461話 その理由は



 緊張の糸が解けたことで眠ってしまった私は、魔女さんに部屋に運ばれたようだ。

 平気なつもりでいたけど……魔大陸に飛ばされて、いろいろあって旅を続けてきてようやく落ち着ける場所に来たんだ。


 ずっと、どこか緊張の糸が張り詰めていたんだろうな。


「私のこと、ずっと見ていてくれたの?」


「聞きたいことがあるんだろう?」


 私を見てくれていた魔女さんは、やっぱり私の心を読んだかのようだ。確かに私は、魔女さんに聞きたいことがある。

 それをわかった上で、二人だけの空間を作ってくれたわけだ。


「時間はある。聞きたいことを聞くといいさ」


「……どうして、そんなに協力的なの?」


 私が言うのもなんだけど、ずいぶんと私に都合よくというか……望みを叶えてくれている感じがする。


「どうして、か。……新しい刺激をくれたから、かな」


「刺激?」


「あぁ。この村の連中は、あのバカうさぎみたいに愉快な奴ばかりでな。退屈はしない」


 またバカって言われてるよパピリ……

 パピリみたいに愉快な奴ばかりって……いや、さすがにあそこまで愉快なのはパピリだけだと思いたいけど。


「だが、やはり日常というのは慣れれば、当たり前になる。当たり前が続けば、刺激のある日々もなくなる。

 そこに来たのが、お前たちだ」


「私たち?」


「人間にエルフにダークエルフ、それに人魚。なんとも、揃えようと思っても揃わない種族の集まりに、久しぶりに胸が昂ってな」


「私たち別に、なにもしてないけど……」


「見ているだけで楽しいというものもある。それに、お前たちのおかげでいろいろと研究も捗りそうなんでな。

 だから、これは礼みたいなものだ」


 魔女さんの言葉に、嘘は感じられない。

 本当に、私たちのおかげで刺激がもらえたから、そのお礼として……ってことか。


 でも、ちょっと待って。


「研究が捗りそうって?」


 そういえば、意識が切れちゃう前、私にも利があるとかなんとか言ってたような……


「あぁ、この家の中に落ちたお前たちの髪の毛や、食事の際に食器に付着した唾液。それら諸々を採取したおかげで、いろいろとモチベーションが上がったということだ」


「髪の毛や唾液!?」


 この人なんかとんでもないこと今言わなかった!?

 私たちのその、いろいろなものでなにするつもりだよ!


 もしかして、温泉で着替えた服も……そういえば、脱いで袋に入れたものはどこに行ったのか。

 ……あまり考えないようにしよう。


「こほん。じゃあまあ、聞くけど……魔女さんは、グレイシア・フィールドって知ってる?」


「この世界に生きていて、その名を知らない者はいないだろう」


 魔女さんを見て、思ったのが……師匠と、同じ顔だということ。

 だから、思い切って本人に、師匠のことを知っているかを聞く。


 ただ今の聞き方だと、こういう答えになるか。師匠はすんごい魔導士で、しかもすんごい冒険者みたいだから。

 でも、私が聞きたいのは……


「どうして、師匠と同じ顔をしてるの?」


 普通に考えれば、師匠とは兄弟とか、血の繋がりがあるのかなって感じだけど……師匠はエルフで、この人は人間だからそれはないだろう。

 なら、どうしてか。他人の空似というには、似すぎている。


 髪と目の色が同じなら、判別がつかないかもしれない。

 や、長く一緒に師匠と暮らしていた私なら、つくと思うけどね!


「……なるほど」


 私の言葉の意味を理解してか、魔女さんはくくっと笑う。

 というか、言い直させなくてもわかっていただろうに。


 それから、うっすらと笑みを浮かべた。


「なぜ、気になる?」


「そりゃあ……気になるよ。

 グレイシア師匠は私の師匠だし、ラッヘは師匠の子供なんだよ」


「ほぉ、それは本当か」


 どうやら、私たちがここに来ることはわかっていても、私たちのことまではわかっていないらしい。

 いやまあ、会ってもない相手に自分のことを事細かに知られていたらもう恐怖でしかないけどさ。


 それから、私は軽く説明をする。

 私が師匠の弟子なこと、ラッヘは記憶を失っているから親である師匠と同じ顔を見ても反応がなかったこと。


 それを聞いて、魔女さんはふむふむとうなずいた。


「面白い種族の組み合わせだとは思っていたが、ますます面白いな。

 なら、お前とラッヘの顔がそっくりなのは?」


「それはわからないよ。でも、元々この『エラン』って名前はラッヘのものだったんだ。師匠は、その後ラッヘが死んだと思ったみたい。

 だから、そっくりな私に、娘の名前をつけたんじゃないかな」


「ほほぉ。その話だけで一夜語り尽くせそうだ」


 私と師匠とラッヘの話は……なかなかに、ややこしい。

 それを全部説明する気はないし、魔女さんも聞くつもりはないらしい。


 それから、自分の頬を指先で叩く。


「私とグレイシア・フィールドの顔がそっくりな理由、だったな」


「うん」


「それは、単純明快な話だ。

 私が、彼の顔そっくりに自分の顔を変えたからだ」


「なるほどぉ…………ん?」


 師匠と魔女さんの顔がそっくりな理由。それを、魔女さんは話す。

 それに、納得しそうになったけど……ちょっと待って。なんかおかしくなかった? 今おかしかったよね?


 なんか魔女さん今、すごいこと言わなかった?

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