というのなら、キミも……」


「でも、エランさんは違うと思いますよ」


 私を見定めるように見つめてくる魔女さんに、ルリーちゃんがはい、と手を上げた。

 私は無関係だと、そう言い張る根拠は。


「エランさんは、髪の色が変わるんです」


「……なんて?」


「エランさんは、髪の色が変わるんです」


「……すまない、わかるように言ってくれないか」


 ルリーちゃんの言葉に、さすがの魔女さんも頭を抱えていた。

 なので、ルリーちゃんが言ったことを詳しく伝えることに。


 自分では最初気づいていなかったけど、私はどうやら極端に魔力が上昇すると髪の色が黒から白に変わること。それを見てエレガたちは、なんだそりゃっていう表情をしていたこと。

 それらを伝えた。


「エランさんがエレガたちと同じなら、彼らも同じく髪の色が変わると思うんです」


「だが、そんな雰囲気はなかった、と」


「はい」


 私の髪が変わったのを、あいつらは不思議そうに見ていた。

 あいつらも同じような現象が起こるならば、あんな反応にはならないはずだ。


 でも、実際には……


「そもそも髪の色が変わる、というのがよくわからないんだが。ここでみせてもらっていい?」


「いや、いきなりやれと言われましても……」


 魔力が昂ぶれば髪の色が変わる、とは言っても、実際にそうなのかはわからない。

 だって、魔力を高めるってことで言うなら、ゴルさんとの決闘のときとかもなってないとおかしいし。


 それに、あのときは……ただ魔力の昂りを感じるんじゃなくて、なにかもっと、別の感情も混じっていたような……


「しかし、黒髪が白い髪に、か。

 白髮黒目……あぁ、私もそうだな。だが、言っておくがこれは地毛だぞ?」


 魔女さんが、自分の髪をいじりながら話す。

 魔女さんも、白髮黒目だ。師匠と同じ顔で、髪の色と瞳の色はまったく違う。


 髪の色が変わってそうなったのではなく、元からそうだってことだ。


「今のところ、白髮黒目って魔女さんとフィルちゃんしか見たことないよねぇ」


「フィルちゃん?」


 突然出てきた知らない名前に、魔女さんが首を傾げる。

 なんとなくだけど、軽く説明する。フィルちゃんのこと。


 学園の敷地内にいた、小さな女の子。身内は見つからず、他に場所もないので私とノマちゃんの部屋に泊めていたこと。

 その子も白髮黒目で……その……


「私を、ママって呼ぶんだよね……」


「ママ……キミ、その年で……」


「違うよ!? 絶対に違うよ!?」


 フィルちゃんは私のことをママと言うけれど、私にはそう言われる原因がまったくわからない。

 私はもちろんフィルちゃんを生んでないし、そもそも年齢が合わないし、彼女とは初対面だし。


 なのに、なんで……知らない女の子にママと言われたこの気持ちはどう表現すればいいの!

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