458話 極楽極楽〜



 温泉にやってきた私たちは、ロテンブロとやらの湯に浸かった。

 はぁあ、疲れた体に染みわたるようだよ。


 ルリーちゃんも満足そうに、肩まで浸かっている。うんうん、嬉しそうでなにより……

 ……アレって、本当に浮くんだなぁ。


 べ、別にうらやましくないし! 動くときとか、邪魔になりそうだし別にいいし!


「わー!」


「待て待てー」


 少し離れたところでは、ラッヘが泳いでそれをリーメイが追いかけている。

 温かい水はニンギョ的にどうなのだろうと思ったけど、問題はないようだ。よかった。


 そして、頭にタオルを乗せて湯に浸かっているパピリ。


「気持ちいいねぇ」


「ですねぇ……」


「あ、ラッヘちゃん! タオルをお湯につけたらダメだよ!」


 こうして、のんびりとした時間を過ごすのも……いつぶりだろうか。

 魔大陸に飛ばされてから、どこかピリピリしていたところもあるから……こういうのは、久しぶりだ。


 他に人……いやモンスターもいないから、気兼ねなく入ることができるし。


「この広さなら、クロガネも……」


「それはさすがに……無理じゃないですかね」


「だよねぇ」


 いくらこの温泉が広いとは言っても、クロガネが浸かるのは……まあ、無理そうだよね。

 今度、体でも拭いてあげようかな。


「ところでパピリ」


「なあにエランちゃん!」


「あの魔女さんって……何者なの?」


 きゃっきゃとはしゃいでいるラッヘに注意を促しているラッヘに、私は聞く。

 あの魔女さんのことを。あの人は、何者なのかを。


 この村で一番偉いってことだし、あんな大きな家に住んでいるんだからかなりすごい人なんだろうってのはわかるけど。


「あの人はね、とてもいい人だよ!」


 ……バカうさぎ呼ばわりされていたけど、それはいいのだろうか。


「それに、ぼくが生まれた時からずっとここに住んでるんだよ!」


「じゃあ結構長いんだ……」


 まあそもそもパピリが何歳なのかわからないんだけどね。


「この村が危ない時も、占いで助けてくれたんだよ!」


「占いかぁ」


 魔女さんの占いってやつは、これから起こることだけでなく、なにが起こったか

……未来も過去も知ることができるみたいだ。

 そのおかげで、私たちがここに来ることもわかっていたと。


 師匠に似ていることはまあ……他人の空似って言葉もあるわけだし、あまり深くは考えなくてもいいのかな。


「それにね、すごい魔導士なんだよ! すごいんだよ!」


 本人が魔女って言ったり、指を鳴らしたらいろいろ出てきたからそうだとは思っていたけど……やっぱり、魔導士だったのかあの人。

 正直、魔力はそこまで感じなかった。そのあたりを歩いている一般人と、同等だ。


 人はみんな、魔力を持っている。

 魔導士は、魔力を認識し使えるか使えないかの差でしかない。


 だから、魔力の大きさで言ったら、魔法が使えないのだと思っても不思議はなかったけど……

 師匠は言ってたな。世の中には、自分で魔力を隠している人もいる、と。


 多分魔女さんは、そういう人だ。


「わー、ふわふわー!」


「きゃっ。もう、パピリちゃん」


 湯の上にぷかぷか浮いていたパピリは、ルリーちゃんに……というか浮いているルリーちゃんの胸に抱き着く。

 そこには下心はなく、ただただ甘えたいといった様子しかなかった。


 それを見て私は、なにも考えなかった。悔しくなんかないもん。


「なんだか、得体がしれませんもんねあの人」


「…………えっ、あぁうん、そうだね」


 ルリーちゃんはパピリを抱きしめ頭を撫でながら、私に言う。

 魔女さんには、なんだか余裕のようなものを感じられた。堂々としてて、なんだか私たちとは違う景色を見ているみたいな。


 この村に私たちが来ることを知っていたように、この先に起こることを知っているから、余裕が生まれているんだろうか。

 あの人のこと……なんか、私は知らなきゃいけない気がする。


 師匠と似ているからだろうか。それとも……白髮黒目の特徴の人間だからだろうか。

 フィルちゃんや……魔力が昂ったときの、私のように。


「え、エランさん! 体、洗いましょう?」


「え? うん、そうだね」


 このままずっとお湯に浸かってたいけど、体も洗わないとね。ルリーちゃんに続いて湯船から上がる。

 私たちを真似て、ラッヘとリーメイも湯船から上がる。


「その……お、お背中お流しします!」


「え、いいの?」


「はい! もちろんです!」


 なんか、ルリーちゃんの鼻息が荒い気がするけど……まあ、お任せすることにしよう。

 背中を洗ってもらうなんて……学園の大浴場でも、してもらったことはあるなぁ。代わりに、私も他の子の背中を洗ったりしたっけ。


 隣では、ラッヘの背中をリーメイが洗ってあげていた。見ていて微笑ましい二人だ。


「エランさん、力加減はどうですか?」


「んー、ちょうどいいよー」


 ルリーちゃんの力加減は絶妙で、このまま全身を任せてしまいたいくらいだ。前はさすがに恥ずかしいけど。

 それから交代して、私がルリーちゃんの背中を、ラッヘがリーメイの背中をそれぞれ洗った。


 ちなみに、パピリがうらやましそうに見ていたので、ルリーちゃんとの洗いっこを終えたあとにパピリと洗いっこをした。


「はぁ〜……極楽極楽〜」


 体をきれいに洗い流して、もう一度湯船に浸かる。

 これは……久しぶりのお風呂ということもあって、溶けてしまいそうだぁ。

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