467話 占ってみよう
「……占う? 私のこの先を?」
「あぁ」
エレガたちのいた部屋から戻る途中。
足を止めた魔女さんは、私に言う。
「一人でいろいろ抱えすぎているな。だから、占ってやろう」
「文脈おかしくない?」
「気にするな。私が占いたいと思ったから占いたいと言ってみたまでだ」
……この村の住人、パピリを始め自由な人が多いけど、魔女さんも大概だよな。
この人が大物なのかそうでないのか、たまにわからなくなる。
師匠と同じ顔をしているから、ちょっとバカっぽくも見える。
「おい、なにか失礼なことを考えているだろう」
「いぃえぇ、そんなことは」
「……」
魔女さんがじぃっと、私を見ていた。
けれど、やがてはぁ……と深いため息を漏らす。
「まあ、いい。
で、どうする? 自分で言うのもなんだが、私が自主的に占ってやろうなどほとんどないぞ。大抵は金品を要求するからな」
「本当に自分で言うのもなんだの内容だね」
ともかく、魔女さんはなぜだか私を占いたい気分らしい。
なにか私、魔女さんの気を引くようなことをしたかな?
「まあ、いいけど……別に、勝手に占えばいいんじゃない?」
「その者に関することを占う場合、本人の同意がある方がより鮮明に占うことができるんだ。
この村にいる奴らは全員がパピリみたいとまではいかなくても、似たりよったりでな……占いの面白みがないんだ」
それって要は、ただ私を占うのがおもしろそうだから占いたいだけじゃ……
いや、理由なんてそのくらいでいいのか。
まあ、断る理由もないし、いいんだけどさ。
「なら、早速やろうじゃないか」
私の同意を得た魔女さんは、気分を良くして近くの部屋に入っていく。
さっきまでこんな部屋あったかな?
続いて私も、部屋の中へと入る。
白い部屋で、なんていうか殺風景だ。私たちに用意されていた部屋のほうがまだ生活感がある。
「ここは私の部屋だ」
「へぇえ。
こんなところにあったなんて、気づかなかったよ」
「それはそうだろう。私の部屋は、私がそう念じた場所に現れるからな」
「……?」
ちょっとなに言ってるかわからない。
この家の中は、魔女さんの思いのままってことだろうか。だからこそエレガたちの拘束も外したんだろうし。
エレガたちが見えないところで悪さをしようとしたらどうするんだろう…と思ったけど、そこも対策してあるんだろうな。
「では、とりあえず座れ」
「座れって、部屋にはなにも……」
魔女さんに座るように促されるけど、部屋の中には椅子どころかなにもない。
すると、魔女さんが指をパチンと鳴らす。その直後、部屋の真ん中にテーブルと二つの椅子が出現する。
なるほど、こういうことね。
そして、テーブルの上には……
「水晶?」
「占いと言えば水晶だろう」
「そうなんだ」
一つの、球体があった。透明で、大きさは私の手のひらで掴めるかどうかってくらい。
なんか、魔導学園の魔力測定の魔導具を思い出すなぁ。
私とヨルが、それぞれ壊しちゃったんだよね。懐かしい。
「なにをにやにやしているんだ、気色悪い」
「ひどい!」
人が懐かしさに浸っているときに、その顔を気持ち悪いなんて!
とりあえず私は椅子に座り……正面に、魔女さんが座る。
水晶を挟んで、お互いに対面する形だ。
「よし、では占いを開始するとしようか」
「でも、この先のことを占うって……大雑把すぎない?」
「そうだなぁ」
私について、この先のことを占うなんて。
あれかな、この先良くないことが起きるとかアレコレしてればいいことが起こるとか、そういうのかな。
占いでどこまでわかるのかはわからないけど……昨日私たちがここに来ることはわかってたみたいだけど……あんまり、嫌な結果になっても嫌だしな。
……そういえば、占いって過去のことを知ったりはできないんだろうか。
いや、別に知りたいわけではないけれど。
「とりあえず、キミが無事元の国に帰れるかを占ってみようか」
「そんな感じでいいんだ?」
そんなこんなで、魔女さんの占いが始まる。
魔女さんは水晶に両手をかざして、水晶をじっと見つめている。私から見ても透明な水晶にはなにも見えないけど、魔女さんから見たらなにか見えているんだろうか。
それから魔女さんは、じっと水晶を睨みつけていた。
なにか言ってくれないかな……ちょっと怖いんだけど。
「ふむ……なるほど」
「な、なにかわかったの?」
「エラン・フィールド。キミの行く手には、凄まじい困難が待ち受けているようだ。
その困難を乗り越えたとき、新たに手に入るものがあるし……逆に、失うものもある」
魔女さんの言う、私のこの先。
それは……なんか、微妙に納得しにくい内容だ。この先に困難って、結局私はベルザ王国に帰れるのか?
それに、乗り越えて手に入るもの……失うものって、なんだよぅ。
「なんか、ぽやーっとしてない? 本人を前に占ったら、詳細が見えるんじゃないの」
「そのはずなんだが……なんだか、キミの未来は、ぼんやりとしか見えない。こんなことは初めてだ。
なら、ついでに過去も覗いてみようか」
おい、ついでで人の過去を見ようとするんじゃない。
占いの延長線で、その人の過去がどんな風だったかもみることができるらしい。
そして、魔女さんは水晶に手をかざして……
次の瞬間……水晶が、黒く染まっていく。
「! な、んだこれは……暗い……?」
「えっと……」
「キミの過去には、モヤのようなものがかかっている。未来以上に、なにも見ることができない」
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