468話 村を回って



 結局、占いの結果は『よくわからない』だった。

 未来のことはぼんやりとしか見えないし、過去のことはモヤのようなものがかかっているのだという。


 別に、占いの結果に期待していたわけじゃないけど……使えないなぁ。


「使えないなぁ」


「ぐぅ!」


 水晶を片付けていた魔女さんが、変な声を出して胸を押さえる。

 ありゃ、口に出ちゃってたか。


 私の言葉がまるで刃物のように、魔女さんの胸に突き刺さったわけだ。


「は、はは……無能扱いか……まあ、それも仕方のないことだ」


「いや、無能とまでは……でも、同じような意味か」


 とりあえず、エレガたちへの用事も済んだし魔女さんの占いも終わったし、みんなのところに行こう。

 なんかたいした成果を得られなかったな。


 さっさと行きたいところだけど、魔女さんがいないとまた道に迷いそうなので、片付けを待っておく。


「待たせたな」


 片付けと言っても、指パッチンでテーブルも椅子も水晶も消えたから、それほど待つ時間はなかったけど。


「この先のことも考えないといけないし、みんなと合流しないと」


「この村自体はそこまで広くはないし、なによりモンスターばかりの村では彼女らは目立つ。すぐに見つけられるだろう」


 魔女さんと一緒に部屋を出て、廊下を歩く。

 やっぱり魔女さんと一緒だとそう時間はかからず、最初の広間へ……そして扉を開けて外へ出る。


 外に出ると、いろんなモンスターが歩いて喋っている。

 昨夜温泉のために外に出た時は、もう暗くなっていることもあってかあんまりモンスターは見かけなかったけど……


「やっぱり、すごい光景だなぁ」


「そうか。私はもう慣れたが……外から来た者にとっては、そうかもな」


 外から来た私たちにとっては珍しくても、ここに住んでいる魔女さんからしたらこれが日常なのだ。

 いやぁ、すごい光景だよでも。


 私たちは、ルリーちゃんたちを探して歩き回る。

 こういうときこそ魔女さんの占いでわからないもんかと思ったけど、この程度で使うものではないと言い返された。


「ま、いっか。いろいろ見ながら探すのも、楽しそうだし」


 モンスターがしゃべって、会話している。これまでたくさんのモンスターを見てきたけど、意思疎通のできるモンスターなんていなかった。

 例外と言えば、使い魔関係にあるモンスターくらいだろう。


 使い魔と召喚者のみ、言葉が通じ合うし頭の中で会話することが、可能だ。

 だけど、ここにいるモンスターは違う。


「およ、ニンゲンがいる。おはよう!」


「お、おはよう」


 二足歩行の猫に、挨拶をされる。

 身長は私の腰ほどもないけど、元気な猫さんだ。


 このように、すれ違うモンスターみんなに挨拶をされる。

 みんないい人なんだろうなぁというのはなんとなくわかる。


 しばらく歩いていると、モンスターとは違った人影……

 つまりルリーちゃんたちを見つけた。


「おーい、みんなー」


「あ、エランさん!」


 手を振りみんなを呼ぶ私に気付いたルリーちゃんが、ささっと駆け寄ってくる。

 手には、なぜだかニンジンを持っていた。


「どうでした。なにか、有益な情報は聞けましたか?」


「いや、残念ながら。時間を無駄にしたよ」


「本当に彼らには辛辣ですね」


 苦笑いを浮かべるルリーちゃん。その、手に持っているニンジンが気になる。


「それは?」


「これは……パピリちゃんに、勧められて。おいしいですよ」


 ルリーちゃんはニンジンを、直接かじっていた。


「……あれ、お金は?」


「それは、問題ない。よそ者の人間にはサービスしておくよう、私が事前に伝えておいたからな」


 ニンジンを買ったということは、お金はどうしたのだろう。持ってないはず。

 その疑問に答えてくれるのは、魔女さんだ。


 どうやら知らないうちに、いろいろ気を遣ってくれていたらしい。

 占いの結果は散々だったけど、私たちのために動いてくれたのはありがたい。


「はい! エランちゃんもどうぞ!」


「え……いいの?」


 いつの間にか近くにいたパピリが、元気な声を出しながら手を差し出す。

 その手にはニンジンが握られていて、私のために用意してくれたのだろうことはわかった。


 私はありがたくニンジンを受け取り、かぶりつく。

 ルリーちゃんたちが食べているし、同じように食べれば問題はないさ。


「んっ、おいしい」


「でしょ!」


 かじったニンジンを咀嚼し飲み込むと、口の中いっぱいに甘みが広がる。

 こんなおいしいの、食べたことないよ。しかも、生で食べられるなんて。


 どうやらこの村では、食べ物がおいしいものが多い。

 魔女さんの出してくれた料理も多かったし。自然がしっかりしているってことか。


 それとも、育て方がいいのかな。


「食べ物がおいしいってだけでも、滞在するりゆうにはなるよね」


「もう少し、滞在しますか?」


「ううん、そのつもりはないけど……ちょっと、食料はわけてもらいまいなって」


 時間があるときならば、ゆっくり観光するのも悪くない。

 でも、今は……そこまで急いでいるわけではなくても、のんびりしている時間もない。


 この先に、なにか困難があるってことらしいけど……そんなぼんやりした未来、私が乗り越えてやる!

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