472話 合流した後
結局、ラッへの記憶を戻すには師匠を見つけるのが一番の方法かも知れない、ということで話はまとまった。
同じくエルフである師匠なら、記憶喪失の治し方を知っているかもしれないからだ。
まあ、私たちの知らない情報を知っているかもという点では、長生きのエルフを探せばいい。これまでベルザ王国にエルフはいなかっ……あぁいや、いたなぁ。
師匠の弟子を名乗る学園教師。とはいえあの人、ちょっと苦手……
エルフなら国の外に出れば見つけられるかもしれない……あの人に頼るのは、最後の手段ってことで。
あと師匠が一番いいと思えるのは、ラッへと深い関係を持っているからだ。
問題は、師匠がいる場所にまったく心当たりがないことだけど。
「魔女さん。その変態的な力で、師匠の場所がわかったりしないの?」
「なんてことを言うんだキミは。そんなことができるなら、とっくにこの村なんて発っているに決まっているだろう」
なんてことを言うんだ、ってそういう意味かよ。そうじゃないんだよ。
どうやら魔女さんでも、師匠の場所がわかる方法はないらしい。まったく、あんなに師匠狂いならその方法くらいあってもいいのに。
まあ、あったらあったでドン引きだけどね。あと変態でいいんだ。
「師匠か、あの人以外の他にエルフを見つけることができれば」
そもそも私自身がちょっとした記憶喪失なのに、他の人の記憶喪失を治してあげたいなんておこがましいのかもしれない。
自分が記憶取り戻してないのに、他の人をなんて、ってね。まあ私は別に思い出したいとは思ってないけど。
なので、結局は人に頼るしかなくなる。
もしかしたらエルフ以外……ベルザ王国に戻れば、そういう知識に詳しい人がいるかもしれないし。
私が今まで記憶喪失について積極的に考えてこなかっただけで、探せばわりといるかもしれない。
うん、きっとそうだ。よし、そう考えたら、可能性は多いんだって思えてきた。
「エランさーん」
「あ、ルリーちゃんたちだ」
私の名前を呼ぶ声が聞こえると、声の先にはルリーちゃんが手を振って歩いてきていた。
先頭にはパピリ、その後ろにリーメイ。うさぎにニンギョにダークエルフ……なんともすごい組み合わせだ。
二人は、それぞれ両手にぎっしりと詰め込んだ袋を持っていた。ありゃあ、いっぱい入ってるなぁ。重そうだ。
私は駆け寄り、魔導の杖を使い魔法で袋を浮かせる。
「わっ! 袋が飛んでる! すごい!」
「ありがとうございます、エランさん」
「ありがトー!」
「ううん。でも、ルリーちゃんもこうして浮かせればよかったのに」
確かリーメイは、水の属性の魔法しか使えない。
でもルリーちゃんなら、ものを浮かせるなんて簡単なはずだけど……
「そうなんですけど……なんだか、手に持って運んでみたくて」
「……そっか。じゃあ、私余計なことしちゃったかな」
「いえ。エランさんたちと合流しましたし、ありがたく好意を受け取ります」
ルリーちゃんたちがなにを買ったのかはわからないけど、ルリーちゃんが選んだものなら間違いはないだろう。
とりあえず収納魔法で空間に収めておいて、また落ち着いた場所で整理するとしよう。
これで、ひとまず旅の支度は整えた感じかな。
「みんな、お疲れ様」
「はい」
こうしてみんなで村を回っていると、やっぱり平和っていいなあって思う。
みんな優しい人だし、ここには魔物なんかも出現しなさそうだ。
また来たいけど、さすがに遠いよなぁ。
でもまあ、クロガネに乗れば。ベルザ王国からここまで、道さえわかればすぐに来れるはずだ。
みんなと、一緒に来たいなぁ。
「じゃ、どうしよっか。家に戻る?」
「リー、あれ食べてみたイ!」
「私もー!」
必要なものは買い揃え、このあとどうするか。そういう話になると、リーメイが近くのお店を指差す。それにラッへも続く。
その先にあるのは……クレープ屋さんか。甘いもの好きだねぇ。
ま、私もだけどさ。
「それじゃ、あれ食べよっか」
「わーイ!」
と、クレープ屋さんに足を向けたその瞬間……
「ビジュエエエ!!」
「!」
私の耳に……どころか、この村全体に響くんじゃないかと思えるほどの声が、轟いた。
それは、このモンスターだらけの村では珍しくもない雄叫び……なわけない。
確かに、そこかしこで村人同士が鳴き声を上げていたりするけど、これはそういうのじゃない。
それに、聞き覚えがある。獰猛な、この鳴き声は……
「魔物……!?」
私はとっさに、上空を見る。
すると……視線の先には、単なるモンスターとは言えないほどに大きく、そして黒い生き物が飛んでいた。
間違いない、魔物だ。魔物独特の気配も感じるし。
魔大陸を出てから、魔物を見かけていなかったから油断してたけど……どこにだって、魔物が現れる危険性はある。
魔物は、モンスターが魔石を食べて生まれるものなのだから…………あれ? ここのモンスターがもし魔石を食べたら、魔物になっちゃうのか?
「って、そんなこと考えてる場合じゃないか……」
なんにしても、魔物が現れたなら対処しないわけにはいかない。
私は魔導の杖を抜いて、構えようとするけど……
私の視界に、誰かの手が伸ばされる。
それは、魔女さんのものだ。まるで、ここは自分に任せろと言っているような。
「まあ待て。ここは私に任せてくれないか」
そして、実際にそう言った。
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