466話 カミ



「ダークエルフがこの世界で嫌われている原因、ね」


「そう」


「お前も知ってんだろ。ダークエルフはその昔、とんでもない大虐殺を起こした。だから今に渡って……」


「違う、そっちの話はしていない」


 なおもとぼけようとするエレガに、私は逃げ道を作らないように睨みつける。

 ダークエルフが昔したことは、知っている。世界のほとんどの種族を、虐殺したという話。


 けれど、そんなのは調べれば誰でもわかる話。

 私が知りたいのは、そのことじゃない。


「言ってたよね。ダークエルフが嫌われたりしてるのは、本能に刻み込まれているからだって。呪いみたいなものだって。

 それ、どういう意味?」


「……そのままの意味だが?」


「ごまかさないで。というか、私の言うことに素直に答えて」


 『絶対服従』の魔法は、聞いているはずだ。それでも、素直に話そうとしない。

 と、いうことは……こいつ、もしかして私が思っている以上に、事情を知らないな?


「もしかして、人々に刻まれた呪いをかけたのが誰なのか、どうしてそんなものがかけられたのか、知らないの?」


「……誰が、ってのは解釈次第だが……そういう呪いをかけたのは、いわゆる神だな」


「……カミ?」


 まったく知らない、ってわけでもないのか。

 それにしても、神ときたか。


「どういうこと? なんで神様が、そんな呪いをかけるの」


「知るかよ。ただ転生するときに、女神がそんなことを言ってただけだ。この世界のダークエルフはそういう呪いをかけられてるってな」


 エレガが嘘をついている様子はない……というか、『絶対服従』の魔法の前では嘘もつけない。

 だから、今話したことは真実なんだろうけど……


 またテンセイ、それにメガミか。ヨルも、そんなことを言っていたな。

 ……もしかしてあいつも、ダークエルフがそういう存在だって、知ってたのかな。


「あいつと話すのはあんまり、気が進まないけど……」


 ヨルは入学初日に絡まれて以来、いい印象を持っていないけど……

 少なくともエレガたちよりは、協力的に話をしてくれるはずだ。私だって、嫌がる相手を無理やり話をさせるのは心が痛む。


 なので、帰ったらヨルに話をしてみようかな。ダークエルフについて、なにか知っていることはないか。


「他に知ってることは、なさそうだね」


「ご期待に沿えなかったようで」


「まったくだよ」


 とりあえず、ダークエルフにそういう呪いをかけたのは、神様ってやつだとわかっただけでも、まあ良しとしようか。

 そんな存在がいるのかってのも、疑問ではあるけど……ま、どっちでもいいさ。


 どっちみち、呪いを誰がかけたかわかっても、そんなのはたいした問題じゃない。解き方がわからない限りどうしようもないんだし。


「戻ろっか、魔女さん」


「いいのか?」


「いいよ。期待して損した」


「すごい言いようだー」


 ルリーちゃんが、みんなに受け入れてもらうには……やっぱり、地道に頑張るしかないか。


 あのときは……あれだよ。クレアちゃんは混乱してて、ルリーちゃんをすぐに受け入れられなかっただけ。

 落ち着いて話をすれば、きっとわかってくれる。これまで仲良くしてきたのは、間違いなくルリーちゃんなんだから。


「ところで魔女さんは、ルリーちゃんがダークエルフだって知っても、なんとも思わないの?」


 部屋を後にして、廊下を歩く。

 その最中に、私は気になったことを聞く。


 魔女さんだけじゃない。ここに来るまで、ルリーちゃんを蔑んだりする人はいなかった。

 呪いとやらがかけられているなら、それはどういうことなのか。


「キミこそ、あのダークエルフとずいぶん仲がいいじゃないか」


「それは……私は、ダークエルフがどうとか、そういうことは全然知らなかったから」


「さっきの呪いの話が本当なら、ダークエルフの因縁を知っていようがいまいが、この世界の人間なら等しく呪いを発症すると思うがな」


「……」


 黙り込む私に、魔女さんは高らかに笑う。


「ま、いろいろと例外はあるさ。たとえば、エルフと懇意にしていた、とかな。エルフとダークエルフとはいえお同じエルフ族だ。

 エルフと接しているうちに、ダークエルフへの嫌悪がなくなっていたのかもしれない」


 それは……私や、ナタリアちゃんに当てはまる。

 私は師匠。ナタリアちゃんは、自分を助けてくれたというエルフ。そのエルフの"魔眼"をもらい、ナタリアちゃんは命を繋いだ。


 それなら……エルフと仲良くしてけば、いずれはダークエルフの扱いもよくなるんだろうか。

 元々、ダークエルフのとばっちりみたいな形でエルフは、姿を消した。だから、みんなエルフと関わることはなかった。


「じゃあ、ラッヘと……」


 みんなが、ここにいるエルフ……ラッヘと接しているうちに、ダークエルフへの嫌悪が薄れていく、ということはあるのだろうか。

 これは、どうしてもラッヘも一緒に帰らないと、いけなくなったな。


「って、さっきの話……魔女さんは、師匠と接したことがあるから?」


「そうかもな。

 ま、いろいろ考えているようだが、あまり気を張るな。せっかく休んだのに、根を詰めすぎると、また倒れてしまうぞ」


「それは……うん、気をつける」


 魔女さんの忠告を、聞く。確かに、考えすぎて倒れたら、元も子もないもんな。

 軽くため息を漏らす私を見て、だろうか。魔女さんが、私の顔を覗き込んだ。


「なんなら、占ってやろうか? キミの、この先を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る