465話 嫌われている種族



「ふはぁ、ごちそうさまでした」


 とりあえずは食事を終え、私は手を合わせる。

 テーブルの上に並べられていた皿は空になっていて、結構食べたなというのがわかる。


 料理はおいしかったし、品数もたくさんあった。お腹は満腹だし、満足だよ。


「はぁあ、おいしかったぁ」


「お気に召してくれたのなら、なによりだ」


 みんな、満足だと顔に書いてあるようだ。

 そんなみんなの反応を見て、魔女さんもまたまんざらでもなさそうだ。


 あれを魔女さんが作ったのかは、わからないけど……なんというか、師匠と同じ顔をしているから料理できそうなイメージがないんだよな。


「……なんだか、失礼なことを考えられている気がするが」


「えぇ? 気のせいですよぉ」


 ぬぬ、鋭いな。


「え、えーと。魔女さんに聞きたいことが」


「……なんだ?」


「エレガたちは、どこにいるの?」


 昨日、温泉から帰ってきてから見かけていないエレガたち。

 私たちは料理中に眠ってしまい、魔女さんに部屋に運ばれたわけだけど……エレガたちは、果たしてどうしたんだろう。


 別にあいつらのことを気に掛ける必要もないけど、聞きたいこともできたわけだし……

 いや、できたというか、今までいっぱいいっぱいでそういうタイミングがなかった、と言うべきか。


 だけどここなら、落ち着いて話をすることができると思う。



『そいつらは、ダークエルフに対する恐怖、おそれ……そういった感情を、刻み込まれているのさ』


ここに、本能ここに、ここに……ダークエルフを恐れろと、嫌えと、憎めと……!

 それが、今を生きる人間に刻み込まれた、性みたいなものだ!』



 ……あのときの言葉が、ずっと頭の中に残っている。

 エレガは、ダークエルフについてのなにかを知っている。それはきっと、ダークエルフ自身も知らないようなこと。


 ダークエルフへの、嫌悪感みたいなもの……それが、人間の奥底に刻まれていると。

 それはいったい、どういう意味なんだろう。


「えれ……あぁ、あの人間たちか」


「うん」


「あいつらなら、とりあえず適当な部屋に放り込んでおいたが……なんなんだ、あれは」


「まあ、いろいろあって」


 とにかく、エレガたちの居場所を教えてもらう。

 教えてもらうと言っても、この家の構造はよくわからないので、魔女さんの案内を受けてだ。


 ルリーちゃんは、連れて行かないほうがいいだろう。どんな言葉が飛び出すか、わからないし。

 ラッヘとリーメイも、ここに残ってもらおう。


「大丈夫なんですか? エランさんだけで、あいつらに会ってくるなんて」


「だけじゃないよ、魔女さんもいるし。それに、覚えてるでしょ。あいつらには、『絶対服従』の魔法がかかってるから、私には逆らえないんだよ」


「なにそれ怖。

 ……パピリ、三人に村でも案内してやれ」


「わかった! 行こう!」


 三人のことはパピリに任せ、私と魔女さんはエレガたちを放り込んだ部屋へと向かうことに。

 また妙ないたずらをされないか心配したけど……


「そう睨むなよ。なにもしないさ」


 その言葉通り、魔女さんはなにもすることなく、私は目的の部屋にたどり着いた。

 部屋の扉に手をかけて、ゆっくりと開く。


 部屋の中には、エレガたちがいた。手首と口を縛っていた、拘束が解かれた状態で。


「これは……」


「私が外しておいた。さすがにずっとあのままというのも、忍びないだろう」


 なぜ拘束が解けているのか……その疑問に答えるように、魔女さんが口を開いた。

 つまり、エレガたちの拘束は魔女さん自ら解いたってことだ。


 こいつらには『絶対服従』の魔法をかけてあるから、拘束を解いても派手に動くことはないだろうけど……

 それでも、万が一のことがある。なのに、なんで。


「そんな顔をするな。安心しろ、この家の中で妙なことなどできないさ」


「……」


 自分がどんな顔をしていたのかわからないけど、とにかく……大丈夫ということだ。

 四人を一つの部屋にまとめて、なにもないのだから……その言葉、信じていいんだろうか。


 というか、その言い方だといざとなれば私たちも、魔女さんの思いのままにできる、ってことなのでは……


「なんだよ、そんな怖い顔して。そんなに俺たちに合いたかったのか?」


「……減らず口は相変わらずみたいだね」


 エレガが、私を見てにやにやと笑っている。

 嫌な笑顔だなぁ。殴りたくなる。


 いやいや、落ち着け私。そのためにここに来たんじゃないだろう。


「お前たちに、聞きたいことがあってここに来たの」


「聞きたいことぉ?」


「ダークエルフが、この世界で人々に嫌われている、その理由。前に、気になることを言ってたよね。その言葉の意味を、知りたい」


「……」


 正直、こんなやつらに頼りたくはないけど……こいつらが、いろんな情報を持っていることは確かだ。

 デンチュウのことも、デンシャのことも。そして、ダークエルフのことも。


 なんで、とかそういうのは、今はどうでもいい。今後のために、私は聞かなきゃならない。


「『絶対服従』で強制的に言わせてもいいけど……できれば、私はあんまり乱暴なことはしたくないんだよね」


「どの口が。よく言うぜ」


 じっと……私と、エレガの視線が、ぶつかりあった。

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